今回の「夏の自由研究」は功労馬編。昨年の有馬記念を最後に、惜しまれつつ引退したディープボンドを取り上げる。

19年に初勝利を挙げ、20年には京都新聞杯で重賞初制覇となった京都競馬場で、誘導馬として5月3日にデビュー。今もファンに愛され続けている人気馬のセカンドキャリアを、水納愛美記者がリポートした。

 縁ある京都で、“第二の馬生”を歩み始めた。G2を4勝し、「プボくん」の愛称で親しまれてきたディープボンド。昨年の有馬記念(13着)を最後に引退し、今年5月3日には京都競馬場で誘導馬デビューを果たした。翌日は天皇賞・春での誘導で5年連続“出走”を達成。初勝利と京都新聞杯での重賞初制覇を挙げた地で、新たなチャレンジを行っている。

 現役時代は21~23年の天皇賞・春、21年有馬記念とG1で4度の2着。21年から2年連続で凱旋門賞に挑戦し、同年には前哨戦のフォワ賞・仏G2を制した。実力と人気を兼ね備えたアイドルホースだったが、今もなおファンから愛され続けている。現在、ディープボンドを担当する京都競馬場乗馬センターの惣田雄一さんは「逆に呪われそうなぐらい、お守りがたくさん届きます」と冗談を交えて話す。

 現在、京都は開催のない“夏休み”期間。

この時期、昨年までは涼しい地域で放牧されていたが、今は暑い京都で過ごさなければならない。疲労を考慮し、できる限り早朝に運動を終えている。開催中の誘導前日は、普段の運動に加えて実際の動線を歩く“予習”が必須。「乗馬センターで運動するのと向こう(誘導)に行くのが、同じぐらいの精神状態になるように」。一番の目的は平常心を保てるようにすることだ。

 惣田さんがまたがった第一印象は「競馬で見てる通り確かにズブい」。一方、馬体のバランスの良さや、精神面の芯の強さを感じ取ったという。競走馬時代の経験は今にも生きており、環境の変化にはすぐ対応。「海外に行っていることもあって、あまり動じない。入厩してから、エサを残したことは一回もないですね」と目を見張る。

 障害馬術にも挑み、先月13日は兵庫・三木ホースランドパークでRRC(引退競走馬杯)に出場した。惣田さんは「センスはある方だと思います」とほほ笑む。

競技会場には、現役時代からのファンも多く集結。「学生の頃から三木の試合に行っていますけど、あんなに人がいたことないです」と驚く。その集客力は唯一無二の武器。「馬術や乗馬の世界を知らない人たちでも、馬の力だけで(知識を)ゼロからイチにできる。馬事普及的にも、すごくいい効果を持っていそうですね」と、担う役割は大きい。

 今後も試合に出るプランはあるが、もちろん誘導が最優先。当面の目標は、前方誘導の回数を一回でも増やすことだ。馬を引き連れて歩く前方誘導は、後方誘導に比べて難易度が一気に上がる。ディープボンドも春に何度か挑んだが、やはり落ち着きを失って「別の馬になっていました(笑)」という。10月の京都開催が近付けば、誘導の練習を増やしていく予定。挑戦はまだ始まったばかりだ。(水納 愛美)

 再会できただけでも感無量

 ディープボンドのファンになったきっかけの一つが、21年有馬記念の最終追い切り。

伸びやかで雄大なフットワークに目を奪われた。だから今回の取材で、惣田さんから「一歩がめちゃくちゃ大きい。(馬術においては)ストライドは大きい方がいい」と聞いたときはうれしかった。私が感じていたディープボンドの魅力が生かされている、と感じたからだ。

 オフにのんびりしているのは、今も変わらない。洗い場や馬房での様子は、きょう5日に公開される馬トクYouTubeチャンネルの動画をぜひ見ていただきたい。惣田さんによれば、少年団の子供たちにもかわいがられており、「わちゃわちゃ顔を触られても、ぼーっとしてます」という。何てほほえましい光景だ。

 引退後に再会できただけでも感無量。加えて誘導や馬術などの挑戦の過程についても話を聞き、応援したい気持ちがより強くなった。ボンド、頑張ってね!(水納)

編集部おすすめ