◆第107回全国高校野球選手権大会第5日 ▽1回戦 聖隷クリストファー5-1明秀学園日立(9日・甲子園)
「異変」は試合開始30分前に気づいた。吹奏楽部やチアリーダーらが、一塁側アルプス席付近に到着していない。
「今どこ?」
「まだ京都。渋滞に巻き込まれた。あと1時間30分かかるかな」
「試合、終わるぞ!」
バス6台、約260人の応援部隊は、前夜の午後9時に出発予定だったが、ゲリラ豪雨の影響で30分遅れ、さらには高速道路で事故渋滞、お盆渋滞にも巻き込まれてしまった。
松本は腹をくくった。
「集大成を今こそ、見せるときが来たなって」
ベンチ入りできなかった野球部員が中心となって「口ラッパ」で応援を盛り上げた。アルプス席から一塁側内野席の観客にも、応援の協力を呼びかけた。
「僕らは県大会から『観客動員型応援』をテーマにやってきたんです。甲子園でも、やってみようと」
聖地の空に向かって、叫んだ。
「も、もり、もりあ、盛り上がりが足りない!」
2023年夏、全国の地方大会を席巻した応援「盛り上がりが足りない」だ。
「本家なんで、僕ら!」
明秀学園日立のサッカー部がSNSで拡散のきっかけになって、あの夏、日本中に拡大したプライドもある。この日、彼らのパッションに観客席も手拍子で応じた。
そして6回。応援部隊が到着した。力強い吹奏楽部の音色とチアリーダーのはつらつさに彩られ、一塁側アルプスに活気がみなぎった。松本の応援にもいっそう、熱がこもった。
「最高です。ベンチには入れなかったんですけど、自分たちの思いも背負ってメンバーの20人には頑張って欲しい。そんな気持ちでやっています」
熱い団長に、プロ注目の主将・能戸輝夢(3年)はこう感謝した。
「松本はとにかく元気がある。何事にも全力でやるんです。人間的にも、かなりできた人だと思います」
試合には敗れた。だがアルプス席の松本らはこの一戦の、「もう一つの主役」だった。