立命大水泳部のアーティスティックスイミング元世界ジュニア代表・種田なつは(スポーツ健康科学部3年)と、24年パリ五輪日本代表・島田綾乃(スポーツ健康科学部1年)がペアを組み、初めてのインカレ王座を狙う。日本学生選手権水泳競技大会アースティックスイミング競技・マーメイドカップは8月31日に神奈川・横浜国際プールで行われ、ふたりが「当面の一番の目標」と声をそろえる大学日本一のタイトルへ、幼い頃から培った強い絆(きずな)で挑む。

 約3年ぶりにペアを組んだ5月の第101回日本選手権水泳競技大会アースティックスイミング競技。デュエットのテクニカルルーティーン(TR)でふたりは「サイボーグ」のテーマに合わせて力強く、そして時折コミカルにプールの中を動き回り、ピタリとあった高さのある脚(あし)技も決めて、見事に初優勝を成し遂げた。「大会直前まで高難易度の練習に取り組み、それが結果にもつながった。でも、もっといい演技ができたかな…とも思う」と、振り返る種田。島田は「3年ぶりに(ペアを)組むことになり、最初はぎこちなさもあったけど、目標としていた日本選手権で優勝できて、ホッとしたのが実感」と喜びながらも、デュエットのフリールーティンでは4位、島田はソロのテクニカルであと一歩届かず、準優勝に終わったことなど、ふたりは次の課題を口にすることを忘れなかった。

 種田は地元の三重・松阪市で4歳の頃からスイミングスクールに通い、小野江小に進んでから、「何かとても楽しそうに思えて」アーティスティックスイミングに取り組み始めた。島田も地元の三重・鈴鹿市で幼い頃からスイミングスクールで4泳法を学んだが「新しい目標を探していた時に、シンクロナイズドスイミング(2018年からアーティスティックスイミングに呼称変更)の体験会に行って、一気に興味が湧いた」という。その体験会が行われた「みえA・S・C」(三重・鈴鹿市)で、種田が小学5年、島田が小学3年の時に出会い、立命大OGで96年アトランタ大会から五輪に3大会出場したメダリストの武田美保コーチとも、そこで運命的な出会いを果たした。

 「武田さんはその頃から怒りっぽくて…」と、ふたりは笑うが、基礎からの的確な演技指導や大会に臨むメンタル面のアドバイスには、今でも感謝する。「みえA・S・C」に入った頃は練習するグループが違ったが、やがてふたりを交えた4人が同じグループになった。「楽しいより、しんどかった」と、当時を思い起こす種田。島田も「演技構成に慣れてなくて、きつかった」。

平日は週に1度、練習は3時間。週末2度はその倍は水に入って、トレーニングを積む。しかし、いくら苦しくても、辞めようとは思わなかった。

 2018年12月、チェコで行われた世界大会(クリスマスプライズ2018)。ユース世代の発掘オーディションにふたりは臨み、小学6年だった島田は全国から集まった中からピックアップされた同大会の日本代表4選手の中に入った。パリ五輪で一緒だった2歳上の藤井萌夏(20)とデュエットを組み準優勝。「萌夏さんについて行くのが精一杯だった」というが、その後のアーティスティックスイミング人生の励みや自信につながったのは確かだ。その国内合宿には種田も参加している。「全国の人たちから刺激を受けて、もっとうまくならないと…」。レベルの高い同じような世代の演技を目の当たりにして、一段ギアが上がった。

 種田がセントヨゼフ女子学園高(三重・津市)に、島田が鈴鹿高に進んでいた2022年8月、カナダで開催されたFINA世界ジュニア選手権大会で、ふたりは圧巻の成績を残す。種田は8人で戦うチーム戦のテクニカル、フリーコンビネーションで優勝。

フリーでも銀メダルを獲得すれば、島田はチームテクニカル、フリーコンビネーションに加え、ミックスデュエットのテクニカル、フリーで4冠を達成し、チームフリーだけが準優勝。「(強豪の)ロシアの人たちの足の長さときれいさが、ずっと印象に残って」と、種田は世界レベルを体験した印象を口にする。世界のジュニア世代で頂点に立っても島田は「小学生の時もロシアの人たちを見たけど、その時からスケールの大きい演技を見て、まだまだだと自分を鼓舞してきた」と話す。これらのジュニア時代の活躍により、島田は高校生でマーメイドジャパンに選出された。24年2月のドーハでの世界水泳ではチームで銅メダルに輝き、同8月のパリ五輪では総合5位。2大会ぶりの表彰台には届かなかったが、高校生で得たオリンピックや世界大会での経験値は計り知れない。

 実は島田は左手の骨折を繰り返し、パリ五輪前にも痛めていた。演技の際に水の抵抗を受けながら、腕を大きく使うことも影響しているのだろう。「故障を完全に治して、今年1年間は日本代表の活動を辞退して、三重のクラブの活動で頑張り、じっくり国内戦でやろう…」そう決意した。そのため、立命大で種田が中学2年、島田が小学6年以来のペア結成が実現した。ふたりが立命大へ進学したのも、OGの武田コーチの影響が大きい。「進学で悩んでいた時、武田コーチに勧めてもらい、話を聞いて立命大にしようと思った」と種田。

日本代表での活動が東京中心だったため、島田は関東の大学進学も視野に入れていた。「でも、武田コーチに見てもらうことで、自分はスキルアップできるかなと…。三重で練習しても立命大なら学校に通える」と、ふたりの人生が大学で再び交わった。

 滋賀・草津で生活し、授業を終えるとJRの草津駅から柘植(つげ)駅を経由して亀山駅へ。そこで両親が待つ車で鈴鹿市にある「みえA・S・C」へ通う。片道2時間。約4時間の練習を終えて、最終電車で帰宅するのは日付が変わった零時30分。この生活が平日2度。週末2度は練習量がさらに増える。三重に行かない時は大学のジムで汗を流す。完全オフは週に1度、あるかないかだ。練習の中で特に時間が割かれるのが脚技。

呼吸を止めて40秒近くもぐり、脚をピタリとそろえて付け根付近まで見えるほど高く水上に出した状態を保持する。「もぐっていても腕で上がれるように、進む時も演技する時も脚技も腕がポイント」と、ふたりは強調する。ルールが毎年のように変わり、テクニカルルーティーン、フリールーティーンに加え、派手なアクションが組み込まれた「アクロバティック ルーティン」が追加され、さらにダイナミックなパフォーマンス性が重要視されるようになった。「どのクラブも難易度を上げてきて、上げ続けるのが大変で」と、種田は明かす。

 島田はクラブでは人数が少ないためチームが組めず、ジャンパーが高く飛び出して回転する「リフト技」で、飛び出す選手を持ち上げる練習がまだできていない。水が冷たく感じたり、握力も弱くなるなど、骨折した左手の状態もまだ万全ではないようだ。「8人が毎回、一緒の動きをするとは限らず、倒れてきたりすると支えないといけないし、いつもと違う動きをするとけがをしちゃいそう」と不安も口にする。来年の日本代表選考会は9月。「ロスが目標ではあるけど、ロスに行けなくてもその次(32年の豪州ブリスベン)でも24歳なので…」と、焦りは禁物と言い聞かす。

 だからこそ、間近に迫ったインカレではデュエットで日本一の座を取りたい。「必ず1位に」と種田。島田も「今はインカレで優勝したい」と力を込めた。

武田コーチが口酸っぱく言い続けた「同調性」や、日本が得意とする芸術性、表現力は誰にも負けない。「立命大生にぜひ応援してほしい。インカレ、優勝します」と、学生たちへ呼びかけた種田。島田も「インカレは配信もあるので注目して」とアピールした。息がぴったりと合ったふたりの素晴らしい出会いから節目の10年。大学女王の座は絶対に譲らない。

 ◆種田 なつは(たねだ・なつは)三重県出身。元世界ジュニア代表。小学生の頃からアーティスティックスインミング(AS)に取り組む。セントヨゼフ女子学園高から立命大スポーツ健康科学部へ進学。ASの魅力は「美しく芸樹的で、動きがそろうと見ていて気持ちがいいところ」という。他のスポーツ歴はなく、球技が不得意。

ASのプールは水深が3メートル、大きさは20メートル×25メートル以上の決まりがあり、デュエットではテクニカル(2分20秒)より、フリー(3分)の方が難しいそうだ。ハードな毎日の中で韓国ドラマを見るとリラックスできる。試合前の化粧は1時間かかり「あれで緊張感が高まり、いよいよだと気合が入る」そうだ。昨年のインカレはソロに出場して5位。1年の時、4年の熊谷日奈多とデュエット競技に出場している。卒業後の進路は競技を継続するか悩んでおり、水着の機能性を高めるメーカーへ進むことにも関心がある。身長158センチ。

 ◆島田 綾乃(しまだ・あやの)三重県出身。24年パリ五輪代表で5位入賞。ジュニア時代から数々の優勝経験や世界大会への出場経験がある。23年7月、福岡での世界選手権で銀。同10月、中国・杭州のアジア大会で銀。24年2月、ドーハでの世界水泳では銅メダルに輝く。ASは小学2年時に体験会に行ってから熱中した。鈴鹿高から立命大スポーツ健康科学部へ進学。今年は故障の影響で国内大会に専念している。インカレは初出場で「大学の試合は普段の試合よりも楽しそうに見える」という。演技の特徴について、種田は「上半身の見せ方がうまい。首も腕も長く、同じ動作でも大きく見える」と指摘する。ソロ、デュエット、チーム(8人)では全く違う競技くらい異なるそうだ。五輪はチームとデュエットしかなく、ASの魅力を「曲ごとにテーマが違い観客が楽しめる」と話す。五輪の金メダルが目標。他のスポーツ歴はなく、大学の友人と話している時が最もリラックスできる。身長165センチ。

編集部おすすめ