建設業に特化した図面管理・情報共有システム「SPIDERPLUS」などを提供する株式会社スパイダープラス(以下、スパイダープラス)が東京証券取引所マザーズに上場承認された。上場承認日は2021年2月24日で、同年3月30日に上場を果たす。
スパイダープラスは、1997年9月に熱絶縁工事を営む個人事業、伊藤工業として創業。その後、2001年にケイ・ファクトリーへ組織変更、2012年にレゴリスへ商号変更し、2020年11月にスパイダープラスへ商号変更を行った。
同社は、『私たちは、“働く”にもっと「楽しい」を創造します。』をミッションに、顧客の課題を解決する喜びや楽しさを通じて、仕事にもっと夢中になれる世の中を作り続けていくことを目標としている。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
売上高は3年間で約3倍に成長、営業利益も約2倍に増加

営業利益についても、2020年12月は前年比の1.75倍へと増加している。
2020年12月期は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、新規商談獲得方法を従前の展示会からデジタルマーケティング中心の方法へシフトした。今後は、マーケティング活動費用として広告宣伝費を投下し、継続的に新規商談獲得のための先行投資を実施するとしている。今後一定期間については、黒字化よりも売上高成長率を重視して経営していく方針だ。
建設市場においてふたつのセグメントを展開
同社はICT事業とエンジニアリング事業のふたつのセグメントを展開している。
(1)ICT事業建設業の現場業務において、DXによって生産性向上を図るSaaSを開発・販売し、総合建設業及び電気・空調設備業に対して建築図面・現場管理アプリ「SPIDERPLUS」を提供している。
「SPIDERPLUS」は、タブレットやスマートフォン上で図面管理や進捗管理を行い、建設現場のペーパーレス化や業務の効率化を図ることができるサービス。IDひとつにつき月額利用料を払うサブスクリプションモデルである。利用者へのフォローアップ体制も強化しており、契約社数に対する2020年12月期の月次平均解約率は0.6%と低い水準となっている。(2)エンジニアリング事業
創業期より熱絶縁工事を中心に運営している。ガラス繊維でできたグラスウールなどの断熱材の他に、難燃性、耐湿性、圧縮クリープ特性(注1)の高い「アーマフレックス」を取り扱っている。

企業の根幹となっているICT事業

また、エンジニアリング事業において建設現場で熱絶縁工事を直接従事することは、建設現場の情報をタイムリーに把握することになり、建設現場のニーズの発掘に貢献している。ICT事業と密な情報共有を図ることで、「SPIDERPLUS」の実務への落とし込みを図る方針だ。
「SPIDERPLUS」の積み上がり指数をKPIとする
同社は「SPIDERPLUS」の月額利用料の積み上がり状況の指標であるARRの拡大を経営上の目標としている。そして、その達成状況を判断する上で、MRR(注2)、ID数、導入社数を重要な指標に定めている。
同社の経営上の目標、重要指数の推移は以下の通りである。




同社は、MRRを高めていくためにはID数、契約社数を増やしていくことが重要であるとしている。
注2:毎月経常的に得られる「SPIDERPLUS」の月額利用料の合計額
今後の成長の鍵は、技術力の強化と人材の確保
同社は事業上および財務上の取り組むべき課題として、以下の5つを挙げている。
①優秀な人材の確保と育成②技術力、製品力の向上
③営業力の強化
④内部管理体制の強化
⑤認知度の向上、ブランドの確立
ICT事業において、事業を確実に成長につなげるためには技術面、サービス面において一層の差別化が要求されている。AIや各検査における測定機器を取り入れた検査記録の自動入力などの研究開発体制の強化を図るとしている。また、エンジニアリング事業においては、取扱い製品である「アーマフレックス」の施工品質を向上させるため、教育環境の強化に努めるとしている。
市場での存在感を高めていくためには、一層の認知度や信頼感の向上が必要であるとし、ICT事業においてはテレビCMやWeb広告を通じたオンラインマーケティングの強化、エンジニアリング事業においては施工品質を強化することでサービスの品質向上、既存顧客の満足度の向上を行い、業界シェアを獲得していく方針だ。
急速な事業環境の変化に適応し、継続的な成長を維持していくために、内部管理体制の強化、バックオフィス機能を拡充、人的基盤の強化も図るとしている。
7回の資金調達を実施し、累計5億9,390万円を調達

これまで7回の資金調達を実施し、累計で5億9,390万円を調達していることがわかる。
出資元には、大和企業投資、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタル、足利銀行、SMBCベンチャーキャピタル、アイテック阪急阪神、村商、CHIYOMARU STUDIOなど複数の事業会社とベンチャーキャピタルからの出資を受けている。
その他、同社代表取締役CEOの伊藤謙自氏、取締役CBOの鈴木雅人氏、取締役CTOの増田寛雄氏、執行役員の野田隆正氏が出資している。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2021年3月30日を予定しており、上場する市場は東証マザーズとしている。野村証券が主幹事を務める。
今回の想定価格は、1,010円である。調達金額(吸収金額)は88.7億円(想定発行価格:1,010円×OA含む公募・売出し株式数:8,791,900株)、想定時価総額は、321.2億円(想定発行価格:1,010円×上場時発行済株式総数:31,808,100株)となっている。
初値:1,722円(公募価格比+562円 +48.4%)
時価総額初値:547.73億円
※追記:2021年3月30日(上場日)

その他、取締役や執行役員、顧問社会保険労務士など、同社関係者が保有していることが特徴である。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考