◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 移り変わりが激しい芸能界。既存の常識に執着せず、意識をアップデートさせて活躍するひとりが、俳優の松重豊だ。

監督、脚本、主演(井之頭五郎役)を務めた「劇映画 孤独のグルメ」が1月に公開された。製作過程が令和の芸能界を象徴していると感じた。

 テレビ東京の深夜ドラマとして2012年に始まった「孤独のグルメ」はシーズン10まで続く人気番組に成長した。文句なしのキラーコンテンツだが、松重は危機感を募らせていた。「過去の成功体験を持ち込んで作品をつくっても時代遅れになる。何よりスタッフが育っていない」。その状況を見て「シーズン11、12と続けるのは難しい。それなら風呂敷を広げて映画化しよう」と企画をぶち上げた。

 映画化にあたり、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」などで知られるヒットメーカーの野木亜紀子氏にスタッフが脚本を依頼したが、松重は慌てて止めた。「テレ東の深夜ドラマ」ならではのB級感、庶民的な親しみやすさなど「孤独のグルメ」本来の味わいが失われると懸念したからだ。試行錯誤の末、作品を知り尽くした松重が監督、脚本を手掛けることになった。

 松重は「監督や脚本家の職域を荒らしたくないと思っていたけど、そんなことを言っている場合じゃない。

いろんな人が助け合っていかないと、日本のエンタメは沈んじゃう」と語る。切迫した思いが通じたのか、映画は興収10億円超のヒットを記録した。「国宝」の席巻が予想される今年度の映画賞レース。「―孤独のグルメ」がダークホースになるかもしれない。(芸能担当・有野博幸)

◆有野 博幸(ありの・ひろゆき) 2001年入社。映画・演劇担当キャップ。報知映画賞選考委員。

編集部おすすめ