2022年に「百花」で監督デビューした川村元気氏(46)の3年ぶり2作目の監督作品「8番出口」が29日に初日を迎える。小説家としても活躍する川村氏が世界的に大ヒットした無限ループゲームを「キャリアの集大成」として実写映画化。

映画化を決めてからストーリーを発想する斬新な手法ながら、主演を快諾してくれた嵐・二宮和也(42)には「大失敗するかもしれないヤバそうな船に一緒に乗ってくれた」と感謝した。(有野 博幸)

 「普通じゃない映画の作り方から発明したいと思っていたんです」。そんな思いから川村氏は今作の映画化を企画した。「ゲーム自体にいいデザインがあって、シンプルなルールがある。そこに合わせて物語を考えたら、面白い映画の表現ができると思ったんです」。小説家としても活躍する川村氏ならではの発想だ。

 主演の二宮は企画段階から出演を決めてくれた。「映画化を決めてから、ストーリーを発想したんです。危なっかしいですよね。面白くなる断片はあったけど、大失敗する可能性もあった。極端にセリフが少なく、同じ地下通路が延々と続く。プロット(あらすじ)を見た段階で二宮さんは出演を決めてくれた。

彼は肝が据わっているんですよね」

 二宮の起用理由は2つある。1つ目は無類のゲーム好きということだ。「ゲームの映画化というより、ゲームと映画の境界があいまいな映画体験にしたかった。彼は撮影でカットがかかったら、すぐにゲームをする。お芝居をする自分とゲームをする自分をどう分けているんだろうと思うくらい、ゲームをしている。もはやゲームが体の一部になっている。そういう感覚って、普段からゲームをしている人にしか分からないので」

 もう1つは、俳優としての幅の広さだ。「映画『8番出口』は無個性、無感情の人が人間的になっていく物語。二宮さんは感情的なお芝居も、人間的じゃないお芝居もできる。クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』で黙々と穴を掘る場面があったんですけど、そんな一人芝居を見たかった」。撮影現場では二宮がアイデアを出す場面もあり、「主観的な視点と客観的な視点を共存していた。やっぱり、ただ者じゃない」と感心したという。

 二宮は23年に旧ジャニーズ事務所を退社して独立。その状況も意識した。「役者の背景をドキュメンタリー的に生かしたいと思っているんです。二宮さんは、独立した直後は前に進むのか、後ろに戻るのか、迷うことがあったと思うんです。それが役柄に重なりました」。何度も撮り直しても、二宮からは「これ、ちょっと分からない」などの質問は一切なかった。「いま自分がどこで何をしているのか、すごいスピードで察知する。ゲーム脳なんですよね」

 常に挑戦的な姿勢で映画と向き合ってきた。「担当した作品は結果的にヒットしてメジャーになっただけ。実はこれまでも間口が狭いところをくぐって作品を作ってきました」。現代はスマートフォンで気軽にエンタメを楽しめる時代。「スマホのコンテンツは分かりやすくないと、すぐ離脱されちゃうけど、映画館からすぐに出て行く人は、ほぼいない。

『8番出口』は先は分からないことが面白い。『?』がたくさんつくところがエンターテインメントの始まりだと思っています」

 5月の第78回カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門に出品され、ワールドプレミア上映された。二宮と一緒にレッドカーペットを歩き、「危なっかしいことに挑んで、面白い作品として成立させたというチャレンジに対するご褒美なのかな」と感慨に浸った。「僕は神経質なので、作っている段階では毎日、大失敗する悪夢を見ました。あまりにもギャンブルな企画。毎日、悪夢がループして、それも“8番出口的”な体験でした」と笑った。

 エンドロールには山田洋次監督、是枝裕和監督、李相日監督の名前もクレジットされている。「山田監督には3時間も打ち合わせをしていただき、セリフのアドバイスも頂きました。是枝監督からテーマ設定から決定的なアドバイスを、李監督からはキャラクターデザインで面白いアイデアを頂きました」。日本映画の巨匠から得たアイデアも生かし、胸を張って世界に発信できる作品を完成させた。

 ◆「8番出口」 世界で180万本超のヒットを記録したゲームを二宮和也の主演で実写映画化。無機質な地下鉄の地下通路を異変があれば引き返し、なければ進むのがルール。

正しければ8番出口に近付き、不正解だと0番出口に戻る。二宮演じる迷う男は、果たして無限ループの迷宮から抜け出すことができるのか。手に汗握る劇場サバイバル体験だ。小松菜奈、河内大和らも出演。95分。

 ◆川村 元気(かわむら・げんき)1979年3月12日、横浜市生まれ。46歳。2001年、東宝に入社。プロデューサーとして「告白」「悪人」「モテキ」「君の名は。」「怪物」などを担当。11年に史上最年少の32歳で藤本賞を受賞。22年に「百花」で監督デビューし、サンセバスチャン国際映画祭で日本人初の最優秀監督賞を受賞。東宝所属のクリエイターとして幅広く活動。

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