IT化が進み、様々なものが合理化され、便利になる一方で、人とのつながりを感じられる瞬間は減っている。

そんな現代だからこそ、日頃の「小さなありがとう」の気持ちに添えて、Web上でeギフトを贈ることができるサービス「giftee」を立ち上げたのが株式会社ギフティ(以下、ギフティ)だ。

eギフトを活用した法人ソリューションを提供する「giftee for Business」や、従来は紙またはカードで発行されていた各種地域通貨(注1)を、電子化し流通させる「Welcome! STAMP」など次々とサービスを展開してきた。ギフトで、「人と人」「人と企業」「人とまち」をつなぐことに尽力してきたギフティが、2019年8月16日に上場申請が正式承認され、同年9月20日に東証マザーズへ上場を果たす。

ギフトの可能性を信じている彼らは、今後どのような成長をしていくのだろうか。本記事ではIPO時の公開情報をもとに、ギフティについて紐解いていく。

(注1)地域における消費促進と相互扶助のための、地域限定の通貨や商品券

ギフトでつなぐ「eギフトプラットフォーム事業」

ギフティは、”GIFTEE MALAYSIA SDN. BHD.”を連結子会社にもち、「ギフトで、『人と人』 『人と企業』『人とまち』をつないでいく。」をミッションに掲げ、SNSやLINE、メールで贈ることができるソーシャルギフトであるeギフトのプラットフォーム事業を展開している。

メールやチャット、SNSといったスマートフォン上でのコミュニケーションが増加する中で、そうしたコミュニケーションをより豊かにすることを目指す。 

ギフティはミッションを実現する為に、主に4つのサービスを提供している。

①個人ユーザーがWebでeギフトを購入することができる「giftee」
 
②法人がキャンペーンなどでの利用を目的にeギフトを購入することができる「giftee for Business」
 
③eギフト発行企業(飲食店・小売店など)がeギフトの生成・流通・販売・決済・実績管理を行うことができるSaaS『eGift System』
 
④地域通貨の電子化ソリューションを提供する地域通貨サービス「Welcome! STAMP」

これら全体を「eギフトプラットフォーム事業」と定義して、eギフトの生成・流通・販売を一気通貫で行っている。 

toBとtoC 、双方からの収益源を確保するビジネスモデル

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

ギフティの収益源は大きく3つある。

①「giftee」にてeギフトを個人に販売した場合、当該eギフトの発行企業から、当該eギフトの販売手数料を受領している。
 
②「giftee for Business」を利用する法人から、eギフトの発行手数料を受領すると共に、当該eギフトの発行企業から、当該eギフトの販売手数料を受領している。
 
③「eGift System」を導入した企業、「Welcome! STAMP」を導入した地域通貨の発行主体より、システム利用料を受領している。 

eギフト市場の拡大に伴うサービスの成長

eギフト市場の未来は明るい。近年スマートフォンが急速に普及しており、個人の消費行動の多くがスマートフォンの経由で行われるようになっている。これにより「2019年版商品券・ギフト券/eギフト市場の実態と展望」によれば、eギフトの市場規模は2019年に1,529億円、2020年に1,896億円、2021年に2,105億円、2022年に2,247億円、2023年に2,492億円と年々拡大することが見込まれている。

この環境下において「giftee」は2011年3月にサービスを提供して以降、着実に会員数を伸ばし、2019年6月末には125万人に達している。

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

「giftee for Business」は、法人がキャンペーンなどで自社のユーザーにギフトを付与する際に利用可能なサービスである。ギフティが展開している4つのサービスの中でもっとも高い売上高を誇っている。

2016年4月にサービスを提供して以降、着実に利用企業数を伸ばしており、2019年1月から6月までの期間の累計サービス利用企業数は371社、eギフト流通額は14億円となっている。「giftee for Business」の成長は、2018年12月期の売上高、当期純利益が大幅に増加している一つの要因だ。

さらにeギフト管理のSaaSの 「eGift System」は、2014年1月にサービスを提供して以降、着実に導入企業数を伸ばし、利用企業数は70社、利用継続率は98.6%となっている(2019年6月末時点)。 

各サービスの販売実績でもサービスの成長が見受けられる。

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

第9期(2018年1月~2018年12月)と第10期第2四半期(2019年1月~2019年6月)累計での売上高を比較すると、「giftee for Business」はすでに前期を超えている。「giftee」は前期の7割を超えた。4サービス合計の売上高も前期の7割を超えており、2019年12月期の業績予想によると17億円を越えるとされている。

eギフト総流通額は2018年12月期には約35億円となり、それぞれのサービスも成長していることは一目瞭然である。

「giftee for Business」が牽引。
売上高と当期純利益の推移

KPIとして、売上高及び各サービスの利用企業数(または会員数)を重視し、取引先への提供価値を最大化するために、eギフト発行企業及び利用企業の開拓を進めている。

利用企業・発行企業双方におけるメリットはふたつある。

①eギフト利用企業が選択できるギフトの増加
 
②eギフト発行企業の流通先の増大

このふたつを高め、プラットフォームとしての地位を確固たるものとし、成長性や収益性を向上させることを目指している。 

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

ギフティの業績は、2015年から急速な拡大をはじめ、2017年から2018年にかけては売上高が2倍以上に拡大。2016年12月期で売上高は減少しているが、これは決算期の変更に伴うもので、右肩上がりに売り上げは成長している。

純利益はというと、2018年にかかった販売費および一般管理費が2017年より2倍増えているにも関わらず、2017年から2018年にかけて約870倍という成長を見せている。

2019年も上半期だけで売上8.7億円へと成長し、当期純利益は約2.1億円にまで達している。前述したとおり、2019年12月期の業績予想によると売上高は17億円、当期純利益は3.5億円を越えるとされており、今後も成長が見込めている。

2018年12月期の売上高、当期純利益の大幅な増加は、「eGift System」の導入企業増加と、「giftee for Business」の取引が順調に増加したことによるもの。

「giftee for Business」では2017年8月から、法人がeギフトのURLをお客様に送信する際に活用できるキャンペーンツールである 『Giftee Campaign Platform』サービスの提供を開始した。法人の公式SNSアカウントを登録すると個人のSNSアカウントにeギフトを自動的に付与する仕組みや、アンケートに回答すると抽選に応募でき、当選した個人のみにeギフトを付与する仕組みなど、法人がキャンペーンをより効率的に実施することが可能になり、『giftee for Business』の利用企業数を増加させてきた。

今後も事業規模の拡大及び収益基盤の強化のため、eギフトプラットフォームを活用したポイントサービスや決済サービスなどの新サービスの提供を検討している。

それらの新サービスが展開されると、人材の採用やシステム開発などの追加的な投資が発生し、安定的な収益を生み出すには時間を要することが見込まれる。また、新サービスに係るシステム開発が想定通り進捗できない場合や、新規事業の展開が当初の計画通りに進まない場合には、減損損失の計上が必要となるなど、投資を回収できなくなる可能性があり、今後の投資が来期の決算に影響しそうだ。

高成長を見せるギフティの財務指標は?

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

収益性の指標のROEに注目する。日本経済新聞の記事によると、2014年に経済産業省が「企業は8%より高いROEを目指すべき」と発表した。また、投資家が企業を選ぶ際にはROEを重視し、8%を超えた企業の株価は上昇に勢いが付く場合が多いという。ギフティの場合、11.2%であり、高い数値を誇っていると言える。

安定性の指標では、流動比率が約246%、自己資本比率が62%と企業として安定していることがわかる。ただ今後、大きな投資や新規事業を行う場合、安全性の指標がどのように動くのかが難しいところだ。

成長性の指標を見ると、売上高成長率約226%、当期純利益伸び率約2238%であり、著しい成長を見せていることがわかる。安定かつ高成長を実現した経営を同社は行なっていると言える。

想定時価総額とIPO時株主構成

今回の想定発行価格は1,250円である。調達金額(吸収金額)は63.1億円(想定発行価格:1,250円 × OA含む公募・売出し株式数:5,049,300株)、想定時価総額は約310.4億円(想定発行価格:1,250円 × 上場時発行済み株式総数:24,831,000株)となっている。

”eギフト”で感謝を伝えるギフティのIPO分析

上位株主は上記である。代表取締役である太田睦氏が19.79%を保持し、KDDIとグローバル・ブレイン(ファンド運営者)と続く。

国内外の有望なベンチャー企業に投資を行うCVCであるKDDI Open Innovation Fund 2号が13.58%保持している。

VCのリターン予測は、KDDI Open Innovation Fund 1号、2号運営のグローバル・ブレインが合計約53億円、ジャフコが約41億円と見込まれる。

今後の事業戦略

同社が今後取っていく事業戦略は大きく3つある。ひとつ目は認知向上のためのプロモーション活動。ふたつ目は新規ビジネスの創出。みっつ目は海外展開である。

プロモーションは、積極的な広報活動に加え、インターネットを活用したマーケティング・広告活動、大手企業との提携などによる認知向上に取り組んでいく。

新規事業の創出に関しては、eギフトプラットフォームを活用し、ポイントサービスや決済サービスなどの新サービスの提供を検討しており、今後も事業規模の拡大及び収益基盤の強化のため、新サービスもしくは新規事業の展開に積極的に取り組み、収益ポートフォリオの最適化を目指す。

海外展開に関しては、マレーシアに子会社を有しており、収益基盤拡大のため、今後も海外へのサービス展開を推進していく予定だ。海外での事業展開においては、予期しない法律などの制定や政治・経済・社会情勢の悪化、文化・宗教・ユーザー嗜好・商慣習の違い、為替相場の変動などの潜在リスクが存在するため、これらの潜在リスクに対処できるよう慎重に検討して展開していく。 

これらの戦略には大きな投資が必要となり、今後の決算に大きく影響を及ぼす可能性がある。さらに、eギフト市場が年々拡大していくことが予測されているため、 新たなビジネスモデルの登場や、予期せぬ要因によって市場拡大が阻害されるような状況が生じた場合、競争力や優位性を保つことが難しくなる可能性があり、このリスクとどう向き合っていくかがさらなる成長ができるかの鍵となるだろう。

※本記事のグラフ、及び表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考にSTARTUP DB編集部にて作成いたしました。

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