アプリを簡単にブラウザで制作できるサービス「yappli」の提供を行う、株式会社ヤプリ(以下、ヤプリ)が東京証券取引所マザーズに上場承認を受けた。承認日は2020年11月13日で、同年12月22日に上場を果たす。
ヤプリは、経営理念に「Mobile Tech For All~モバイルテクノロジーで世の中をもっと便利に、もっと楽しく~」を掲げ、2013年2月にファストメディア株式会社として設立され、プログラミング不要でネイティブアプリ(注1)を開発・運用することができるクラウド型プラットフォーム「Yappliシステム」の企画・開発・販売を手がけている。2017年4月に社名をヤプリに変更し、設立からおよそ8年での上場となる。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
注1:スマートフォンやタブレットで動作するコンピュータ・プログラム
売上高は順調に増加、2019年度はオフィス移転と人員増加に伴い、純損失が拡大

売上高は2015年より成長を続けており、2018年12月期と2019年12月期において、それぞれ前年比約1.7倍に成長している。また、2020年12月期第3四半期において既に2019年度売上高の98.8%を達成しているため、さらなる成長が見込まれている。
一方、純利益はマイナスの計上が続いている。2019年度において純損失が拡大した背景には、人員増加に伴う人件費の増加、本社オフィス移転に伴う賃借料の増加に加えて、積極的に広告宣伝を実施したことが挙げられる。今後の純利益の黒字化が期待される。
アプリ運営プラットフォーム「Yappliシステム」の単一セグメント
同社は、アプリ運営プラットフォーム事業の単一セグメントである。提供サービスである「Yappliシステム」は、ノーコード(注2)でありながら、スクラッチ開発(注3)に劣らない40以上の機能を搭載している。主要な機能は以下の通りである。
①プッシュ配信機能配信タイミングと対象者の掛け合わせに基づき、プッシュ通知を送信できる。
②ポイントカード機能
APIにより顧客ポイントサービスと連携し、ポイントカードや会員証を表示することができる。
③スタンプカード
QRコードを読み取り、スタンプカードにスタンプを付与できる。
④エンベッド動画
アプリ内に動画を埋め込み、自動再生できる。
⑤電子書籍
商品カタログやルックブック、チラシなど、あらゆる紙媒体を配信できる。
⑥アプリ内課金機能
配信コンテンツに対して、毎月継続型の月額課金が実施できる。
⑦認証機能
事前登録しているメールアドレスとパスワードによって、ユーザー認証を実行できる。
注2:プログラミング不要
注3:特定のパッケージ製品のカスタマイズや機能追加などによらず、全ての要素を個別に最初から開発すること
「Yappliシステム」の3つのソリューション
「Yappliシステム」は、産業や業態にとらわれない様々な課題解決に対して、顕在化しているアプリの活用シーンに対する3つのソリューションをパッケージ化して提供している。
(1)Yappli for Marketing
顧客企業の販売促進や消費者のロイヤリティ向上、ECにおける効果的なモバイルインターフェイスの提供や実店舗とオンラインショップのハブとなることで、売上高を成長させるという明確なメリットを顧客企業に提供する。
オムニチャネル(注4)対応として、店頭のバーコードやQRコードを読み取りECサイトへ送客する機能や、O2O対応として、クーポン配信やショップ検索、ポイントカードなどでオンライン上から店舗や施設の集客を支援する機能を提供している。
②ECサイトへの集客支援
プッシュ通知やアプリのパーソナライズ化によって、ECサイトの集客を支援する最適なアプリを開発することを可能にしている。
③オウンドメディア
エンベッド動画(アプリ内自動再生)やポッドキャスト(音声などのデータ公開)、紙媒体のデジタルカタログ化により、オウンドメディアの運営を可能にしている。
④金融機関向けの支援
GPSを用いた支店やATMの検索、アプリ内で入金や出金状況を確認することが可能な残高照会機能を提供している。
注4:実店舗やECサイトをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合すること。また、統合販売チャネルの構築によって、どのような販売チャネルからも同じように商品を購入できる環境を実現すること
(2)Yappli for Company
商品・商材の紙カタログや社内報などの電子化や従業員の研修コンテンツをアプリ上で配信するなど、DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進支援を企業向けに行う。
紙のカタログや営業資料をアプリに集約させることで新商品の情報や仕様変更をリアルタイムに反映し、常に最新の情報を取引先へ届けることを可能にしている。
②スタッフ教育支援
全国の自社店舗や支店、フランチャイズ店に接客マニュアルや研修動画を配信することで、スタッフの接客スキルの向上やサービス品質の標準化に貢献している。
③バックオフィス支援
採用、総務、IRなどバックオフィス業務に関するニュースやコンテンツをアプリで配信することで、必要な情報をタイムリーに対象者に配信することを可能にしている。
(3)その他のソリューション
①学校支援学生手帳や学内掲示板の情報をアプリを通じて電子化し、各学生に応じた最適な情報配信を可能にしている。

契約アプリ件数、ダウンロード数、月額利用料割合全てが右肩上がり
「Yappliシステム」は1アプリ1契約としており、主な収入源は3つで、導入時に初期制作サポートを実施した対価として受領する「初期制作収入」、「Yappliシステム利用料」、保守運営料として毎月受領する「月額利用料」で構成されている。
重要な経営指標は契約アプリ件数、月次解約率、月額利用料割合の3つを設定している。
「Yappliシステム」の直近5年間の契約アプリ件数と累計アプリダウンロード数、月次解約率、月額利用料割合は以下の通り。




「Yappliシステム」の機能性や利便性が顧客企業から評価され、2020年9月末時点で「Yappliシステム」の契約アプリ件数は527件、累計アプリダウンロード数はおよそ6,500万ダウンロードと順調に推移している。また、月次解約率は、2016年12月期から1%未満を継続している。
DXの加速とIT人材不足のなかで「Yappliシステム」の需要は一層高まる
情報通信技術の進化によって、インターネットの利用は社会全体に浸透しDXが進みつつある。富士キメラ総研の2020デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望(2020年9月)によれば、国内DX市場規模は、2030年度に3.0兆円に到達すると予測されている。しかし一方で、日本は他国と比較すると人口に対するIT技術者の割合が低く、経済産業省の平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備ーIT人材需給に関する調査ー(2019年3月)によると、デジタル化を下支えするIT人材の供給は年々不足が拡大していくと予測されている。
総務省の令和元年版情報通信白書(2019年7月)によると、携帯通信端末は従来型のフィーチャーフォンからスマートフォンに変化しており、わずか10年足らずで、加速度的に普及していることがわかる。2021年には、世界のスマートフォン市場規模は3,233億ドルになり、年間出荷台数は15.1億台にまで拡大すると推計されている。
また、App Annie Japanのアプリ市場予測2017-2022年版(2018年5月)によると、スマートフォンが普及したことで日常の様々な場面でアプリが使われるようになり、2017年に年間1,780.9億ダウンロードであったアプリのダウンロード数は、2022年には2,581.5億ダウンロードへと増加することが見込まれている。
国内のDXが加速する一方で、IT人材の不足は拡大することが予見される背景のもと、国内のSaaS市場は益々拡大し、あわせてスマートフォンアプリの必要性も継続的に拡大することが予見されている。このような市場環境の中で、ノーコードでアプリを簡単に開発・運用することができる「Yappliシステム」の重要性は益々高まっていくと同社は考えている。
今後の成長の鍵は、機能開発によるターゲット市場の深耕と開拓
同社はスマートフォンアプリを開発するプラットフォームを提供しており、その分野におけるリーディングカンパニーである。「Yappliシステム」を通じて、全ての企業に対してアプリのテクノロジーを開放していく方針だ。
経営戦略は以下4つを掲げている。
①機能開発を通じたターゲット業界の深耕・拡大②API・SDKによる外部サービスとの接続
③データの活用
④海外への挑戦
現在、「Yappli for Marketing」は衣服や雑貨、日用品などを取り扱うグローバルブランド、専門店、百貨店、総合スーパー、EC専門店などの小売業態、外食チェーンなどの業態での導入が進んでいる。また、「Yappli for Company」は、DXを推進する企業で導入が進んでいる。
今後、さらなる機能開発を行うことで、既に顧客ニーズが顕在化している市場における深耕と、未開拓の市場におけるターゲット業界の拡大を実施する方針だ。
事業上の対処するべき課題として以下2点をあげている。
①サービスプロダクトの強化②利益及びキャッシュ・フローの創出
同社は優秀な人材の確保と人材の継続的な育成、付加価値の高い企業との提携やM&Aの実施などによって、システムの自動化・安定性・拡張性などの強化に取り組む方針だ。
また、「Yappliシステム」強化のための開発活動や認知度向上のためのマーケティング活動への投資を通じて、中長期的な利益及びキャッシュ・フローの最大化に努めるとしている。
VCを中心に7回の資金調達を実施し、累計37億8,200万円を調達

これまで、7回の資金調達を行い、累計で37億8,200万円の資金調達を実施したことがわかる。
出資元には、YJキャピタルやグロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グロービス・キャピタル・パートナーズ、SMBCベンチャーキャピタル、Eight Roads Ventures JapanといったVCが多いことがわかる。
その他、セールスフォース・ドットコムやマッキンゼー出身でエンジェル投資家の川田尚吾氏を引受先とする第三者割当増資や、みずほ銀行、りそな銀行、日本政策金融公庫からの融資も行っている。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2020年12月22日を予定しており、上場する市場は東京証券取引所マザーズとしている。
今回の想定価格は、2,960円である。調達金額(吸収金額)は、164.9億円(想定発行価格:2,960円×OA含む公募・売出し株式数:5,572,000株)、想定時価総額は345.2億円(想定発行価格:2,960円×上場時発行済株式総数:11,663,600株)となっている。
公開価格:3,160円初値:5,240円(公募価格比+2,080円 65.8%)
時価総額初値:611.17億円
※追記:2020年12月22日(上場日)

筆頭株主は、同社代表取締役である庵原保文氏と同社取締役の佐野将史氏であり、全体の18.72%ずつ所有している。次いでYJキャピタルが運営するYJ1号投資事業組合が16.76%、Eight Roads Ventures Japanが運営するEight Roads Ventures Japan Ⅱ L.P.が9.04%を保有している。
そのほか、グロービス・キャピタル・パートナーズが運営するグロービス4号ファンド投資事業有限責任組合、Globis Fund Ⅳ, L.P.やセールスフォース・ドットコム、伊藤忠テクノロジーベンチャーズが運営するテクノロジーベンチャーズ投資事業有限責任組合、同社取締役である黒田真澄氏、新株予約権信託の受託者である原田智法氏が名を連ねている。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考