俳優・坂口涼太郎(34)の初エッセー「今日も、ちゃ舞台の上でおどる」(講談社、1870円)が4日、発売された。芸能界きっての個性派俳優が文才をいかんなく発揮し、役者人生の転機や失敗談も赤裸々にしたためている。

自身の造語で、指針としている「らめ活」への思いや、コンプレックスとの向き合い方、読者に向けた願いを語った。(奥津 友希乃)

 トレードマークのおかっぱヘアに、目元にはラインストーンがきらめく。写真撮影が始まると、坂口はこちらが求める前から舞い踊るようにポーズを決め、カメラマンがシャッターを切るごとに振り付けを変えていく。何だか、ちょっとしたショーを見ているような気分になった。

 10代の頃から幾度も、本に救われてきた。書店は自身の“駆け込み寺”のような存在だったという。

 「悩んだり自暴自棄になったりすると、自分を回復させるための言葉を探して書店を練り歩く。私はその状態を『言葉のなまはげ化』って言ってるんだけど、ふと目に入った本を手に取ってはその中の言葉に浸り、洗浄され、復活し、を繰り返してきた」

 本は、もっぱら「読む専(=読む専門)だった」が、昨年4月からWEBでエッセーの連載を開始。ファッションや美容、社会問題、日常の失敗談などを親しみやすい関西弁でつづって人気を博し、書籍化が決定した。

 「まさか自分の話で本を出すなんて夢にも思わなかった。普段日記もつけないし、人生で初めて“書く”って行為をしてみましたけど、すごく楽しい。人生で起きたスペシャルなトピックから、友達と音信不通になった話とか自分の恥部まで書いている。

改めて文字にすると『自分、こう思ってたんや』『恥ずかしい!』『おもろいなあ』とか、いろんな感情が生まれましたね」

 つづられるどのエピソードも情景描写が秀逸で、独特のワードセンスも光り、文字が躍っているように映る。記者が気になったのは、「貯金がないのに引っ越しをしたくて物件を探している」というエピソードだ。

 「『バカだなあ、何で貯金しないの』と思ったでしょう?(笑)。でも、貯金ってしようと思ったことない。心のどこかで明日何が起きるか分からないから、我慢せずその時やりたいことをして、食べたいものを食べて、会いたい人に会う、それにお金を使うことに重きを置いてるんだと思う」

 俳優として自身の個性と葛藤し、スポットライトを浴びるまでの道のりも、赤裸々に記している。小学3年の時に観劇したミュージカル「キャッツ」に感銘を受け、ダンスを始めた。17歳で、俳優・森山未來の主演公演にダンサーとして出演し初舞台を経験。だが、俳優デビュー後はオーディションの落選が続いた。

 バイトを掛け持ちしていた当時、居酒屋が「耳にかかる髪形は禁止」だったために、現在のおかっぱヘアに。「案外しっくりきて、オーディションもすごく受かるようになった」。映画「ちはやふる」シリーズ(16~18年)で競技かるた部の“ヒョロくん”を演じ、原作漫画そっくりのビジュアルが話題に。知名度が急上昇した。

「当時は映画館でバイトしていて、『ちはやふる』のパンフレットを売っていたら『ヒョロくんじゃない? 本物?』ってお客さんがざわついていました」

 一度見たら忘れがたい個性的な顔立ちと、確かな演技力で存在感を増していった。強烈な個性と演じる役、助演的な立ち位置の折り合いを上手につけてブレイクしたのかと思いきや、自身の中には「坂口涼太郎エゴブーム」があったという。

 「現場で『そこに立ってて』と言われ、セリフもなくカメラが向く気配もなく、自分が背景画みたいに感じていた時があって。その場の役割よりも『私が私が、私を見て~!』って時期があった。でも、求められてないのに、too much(トゥーマッチ)に見せつけられるものって嫌じゃないですか(笑)。お芝居も全然うまくいかなくて失敗もいろいろありました」

 自身の“エゴブーム終焉(しゅうえん)”のきっかけは「らめ活」。坂口の造語で「あきらめ活動」の略だという。

 「この容姿と肉体、性格に生まれてきちゃったんだから、それをどう生かすのか、自分で見つけなきゃって20代後半でようやく気づいた。他人と比べることを諦めて、自分の色を知る。自分を明らかにしてじっくり見てみたら、コンプレックスに感じていたことも『意外と面白い、一つの魅力なのかも』と思えた」

 自分を見つめる作業は、勇気のいることでもある。それでも「らめ活」を続けるうちに、芝居でも肩の力が抜けていく感覚があった。

 「現場で無理して変に目立とうとしなくても、私がこの容姿で、この性格でその場にいることが一つの個性で特別なことかもしれないと思ったら、すごく楽になった。

監督や演出さんに求められていることを『は~い!』ってやる、それでいいじゃんって。無事にエゴブームは終わりを迎え、今はすごくすてきな経験をたくさんさせていただいている。めでたし、めでたし、ありがたやですよ」

 “らめ活”を続けた先の理想はあるのかと聞いた後で、愚問だとはっとした。「まあ、でも私、理想も諦めちゃったから」と大きく口を開けて笑い、「理想を大幅に超えた場所で生かしてもらっている感じがするのね。今は理想以上の人たちと作品を作ることができている状況に、ものすごい幸せを感じている」。

 全ての理想を手放しているわけではない。「今苦しんでいる人が、この本もそうだけど私を見かけた時に、ちょっとでも気持ちが楽になったり、『こんな恥ずかしい人もいるんだなあ、自分はまだまだ大丈夫』と一息ついて、お茶でも飲んでもらえたらいいな。そう思ってもらえるように、踊り続けたい」。坂口の表現は今日も誰かの心を躍らせ、そして救いにもなっている。

 ◆坂口 涼太郎(さかぐち・りょうたろう)1990年8月15日、兵庫県出身。34歳。2010年、映画「書道ガールズ! わたしたちの甲子園」で本格デビュー。

20年に出演した花王「アタックZERO」のCMでイケメン俳優ぞろいの中、強烈な個性を放ち“クセメン俳優”と話題に。主な作品はNHK「おちょやん」、映画「アンダーニンジャ」など。現在はフジテレビ系「愛の、がっこう。」にホスト役で出演中。

坂口涼太郎が選ぶおすすめ一冊

◆「さよなら私」みうらじゅん著(角川文庫)

 20代後半、自暴自棄になった時に出会い、救われた大切な本です。書店でタイトルにひかれて買って、自転車を立ちこぎして帰り、一気に読みました。「自分探し」をやめれば人生はもっと楽になる、そんなヒントになる言葉がたくさんつづられていて、ボロ雑巾のようだった私の心がどんどん漂白されていきました。

 よく“自己肯定”って言うけど、自分の全部を肯定しなくてもいい。イケてない部分があって当然だし、そこを自己認識して、「私、これできないんですけど助けてもらっていいですか?」って周りにお願いしてもいい。今の自分や居場所を豊かにするきっかけをもらった一冊です。後日、みうらさんと対面した際は仙人みたいで、自然と手を合わせて拝んでいました。(談)

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