人間国宝の中村梅玉(79)が、歌舞伎名作入門「仮名手本忠臣蔵 二段目・九段目」(9月5~27日、東京・新国立劇場中劇場)で加古川本蔵役に初役で挑戦する。一心不乱に歌舞伎の本道を歩んで69年。
穏やかな人柄で「歌舞伎界の良心」とも言われる梅玉。79歳にして初役に挑むことになり「役者は一生修業。それと同時にチャレンジ精神が必要。こういう機会をいただいて、ありがたい」と心を躍らせている。
演じる本蔵は、桃井若狭之助(中村鴈治郎)に仕える家老。図らずも自身の行動により塩冶判官の死を招いたことを後悔する。九段目では娘の小浪(中村玉太郎)と大星由良之助(鴈治郎)の息子・力弥(中村虎之介)の祝言が破談の危機に。娘の幸せを願い、自ら力弥に討たれる覚悟をして虚無僧姿で登場する。
大事にするのは「性根」だ。「『力弥に討たれる』という本心を悟られずに、敵役のつもりでけんかをふっかける。娘を思う家族愛も大事ですけど、武士である本蔵の身の引き方を表現したい。
女形の名優で、人間国宝だった父・6代目中村歌右衛門の「歌舞伎の本道を歩み、品格のある役者になりなさい」という教えを守ってきた。「若い頃はテレビにも出たかったけど、父は絶対に許さなかった。同世代の三之助が大人気で、劇場の楽屋口には出待ちのファンがたくさん。うらやましかった」と振り返る。
舞台に出演しても「親の七光り」と揶揄(やゆ)されたが、「性格がいたってのんきなんですよね。運命だと思って、流れに任せて、ほんわかと来てしまった」。それでも、役を演じる上では試行錯誤、悪戦苦闘の連続。二枚目を得意とする立役として頭角を現し、2022年には人間国宝に認定された。
5、6月の8代目尾上菊五郎(48)の襲名披露公演では、愛のある口上を述べた。「うちの娘と同級生。
映画「国宝」(李相日監督)の大ヒットで歌舞伎に注目が集まっている。人間国宝の一人として「素晴らしい伝統文化を後世に伝えていく担い手として責任を感じています」。役者仲間から慕われる人柄と熟練の品格ある芸で歌舞伎の魅力を発信していく。
◆莟玉に期待寄せる 〇…一般家庭出身の莟玉を部屋子として迎え入れ、19年には養子にした。「とにかく舞台に出ることが大好き。不器用ですけど、一生懸命にやっている努力だけは認めます。下品にならないところがいい」。莟玉は6代目歌右衛門と同じパンダ好きで「父も中国の北京まで見に行くほどパンダが大好きでした。
◆サザン&綾瀬はるかファン 〇…音楽を聴くことが趣味で、サザンオールスターズの大ファン。その中でもお気に入りは「いとしのエリー」だ。最近ではユニクロのテレビCMでもサザンの曲が使われ「桑田佳祐さんの歌声がいいですよね。CMに出ている綾瀬はるかさんのファンでもあるから、ユニクロも好きになりましたよ」と笑顔で語った。