少子高齢化が急速に進む日本において、企業活動にほとんど使用されていない空き家や廃墟などの遊休不動産は増加し続けることが見込まれている。(国土交通省による

その中には、所有者や管理する自治体にとっては価値がない建物であっても、他の人にとっては大きな価値をもたらす物が数多く存在していると考えられる。

シェアリングエコノミーの発達により、モノを所有するのではなく、複数人で共有し、必要な時に利用するスタイルが広がっている。モノを「所有」から「利用」へ、このシェアリングの概念のもと、スペースシェアリングプラットフォーム「SPACEMARKET」を通して遊休不動産の課題解決を試みているのが株式会社スペースマーケット(以下、スペースマーケット )だ。

同社は、2019年11月15日に東京証券取引所マザーズ市場への新規上場が承認され、2019年12月20日に上場を果たした。

本記事では、同社のこれまでと今後の動向を紐解いていく。

競合と差をつけるべく展開する3つのサービス

同社は「チャレンジを生み出し、世の中を面白くする」のビジョンのもと、「世界中のあらゆるスペースをシェアできるプラットフォームを創る」をミッションとして掲げている。

あらゆるスペースを簡単に貸し借り出来るようにすることで人々がチャレンジする機会を増やし、世の中を面白くすることを目的に、遊休不動産などスペースの貸し借りプラットフォーム「SPACEMARKET」を運営している。

同社が運営するスペースシェアリングプラットフォーム事業は3つのサービスから成り立っている。

①SPACEMARKET
遊休不動産などスペースの貸し借りプラットフォーム。誰でもインターネット・スマートフォン上で簡単・手軽に時間単位でスペースを貸し借り出来るというサービス。2019年9月には、掲載スペースが11,900件を超えており、47都道府県全てをカバーしている。②SPACEMARKET EVENT
イベント主催者や幹事の課題解決を目指すサービス。イベント詳細ページの作成、参加者の募集・管理、会場予約、チケット作成・決済などを一貫して取り扱える。③SPACEMARKET BUSINESS
法人によるイベント企画・運営の支援サービス。
「SPACEMARKET」で貸し出されているスペースなどから会場を選定し、イベントの企画・プロデュース、当日の運営・ディレクションなどをワンストップで支援。

同社のプラットフォーム上では、ホスト(貸主)自身が独自のアピールや付加価値を施すことでスペースをより利用してもらえるようになる。ホストにとってはより多くのゲストに利用され評価が高まることが、スペースの貸し出しをより積極的に行う動機付けにもなるのだ。

また競合サービスとの差別化を図るために、年一回の大規模のホストコミュニティイベントに加え、小規模のコミュニティイベントを年に複数回開催し、ホストの満足度向上を促進している。

空間貸しプラットフォーム運営、同社のビジネスモデル

スペースシェア革命を巻き起こすスペースマーケットのIPOサマリー

スペースマーケットはプラットフォームサービスである「SPACEMARKET」、「SPACEMARKET EVENT」、法人ソリューションである「SPACEMARKET BUSINESS」でそれぞれのマネタイズを行っている。

「SPACEMARKET」は、スペース料金に応じた手数料を受領している。ゲストはスペースを利用した際に、スペース料金にゲスト手数料5%が加算された金額を、利用料金としてスペースマーケットに支払う。ゲストが支払ったスペース料金から、ホスト手数料として基本手数料30%を差し引いた金額をホストに支払っている。

「SPACEMARKET EVENT」は、サービスを利用し有料チケット販売した際のチケットの金額・枚数に応じた手数料を受領し、「SPACEMARKET BUSINESS」では、顧客からの要望に応じて個別に見積もりを行い、同社からの役務提供の完了に対して、対価の支払いを受けている。

設立6期目に黒字化達成。急成長するスペースマーケット

一般社団法人シェアリングエコノミー協会と株式会社情報通信総合研究所による共同調査によると、スペースマーケットの事業に関連する国内シェアリングエコノミーサービス市場規模は、2018年度は1兆8,874億円と推計されている。

現状のペースで成長した場合は、2030年度に5兆7,589億円に、シェアリングエコノミーの認知度や法制度の整備、トラブルの安全面における不安などの成長に向けた課題が解決した場合には、2030年度に2018年度の約6倍の11兆1,275億円に達すると予測されている。

このような市場の後押しもあり、安定的な成長が見込まれる。

下図は、同社経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標であるGMV(Gross Merchandise Value:総流通額)の推移だ。利用日を経過したゲストの利用料金を集計したものである。

スペースシェア革命を巻き起こすスペースマーケットのIPOサマリー

図からわかるようにGMVは年々成長しており、2019年9月期の時点で2018年の数値を超えている。GMVをさらに因数分解した、利用スペース数、利用スペースあたりのGMVもこの成長に伴って増加している。

売上高は堅調、純利益は黒字へ

スペースシェア革命を巻き起こすスペースマーケットのIPOサマリー

毎年60%前後で売上高は成長を続け、直近2019年9月期の時点で黒字化を達成している。もっとも、2018年12月期の赤字はCMを含む大規模マーケティング実施で販管費が膨らんだことが要因と考えられ、同社の成長可能性に関する説明資料によれば前期の時点で事実上損益分岐点に到達しているようである。

2019年1月にはワタナベエンターテインメントなどから総額約8.5億円の資金調達を実施。また、京急電鉄や東京メトロをはじめとする計38社との連携強化によって、同社の全社総取扱高は2019年9月期時点ですでに前期を上回っており、今後のさらなる成長が期待できる。

安全性は折り紙つき、B/S分析

スペースシェア革命を巻き起こすスペースマーケットのIPOサマリー

貸借対照表と主要な財務指標は上図となる。B/Sでまず見てもらいたいのが流動比率と自己資本比率だ。流動比率は一般的な目安として200%を超えていれば自己資本比率は30%を超えると優良企業といわれている。そんな中、流動比率は238.07%、自己資本比率は53.96%と高い数値を誇り、短期的にも、長期的に見ても、安定した経営が可能といえるだろう。

想定時価総額と主要株主

今回の想定発行価格は520円である。調達金額(吸収金額)は8.0億円(想定発行価格:520円 × OA含む公募・売出し株式数:1,543,900株)、想定時価総額は58.3億円(想定発行価格:520円 × 上場時発行済み株式総数:11,213,800株)となっている。

2019年12月20日、IPO初日の発行価格初値は1,306円、時価総額初値は146.45億円となった。

スペースシェア革命を巻き起こすスペースマーケットのIPOサマリー

株式所有比率は以上のようになっており、筆頭株主はスペースマーケットのCEOである重松大輔氏が34.85%である。続いてダブルパインズが12.79%で、オプトベンチャーズが運営するオプトベンチャーズ1号投資事業有限責任組合が10.64%となっている。

他にも、多くのVCが株を保有しているのが特徴といえる。

各ファンドのリターン予測は、オプトベンチャーズが約6.5億円、CA Startups Internet Fundが約4億円、みずほキャピタルが約1億円、XTech Venturesが約0.9億円、NTTドコモ・ベンチャーズが約0.9億円となっている。

 ※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考

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