大相撲 ▽秋場所14日目(27日、東京・両国国技館)

 豊昇龍が横綱初優勝へ望みをつないだ。単独首位の横綱・大の里が、大関・琴桜の休場による不戦勝で13勝目を挙げた後の結びの一番。

関脇・若隆景をはたき込んで連敗を2で止め、12勝2敗で1差を守った。両横綱は千秋楽で直接対決が組まれた。大の里が勝てば、同じく昇進後の初賜杯となる2場所ぶり5度目の優勝が決まる。4場所ぶり3度目Vを目指す豊昇龍が勝てば、両者の優勝決定戦にもつれ込む。

 わずか0秒7。一瞬の決着に、館内がどよめきとため息に包まれた。豊昇龍は立ち合いで右に変化。突っ込んできた若隆景をいなし、はたき込んだ。西の花道を引き揚げる際も、支度部屋に戻っても表情は険しいまま。「今日は勝ちにいきました」と静かに語った。

 崖っぷちだった。勝ちっ放しの11連勝が一転、13日目から2連敗を喫した。

師匠の立浪親方(元小結・旭豊)によると、13日目の夜に腰痛を訴えたという。1差で追う大の里はこの日、対戦相手の琴桜の休場により不戦勝となった。「特に気にしてない」と心理面の影響は否定したが、負ければV逸が決まる重圧だった。

 横綱の立ち合いの変化は厳しい見方もされる。3日目の伯桜鵬戦は右に動いて上手投げ。ただ、八角理事長(元横綱・北勝海)は「必死さが伝わってきた。今日のお客さんには申し訳ないけど、横綱として初めての優勝がかかっている」と一定の理解を示した。NHK解説を務めた伊勢ケ浜親方(元横綱・照ノ富士)は「自分がどういう番付で相撲を取るかというのは、人それぞれ考え方が違う」と慎重に話した。

 なりふり構わず1勝をつかみ、千秋楽に望みをつなげた。1場所15日制が定着した1949年夏場所以降、1差での千秋楽の直接対決は過去7度。全て追う側が本割で勝ち、優勝決定戦に持ち込んでいる。大の里には6勝1敗(不戦敗除く)と合口もいい。

20年春場所の白鵬鶴竜以来、5年半ぶりに両横綱が賜杯を争う千秋楽。豊昇龍は「残り一番、しっかり集中して頑張りたい」。昇進4場所目の初優勝へ、覚悟をにじませた。(林 直史)

 ◆1差での千秋楽直接対決 千秋楽を1差で迎えて本割で直接対決があったのは、1場所15日制となった1949年5月場所以降では7例。全て追いかける力士が勝利し、優勝決定戦に持ち込んでいる。そのうち優勝決定戦でも勝利し、逆転で賜杯を抱いたのは4例。直近は23年春場所で3敗だった当時の霧馬山(現・霧島)が、2敗の大栄翔を本割で下し、決定戦でも大栄翔を退けて初優勝した。

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