ハートコンピューター 永井常務
「この仕事は運命だと思っている」。「七本槍」で知られる冨田酒造などの酒蔵が点在する滋賀県長浜市で生まれ育った永井友恵(ながい・ともえ)氏は、「幼い頃から酒蔵には特別な畏敬の念を抱いていた」という。1987年に創業したハートコンピューターは、酒造業に特化したシステムの企画、開発、販売、導入、保守を総合的に行うシステムベンダーだ。製造計画から詰口までを一括管理しながら酒税の申告・記帳義務機能をも備える「蔵内(くらうち)」、販売管理全般を担う「五合(はんじょう)」などを主力に、業界シェアNo.1を誇る。
顧客には、「人と人とのつながりに重きをおかれる方が多い」という。「IT関係で困ったときに頼りになるパソコン周りの『よろず屋』のような存在」として、導入後のサポートにも力を入れる。今期戦略には、「輸出支援」「ウェブ強化」「クラウド化の推進」の3本柱を掲げ、「これらを後押しすることで、顧客に利益をもたらす」としている。このほど完成した新社屋の一画には、ラウンジや会議機能を備えたスペースが設けられ、柔軟な発想を奨励する社風が垣間見られる。

ラウンジや会議機能を備えたスペース
輸出支援では、「申告業務や各国の制度などの情報とフォーマットを提供することで、輸出の障壁を下げる」ことを目指す。また、海外の酒類愛好家にアピールするプレゼン資料の提供サービスも視野に入れている。
ウェブ強化の第一歩として浮上したのはECサイト作成だったが、「参加者が蔵元と共に楽しめて、かつ次につながるリモート飲み会の支援もおもしろい」と、ノウハウを蓄積しつつアイデアを練っている。マーケティングオートメーションも活用しながら、業界のIT化を支援していく考えだ。
また、「クラウド化の推進によって、真の意味での働き方改革に貢献できる」と強調する。「杜氏や蔵人の高齢化が深刻化しているが、IoTの力を借りることで作業時間を軽減し、健康に働き続ける環境を整えられる。生活を大切にできるようになれば若手も継ぎやすい。また、酒造りの過程を数値化して可視化することで、上質な酒を生み出す技術承継もしやすくなる」。
とはいえ、「伝統的な酒造りを続けてきた方々の中には、電子化やITへの抵抗感が強い方も少なくない」。システム導入がもたらすプラスの変化を信じてもらえるまで、「ひたすら寄り添い続ける」決意だ。
自身の強みを尋ねると、「熱意だけは誰にも負けない。火傷しますよ」と笑う。
〈プロフィール〉ながい・ともえ 1989年聖泉短期大学商業経済学科卒業。2008年ハートコンピューター入社、2020年7月から常務執行役員に就任。出身地である滋賀県長浜市でパソコンインストラクターをしていた折に、同社の人材募集を知る。子育てを優先するためパート勤務に応募したが、正社員での採用となり、サポート部に配属。北海道から沖縄まで、全国の蔵元をくまなく訪ね、根気強く関係性を築いてきた。「お客さまと共に強く賢く」をモットーに邁進する。
〈酒類飲料日報2021年2月9日付〉