自転車ロード種目の日本代表チームは今、新しい指導体制の下で飛躍を目指している。今春から正式に清水裕輔氏(44)が、昨年8月に小橋勇利氏(30)がともにコーチに就任。

清水氏はエリートとU23カテゴリー、小橋氏はジュニアとU17カテゴリーを主に担当する。欧州留学の経験を持つ元プロ選手の両氏が今回、スポーツ報知のインタビューに応じ、ナショナルチームの強化育成方針や意気込みなどを語った。(協力・日本自転車競技連盟)

 ―就任要請を受けたときの正直な気持ちは?

 清水「しばらくコーチ不在だった経緯があったので、ほかにいい人がいなかったのか、というのが正直な感想。ただ、今まで単発で日本代表チームの遠征に同行したことがあり、『少しでも力になりたい』という気持ちになった」

 小橋「結構“攻めた”ことを言うと『やっと声がかかったか。私しかいないだろう』と思った。話をいただいた前年(2023年)にジュニアの全日本選手権で、指導していた選手がワンツーフィニッシュを飾った。決して全国トップレベルの才能を持った選手ではなかったのにワンツーを取れた。それは逆に、ほかの才能ある選手たちが良質なコーチングを受けられていないということ。だから、国として才能ある選手の強化が課題だと感じていて、自分が改善したいと心から思っていた」

 ―就任してからどんな活動を?

 清水「ロードレースの日本代表は、常に合宿を行っているわけではない。自分は直接的な指導というより、参加レースのプランニングや選手の招聘(しょうへい)を中心にやっている」

 ―海外にいる選手との連絡は?

 小橋「メッセンジャー・アプリを活用して、選手からの質問に対する回答をグループでシェアしてもらったり、読んでほしい記事などをシェアしてもらったりしている。強くなるために有効であろう情報をなるべく細かく共有してもらうよう、心掛けている」

 ―今年度の日本自転車競技連盟の強化育成計画(ロード種目)には『トラック中距離種目と連携を積極的に行うこと』とある。なぜ、トラック中距離種目との連携を?

 清水「世界のトップを見るとトラックとロードを併用している選手が多い。

日本のトラック選手は、国際大会でメダルを獲得するなど強化体制が整っていて世界で結果を残している。その力を借りながら協力すれば、必ずいい結果に結びつくのではないかと思う。中でも最近は中距離選手が強くなってきていて、多少のアップダウンがあるぐらいのロードレースではトラック選手がメダルを獲得している。もちろん、ロードレースだけで強くなった選手はいるが、日本のような限られた環境や試合のレベルでは強化が難しく、トラックと併用するのが効率がいい」

 ―『次世代の育成、タレント発掘作業を進める』ことも計画に掲げている。どんな方法を考えている?

 小橋「今はジュニア(17、18歳)のレベルが世界的に上がってきている。以前はU23からエリートへ上がる前にプロ契約できていればよかったが、今はジュニアを卒業したらプロになっていなければいけないぐらいになっている。ジュニアから有望選手を選考していては間に合わないので、12~15歳の間にタレントを見つけなければならない。今後コーチが増えれば、若い年代を対象にトレーニング方法を学ばせたりスキルを強化させたり、トライアウトだけでなく全般的な力を伸ばせるような合宿を行っていきたい。また、他競技からのパスウェー(道筋)も考えないといけない。次世代の育成と、自転車業界外からのタレント発掘の二つで進めていきたい」

 ―競技人口を増やすこともトップ選手の質を高めることにつながるだろう。何かプランは?

 清水「あくまで自分の考えだが、学校の授業に自転車を入れてもらえないかと思っている。日本のスポーツは学校を中心に発展してきた側面がある。

そこに少しでも自転車の活動が入ればいいなと。ほかに、国内には地域密着型のチームが結構あって、そこの選手が学校訪問で自転車安全講習などを行うのもいい。若いうちからスポーツ自転車に触れる機会を増やせれば、徐々に競技人口は増えていくはず。そういったことを推進していきたい」

 小橋「まだ机上の空論だが、全国各地で自転車教室を行い、技術をカリキュラム化するのはどうかと考えている。例えば、この年齢なら一本橋を渡れるようになりましょうとか、スラロームを何秒以内に走りましょうとか。分かりやすい、どこでもできるようなカリキュラムを組んで、1カ所ではなく全国各地の自動車教習所などでできるようにする。やはり強い選手を増やすためには母数を増やさないといけない。大変だけどやりたいことは、いっぱいある」

 ―来月の世界選手権(9月21~28日、ルワンダ)に向けての準備は?

 清水「今回は初めてのアフリカ大陸での開催。(疫病などの)予防接種など準備は大変だけど、いい結果を残せるように優秀なスタッフと段取りを進めている。選手は少数精鋭で各カテゴリーに1人、もしくはゼロ。全部で5人ぐらいで臨むつもり」

 ―世界のトップとの差は、どれぐらい? 例えば五輪で金メダルを取るのは、どれぐらい難しい?

 清水「あまりに難しくて、言いたくないところはある。ただ、針の穴に糸を通すのは難しいけど、できることではある。

それと同じように、できると思ってやっている。ジュニアやユース世代からきっちり強化育成をやっていければ、針の穴が大きくなるのではと感じている」

 ―現状での手応えは?

 清水「自分はディレクションが得意なので、強化体制を作っていくために周りの人への説明や、支援者を集めたりすることをイメージしてやっている。連盟の中で、いい横のつながりを作ってもらっているので、この状態を数年続けられればステップアップできると思う」

 小橋「少しずつでも前に進んでいると感じている。自分は選手時代にほかの選手よりも考えて1%でもよくなるなら惜しみなく実行してきた。その分、感覚ではなく思考した結果を伝えることができるのは自分の強みだと思っている。高い体の資質を持った選手に自分の経験や考えを伝えられれば、もっと高いところを目指せると思う」

 ―日本のロードレース競技は、どれぐらい伸びる余地がある?

 清水「中学生の頃からロードレースが好きで、ずっとこの世界を見てきている。昔はヨーロッパで活躍している日本人選手が少なくて、強くなるために何をしていいかわからず右往左往していた。でも、今は小橋コーチを中心に才能ある選手をちゃんと育てられる。ヨーロッパの環境になじめるように教育することを含めて、ユース年代からカリキュラムを組んでしっかり育てていけることに未来を感じている。才能豊かな選手を発掘して育てられればロードレースがメジャーになる可能性は十分あるし、新しいビジネスチャンスになり得ると期待している」

 ―欧州でプロとして活躍するために大切なことは?

 小橋「挑戦するための準備をすること。ヨーロッパに行ったから強くなれると思っていると失敗する。やはり日本での育成が重要で、競技力だけでなく精神状態を含めて自分がどういう選択をしなければいけないのかを考えられる能力を養うこと。

そのために、我々がしっかり育成してから送り出せる仕組みを作らなければいけない」

 ―日本のロードレース界を『こう変えたい』という野望はある?

 清水「一言で言うと『メジャースポーツにしたい』。ロードレースに限らず、自転車競技はすごく楽しいし、多種多様でいろんな楽しみ方ができる。みんなが楽しめる競技にしたいし、みんなが熱くなれるようなナショナルチームを作りたい」

 小橋「自転車競技のすばらしさ、中でも自分がやってきたロードレースの勝敗を超えたドラマの面白さを伝えたい。やはり、そこで日本人選手が戦う姿をみんな見たいはずなので、『世界で戦える日本のスタイルを確立させること』が自分の目標。そこにたどり着けるようにやっていきたい」

 ◆清水 裕輔(しみず・ゆうすけ)1981年3月25日、埼玉県さいたま市出身。44歳。久喜北陽高を卒業した99年にイタリアへ自転車留学。帰国後は2004年から2年間、チームブリヂストン・アンカーでプロ選手として活躍した。引退した06年から指導者に転向し、国内コンチネンタルチームの宇都宮ブリッツェン(14~22年)、JCLチーム右京(23年)などで監督を務めた。

 ◆小橋 勇利(こばし・ゆうり)1994年9月28日、北海道日高町生まれ、30歳。富川中卒業後に北海道から単身で愛媛県に移住し、松山工業高で自転車競技に打ち込んだ。同校1年の2010年にインターハイのロードレースで優勝。

卒業後はフランスに自転車留学し、同時期にU23日本代表としても活躍した。帰国後は国内コンチネンタルチームのシマノレーシングを経て16年に引退。21年から自身が設立したジュニア・ユース専門クラブ「HOKKAIDO ESPOIR PROJECT」で代表兼監督を務めている。

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