2025年5月17日(土)から、2回目の「東京建築祭」が開催される。初開催のときよりもエリアを拡大し、見学できる建築やイベントなどもバリエーションに富ませたという。
そもそも「東京建築祭」とは? 2回目の開催は初回とどう違う?
「建築から、ひとを感じる、まちを知る」が、東京建築祭のモットーだ。「普段は入れない場所や、知らなかったエピソードに触れ、 建築を楽しみ、やまちに親しむ祭典」と公式サイトには書かれている。

東京建築祭2025 公式サイトのTOP画面
関西エリアで実績があった建築祭が、2024年に、東京で初めて開催された。そのときには、筆者もくまなく取材をさせてもらった。どの会場に行っても東京建築祭のパンフレットを持った人で長蛇の列ができていたが、その列は整然としていた。待つ人の顔はこれから見る建築への期待に輝いていた。
実行委員長・倉方俊輔(大阪公立大学教授)さんに、延べ6万5000人が参加した初回の東京建築祭について振り返ってもらった。
「東京建築祭が重視しているのは、来場者数という数字ではなく、参加した皆さまの楽しみです。昨年は、初年度にもかかわらず、多くの方が予想以上に自然な形で建築に触れて、街の風景を変えてくれました。それが何よりの手応えでした」
こうした状況を受けて、2回目の東京建築祭が開催されることになった。
さて、建築祭に参加して楽しむ方法としては、主に2パターンがある。ひとつは、通常は非公開のエリアが公開される「特別公開」の建物を見学するパターン。
2回目の東京建築祭の概要は以下のとおり。今回は、エリアや公開対象を拡大したという。
■東京建築祭2025開催概要
2025年5月17日(土)~25日(日) ※5月24日・25日が特別公開・特別展示の主要開催日
・特別公開・特別展示:43件
・ガイドツアー:85コース※申込抽選終了にて、空きのある場合は先着順にて受付
その他、トークイベントや交流会など、さまざまなイベント企画あり
「東京建築祭2025」は開催エリアを上野から品川方面まで広げ、公開建築のラインナップも拡充
初回(2024年)は、東京駅周辺(日本橋・京橋、大手町・丸の内・有楽町、銀座・築地)エリアで開催したが、2025年はさらに上野・湯島・本郷、神田・九段、港区エリアも加え、開催エリアが大幅に拡大された。「エリアの性格がつながっているか、交通機関で移動しやすいかなど、東京で暮らす人々の実感を重視して決めた」(倉方さん)という。
それに伴い、公開対象数も増加している。実行委員会が多方面にコンタクトを取り、理念に賛同して自発的に参加してくれた建築が新たに加わった。その結果、大学キャンパスや博物館、美術館などの文化施設や近代和風建築などが新たに対象になったことが今回の特徴だ。
倉方さんによると、実は、東京の都心は日本で一番大学が多く、伝統のある建築物が残されていることが多いという。また、昭和初期までの近代の和風建築は、意匠的にも技術的にも優れている。レトロ建築に限らず、戦後の現代建築や和風近代建築も含めてラインナップを楽しめるのも、東京建築祭ならでは、とのこと。
また、初開催でありながら平均倍率が10倍を超えるほど好評だった「ガイドツアー」の総数を増やしたのも、2025年の特徴だ。多くの人に建築を体験してもらいたいものの、建築内部に入れる人数に限界があることから、同じ建物でもガイドツアーの開催回数を増やすなどの工夫もされている。
昨今の物価高のなかでも、ガイドツアーの参加費は3000円が基本(入館料や食事がつく場合などは別途上乗せあり)で、2025年も値上げはしなかった。本来は無料で開催したいのだが、公開に伴うさまざまなコストがかかるので、最低限の費用を参加者に負担してもらうという考え方だからだ。
「東京建築祭」をどう楽しむ? 例えば、慶應義塾大学の場合
倉方さんへの取材は、慶應義塾大学の三田キャンパス内で行った。というのも、倉方さんが新たな公開建築を視察する工程の途中に時間をいただいたからだ。待ち合わせたのは、国の重要文化財で通常非公開の三田演説館。外観は、一見すると土蔵か?と思うような印象だ。

三田演説館・外観(撮影:内海明啓)
ここで集合して、慶應義塾福澤研究センター 准教授の都倉武之(とくら・たけゆき)さん、福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館の横山寛(よこやま・ひろし)さんのご案内で、視察が進んだ。

三田演説館・演台から出入口方向(撮影:内海明啓)
この場所は、東京建築祭2025では「特別公開」の会場になる。倉方さんに「三田演説館という特別公開をどう楽しめるのか?」を聞いた。知識量の多い倉方さんの話を抜粋、要約すると、以下のようになる。
「日本で最初の演説会堂が建てられたのは、明治8年。
こうした建築に関することだけでなく、建築それぞれのストーリーにも意味がある。江戸時代の序列のようなものがなく、みんなが同じ空間に集まり、スピーチを聞いて、その場で議論する場所をつくった。つまり、民主主義を促進し、人間が主役となる空間を提供した“福澤諭吉のビジョン”の大きさを感じることもできる。まさに、“生きた建築”の魅力を感じてほしい」ということだった。

演壇の上には福澤諭吉の像が飾られている(撮影:内海明啓)
なるほど、筆者のように「普段見られないところを見られた」と満足することをゴールとしては不十分かもしれない。当時の時代背景を理解し、それをつくらせた施主のこと、それを設計した人のこと、つくった職人のこと、さらには現存に至るまで継承したり維持修復したりする人のことに、思いをはせるというのも楽しみ方のひとつなのだ。
「東京建築祭の建築が入口となって、そこからいろいろな人の物語や場所の物語に到達できるのが建築の良さ」であり、「時代背景などを理解して見ると見方が変わるし、一方で見てから調べるという相乗効果もある」ということなので、楽しみ方は人それぞれ多様にあるようだ。
なお、慶應義塾大学には、もうひとつ、国の重要文化財の建築がある。曾禰達蔵(そね・たつぞう)・中條精一郎(ちゅうじょう・せいいちろう)の設計によるゴシック様式の図書館旧館(現在はその一部が「福澤諭吉記念 慶應義塾史展示館」になっている)だ。関東大震災や戦時中の米軍による空襲で大きな被害が出たが、そのたびに修復を重ねて建物は守られてきた。

美しい外観の図書館旧館では「特別展示」が行われる(撮影:内海明啓)
普段も入館できる場所だが、東京建築祭の期間中は、2階の展示室に設計図面などを公開するので、建築好きには楽しめるだろう。展示室には、三田キャンパスの関東大震災前の模型が展示されていて、その当時は、図書館旧館と塾監局の中間に、三田演説館が位置していたことが分かる(その後、現在の場所に移築)。三田演説館に行った際には、ぜひ図書館旧館にも立ち寄ってほしい。

2階の展示室(撮影:内海明啓)
筆者がオススメする、東京建築祭の楽しみ方
さて、倉方さんに「ぜひ見ておきたい建築を挙げてほしい」とお願いしたら、「ガイドツアーや特別公開のすべてが見どころ」と返されてしまった。「参加者自身が自分なりの目線で、気軽に楽しんでほしい」という。
そこで筆者から、前回の東京建築祭のガイドツアーや特別公開の様子をレポートした記事を紹介しよう。これらの記事を見れば、建築祭とはどういったものか、イメージが湧くだろう。
○「東京建築祭」レポート。名建築の意外な裏側など12件の詳細や参加者の声まで、特別公開プログラムを追体験! 来年の予習にも
○【東京建築祭】「教文館・聖書館ビル」アントニン・レーモンドの戦前の名建築ガイドツアーに潜入レポート! 文人に愛されたモダニズム建築を追体験 東京都・銀座
ガイドツアーは、ガイドがその場でいろいろな説明をしてくれるので、それだけでも楽しめるのだが、申込締め切りはすでに終了した(4月20日まで。
※先着順で、東京建築祭キックオフイベント招待(5月15日まで)やほかのリターンがある
特別公開には説明してくれるガイドはいないが、YouTubeやオーディオガイドによる解説が提供される。公式サイトや東京建築祭のX(旧 Twitter)などで確認しよう。オーディオガイドは、事前に学習したりその場で聞いたりして、建築ごとの見どころを理解したうえで、見学するとよいだろう。
それから、東京建築祭ならではと思った楽しみ方がもうひとつある。東京建築祭期間中には、大勢のボランティアスタッフがサポートしている。前回の取材時にスタッフの何人かと話をしたが、やはり建築好きが多かった。「ボランティアスタッフには、理念の共有や心構え、具体的な動き方について事前に丁寧に説明し、ただの運営スタッフではなく、東京建築祭という独特な場の魅力を来場者に伝える役割を担っていただいています。来場者の皆さんには、スタッフとも積極的に交流しながら、東京建築祭を一緒に楽しんでいただきたいです」(倉方さん)
さて、記事をいつ公開するかで編集部とかなり悩んだ。ガイドツアーの申し込みに間に合わせたい気持ちもある一方で、開催開始に近い日程で公開したほうが、建築祭を始めて知って行ってみようという初心者に多く届くだろうという思いもあったからだ。最終的に、ガイドツアーの申し込みには間に合わない日程での記事公開となってしまったが、特別公開にぜひ足を運んで建築祭を楽しんでほしい。
●関連サイト
東京建築祭公式サイト
「東京建築祭」クラウドファンディングのサイト
「東京建築祭」公式X(旧 Twitter)