御年90歳の多良美智子(たら・みちこ)さんは、YouTube「Earthおばあちゃんねる」で話題のおばあちゃん。神奈川県の団地に一人で暮らし、三度の食事づくりから絵手紙などの趣味まで、自由気ままに人生を謳歌しています。

子どもや孫とはつかず離れずのほどよい距離感を保ち、LINEなどのアプリを活用するためにiPadも使いこなしています。「今が一番楽しい」と目を輝かせる多良さんのバイタリティはどこから生まれているのでしょうか。食事の工夫や健康法などを住まいにお邪魔して伺ってきました。

3人の子育ても楽しく快適だった約50平米・3DK

駅から坂道を上った先に現れたのは、昭和の時代に建てられた大規模な公団住宅。広々とした敷地にはいくつもの住居棟が立ち並び、スーパー、クリニック、公園などが整備されています。どこか懐かしいのんびりとした空気に、気持ちがほっと安らぎます。

この団地に暮らす多良美智子さんは90歳。団地の竣工と同時に入居して以来、約60年にわたって住み続けています。広さと間取りは約50平米の3DK。廊下が短く、部屋を襖で仕切った昔ながらの間取りです。
「引越したときは夫と子ども3人の5人暮らし。子どもたちが独立した後は夫婦2人で生活していました。夫は11年前に亡くなり、それからはずっと一人で暮らしています。

思い出の詰まった愛着のある家なので離れられません」

90歳で団地一人暮らし人気YouTuber。「Earthおばあちゃんねる」登録者17.2万人、多良美智子さんの”ポジティブ老後”「今が一番楽しい」。元気の秘訣はエレベーターなし4階住戸や晩酌!?

(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りポイントは、静かで落ち着けること、窓が多く風通しがよいことなどいろいろ。なかでも筆頭は約50平米というコンパクトさだと言います。家族5人で暮らしていた時代を想像すると、ちょっと意外な気がします。
「子育て中はとにかく物が多くて、あちこちに棚をつくって収めていました。ごちゃごちゃしていましたが、その狭いところが私の理想通りだったんです。この家なら家事をしていても、子どもたちがどこで何をしてるかすぐわかります。掃除や食器の上げ下げもラクですし、なにより家族の距離が近くて楽しかったんです」

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多良さんが住む団地は植栽も豊か。昔は住人総出で草刈りをしていたが、現在は自治会費で専門業者に委託。住人の顔ぶれも変わり、若いファミリーが増えたという(写真撮影/相馬ミナ)

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窓が多いため、明るく風通しも抜群。窓際にはベンチを置いて、道端で摘んだ野の草花をさりげなく飾っている(写真撮影/相馬ミナ)

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ダイニングにつながる和室は畳の上にカーペットを敷いて洋室仕様に。セピア色になった襖にも家族の思い出が刻まれている。一緒にYouTubeをつくっているあーすさんが赤ちゃんのころにつくったという襖の傷もそのまま(写真撮影/相馬ミナ)

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お気に入りの小物や絵画などが部屋のあちこちに。

玄関を彩るシーサーは夫との沖縄旅行で買った品。パッチワークの和布は多良さんのお手製だ(写真撮影/相馬ミナ)

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多良さんは1934 年、長崎県生まれ。27歳で結婚後、福岡で団地暮らしを経験。コンパクトな間取りが快適だったため、1967年に神奈川県へ転居した際、現在の団地を選んで入居した。11年前に夫を見送って以来、一人暮らしを続けている(写真撮影/相馬ミナ)

階段が運動代わりになるエレベーターなしの4階住戸

子どもたちが巣立った後は、部屋を仕切る襖を外して一つの広い空間に。すっきりしてさらに住み心地はよくなったそうです。
「古い団地ですが、水回りの設備は無償で交換してもらえたので助かっています。例えば、浴室にもともとついていたのは昔ながらのガス釜。10年以上経ったころに換えてもらえることになり、『せっかくならシャワーもつけてください』とお願いしました。お湯張りはピッと押すだけ。便利になりました。キッチンの交換もやはり無償。壁に取り付けてあった瞬間湯沸かし器が内蔵式になって、スペースも広くなりました」

一人暮らしの今も生活は快適そのもの、という多良さんですが、気になるのは棟内にエレベーターがないこと。

住んでいるのは4階です。階段の上がり下りはきつくないのでしょうか。
「息子からも『1階の部屋に引越したら?』と言われたのですが、4階は窓を開けていても安心感があるんです。それに引越しするって大変じゃないですか。階段の上がり下りは運動代わりと割り切って、『もうここから動かないからね』と宣言しました。休み休みではあるけれど、手すりにつかまらず、自分の足の力だけで上がるようにしているんですよ」
団地の不便さも、前向きに捉えれば手軽な健康法になるというわけです。

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住戸へとつながる階段。段数が少なく段差が低いところは古い団地ならではだ。ラジオ体操や稽古事、買い物などで、1日2~3往復している(写真撮影/相馬ミナ)

三食とも自炊が基本。晩酌も毎日の愉しみに

高齢になると配食サービスなどに頼るケースが増えますが、多良さんは90歳の今も朝昼晩の三食を自分でつくっています。
「子育て中はシュークリームなどおやつも手づくりしていましたが、今は一人なので簡単なものばかりですよ。朝は小松菜、おからパウダー、プロテインなど8種類の素材をミキサーにかけたスムージーに、りんごとゆで卵を添えるのが定番。

高齢者に不足しがちといわれているタンパク質もスムージーでしっかり摂れます」

三食のなかで一番しっかり食べるのは昼食です。「野菜のつくり置きがあるから、お肉を少し買って足そう」「お魚を食べたいから塩焼きにしよう」というように、献立は気分で決めているとか。
「家族の好みを気にせず、好きなものを食べられるのも一人暮らしのいいところですよね。今日つくったのはラーメン。といっても、スープはだしパックでひいた和風だしにお野菜をちょっと入れて、塩・胡椒にお醤油を垂らしてね。麺は中華麺ではなくちゃんぽん麺。この前、お友達に味見をさせてもらったものがおいしくて、さっそく試してみたんです」

一方、夕食は残っているお惣菜と、冷奴やちくわといったごく簡単なものを2~3品。それをつまみに晩酌するのが愉しみになっています。
「飲むのはだいたい日本酒ですね。量はぐい呑みの7分目ぐらいとほんの少し。お酒が入ると緊張がほぐれて、1日の区切りがつくんです。晩酌するのは昔からですね。

私は7人姉妹ですが、全員がお酒好き。姉や妹の家に遊びに行くと毎日酒盛りでした(笑)」

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キッチンが間近にあるダイニングは多良さんのお気に入りスペース。食事だけでなく、絵手紙など趣味を楽しむ場にもなっている。必要なものをすぐ取り出せるよう収納も工夫(写真撮影/相馬ミナ)

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晩酌では蛸唐草(たこからくさ)の蕎麦猪口(そばちょこ)をぐい呑みとして愛用。日本酒は息子や孫と一緒に近くのターミナル駅に出たときにまとめ買い。銘柄にこだわりはなく、その時々で気になるものを選んでいる。この日はつくり置きした鶏団子の煮物といわしの丸干しをアテに(写真撮影/相馬ミナ)

いつ死んでもいい年齢だから食事は好きなものを好きな味付けで

夕食の時間は毎日きっかり18時半。次男とiPadでビデオ通話をして、「うちのおかずはこれ」などと見せ合いながら食事をしているそうです。
「“リモート夕食”は次男の発案です。離婚してシングルファーザーになり、子どもと2人で囲む食卓に寂しさもあったのかもしれません。以前は孫も参加していましたが、今は専門学校に入って家から離れてしまったので2人で続けています。会話が弾むわけではないけれど、お互い顔を見ると安心できるんです」

そんな食生活が習慣になっているため、スーパーなどのお惣菜を買うことはほぼありません。手づくりしたほうが安上がりな上、自分好みの味付けにできるからだと言います。


「長年つくり慣れた味があるから、出来合いのお惣菜はピンときません。せっかくなら自分がおいしいと思うものを食べたいですよね。私は濃いめのしっかりした味付けが好きなんですが、ある日、お薬をもらいにかかりつけの病院に行ったら、『食事の塩気を少し減らしたほうがいいですよ』と注意されてしまって。そのとき先生にこう宣言しました。『私はもういつ死んでもいい年齢。ですから、このまま好きな味付けで通します』。先生は『それもそうだね』って納得してくださいました」

以来、大手を振って好きな味付けにしているそうですが、食べ過ぎには注意しています。
「体重が増えると足に負担がかかりますからね。食べ過ぎたなと思ったら、翌日はちょっとセーブして。体重は毎日測っていますよ」

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キッチンは設備の交換によって使い勝手がよくなった。ケトルや布巾はビビッドな赤を選んでアクセントカラーに。「目にする度に元気をもらえます」と多良さん(写真撮影/相馬ミナ)

週に6日は趣味の教室やサークルに参加

食生活だけでなく、1日の過ごし方も一人暮らしなら自分で自由に決められます。とはいえ、睡眠や食事が不規則になると体調を崩してしまうため、リズムをつくるよう心がけているそうです。
起床時間は決まって朝5時。6時半からのラジオ体操に参加した後、洗濯をしながら朝食を取り、9時までには掃除も終えています。就寝は22時から23時ごろ。ベッドに入って本を読み、そのうちにうとうとして眠りにつくことが多いそうです。

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寝室は玄関脇の独立した位置に。読書家の多良さんは友達にもらった本はなんでも読破。枕元にはいつも読みかけの文庫本が置いてある。細かい字もすらすら読めるとか。薬なども手の届く位置に常備している(写真撮影/相馬ミナ)

日中は月曜日を除いて趣味の教室やサークルに出かけるのがもっぱら。絵手紙に写経、ストレッチ体操、麻雀は週2回、さらに秋の発表会に向けて「第九を歌う会」の練習にも励んでいます。ほかに、月2回開かれる着物のリメイク教室と歌の教室も受講。合計すると、参加している教室やサークルはなんと7つにも!
「習い事があると外に出かけるようになりますし、集まっている方とおしゃべりするのも楽しいんです。同じ趣味を持つので話が合いますし、知らなかったことを教えてもらえてアンテナがビンビン立ちます。習い事の多くは長年続けているものですが、新しいことにチャレンジするのも刺激になります。ストレッチ体操を始めたのは88歳のとき。スタートするのに遅いということはないんです」

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絵手紙に使うのは顔彩(がんさい)と呼ばれる日本画用の絵具。いくつもの筆を使い分けるため、筆入れも自作したそう。絵の題材は季節の花や野菜など身近にあるもので、この日は孫・あーすさんのカメラを模写(写真撮影/相馬ミナ)

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(写真撮影/相馬ミナ)

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寝室にあるランタンは切り抜いた絵手紙でアレンジ。明かりをつけると絵が幻想的に浮かび上がる(写真撮影/相馬ミナ)

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かつて子どもの同級生のお母さんに習っていた「モラ」は、中米・パナマのクナ族に伝わる飾り布。自作品を額に入れてインテリアにしている(写真撮影/相馬ミナ)

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園芸も多良さんの趣味の一つ。ベランダには花や野菜のプランターがずらりと並んでいる。愛用するのは、軽くて持ち運びしやすいフェルト製の植木鉢。カゴで浮かせて水はけをよくしている(写真撮影/相馬ミナ)

そんな多良さんはおしゃれにも積極的です。ピアスを開けたのはなんと80歳のとき。洋服もアパレルメーカーに勤めていた姪御さんのアドバイスを取り入れながら、自分なりの着こなしを楽しんでいます。
「お洋服は30年来着ているものや着物をリメイクしたお手製のものなどいろいろあります。今どきのおしゃれなお洋服も大好き。たまに近くの大きな駅に行って、デパートに入るお気に入りの洋服屋さんをのぞいています。そのうちの1軒は個性的なデザインで若い人向けなんですが、『こういうのを着てみたい』と言うと店員さんが似合うものを選んでくれるんです。買うのは年に数回ですが、ショッピングに行くとワクワクしますね」
高齢になると身なりを構わなくなりがちですが、何歳になってもおしゃれは大切。見た目も気持ちも若返れることは間違いありません。

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近くの古着屋で買った着物などを自身で洋服にリメイク。着心地がよく、個性的なおしゃれを楽しめる(写真撮影/相馬ミナ)

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耳元にはゴールドのピアスがきらり。それだけで雰囲気がぐっと華やぐ。フープタイプのため、落とす心配もないとか。絣(かすり)のブラウスは友人作(写真撮影/相馬ミナ)

孫と一緒に85歳でYouTubeデビュー

さらにもう一つ、多良さんにとって大きな刺激になっているのが、孫のあーすさんと始めたYouTube「Earthおばあちゃんねる」です。開始から約5年でチャンネル登録者数は17.2万人にのぼっています(2025年6月25日現在)。
「こんなにたくさんの方に観てもらうようになって、私自身、びっくりしているんです。YouTubeを始めたきっかけは、コロナ禍で九州にいる姉や妹に会えなくなってしまったこと。『YouTubeに動画をあげて元気な姿を見せよう』と、当時中学生だった孫に撮影してもらって、チャンネルをつくりました。記録を残しておけば、私が死んだ後も子どもや孫が時々見て思い出してくれるかなと思って。孫は撮影や編集をするのが好きなんですね。今度はあれを撮ろう、これを撮ろうって言うものですからついその気になって、だんだん動画が増えていったんです」

公開した動画のなかでも特に反響を呼んだのは、再生回数264万回をマークした部屋紹介です。室内に飾っている絵画や骨董に加え、多良さんが趣味でつくった作品も数多く紹介されています。おばあちゃんと孫のやりとりにも温かさがあり、「人生を楽しんでいる様子に感動した」「丁寧な暮らし方がお手本になる」などの700件以上のコメントが寄せられています。

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ダイニングに飾っているのは、チャンネル登録者が10万人を突破したときに贈られた記念盾(写真撮影/相馬ミナ)

このYouTubeをきっかけに書籍の話も舞い込みました。『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)を皮切りに、これまで3冊の著書が上梓され、累計20万部を超えるベストセラーになっています。

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2025年3月に発売された多良さんの最新刊『90年、無理をしない生き方』(すばる舎)

一人が気楽。家族とはたまに会うから楽しい

老後の一人暮らしというとついネガティブに受け止めてしまいますが、多良さんのYouTubeや著書はそのイメージを払拭。聞けば、一人暮らしにはもともと憧れがあったそうです。
「長崎で生まれた私はさっきも言ったように7人姉妹の大所帯。にぎやかで楽しかったけれど、一人で本を読んで過ごす時間も好きだったんです。高校3年生になると『家を出て自活したい』という気持ちが湧いてきて、1年間タイピスト学校に通ってから就職して念願の一人暮らしを始めました。楽しかったですね。4~5年で実家に戻り、その後、夫と結婚したので、一人で暮らしたのはそのときだけですが、快適だった記憶しかないんです」

子どもの手が離れたころから、考えるようになったのは老後のこと。「もし一人で暮らすことになったら」という想定もしていたそうです。
「夫は9歳年上だったので、一人になったときに寂しくならないよういろいろ計画を立てたんです。例えば、編み物教室に通ったり、歌のお稽古に行ったり。絵手紙を習ったのもそのときですね。始めてみると楽しくて、もし夫になにかあっても大丈夫という気持ちになりました」

もっとも、子ども側の立場からすると、どんなに元気でも親の一人暮らしは心配になるもの。実際、息子さんから同居を打診されたことがあるそうです。
「ありがたいけれど断ったんです。だって一人のほうが気楽じゃないですか。でも、次男と孫が2週間おきに泊まりがけで来てくれるのは、とてもありがたいです。次男が忙しいときは孫だけ来ることもありますが、そのときに電球の交換など普段できないことをやってもらっています。買い物に連れて行ってもらうこともありますし、2泊するなら1回は外で食事をしています。そうやってたまに会うから楽しい時間を過ごせるんです」

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壁には家族写真も(写真撮影/相馬ミナ)

コロナ禍前まではお正月に家族で集まるのも恒例でした。娘夫婦、長男夫婦、次男、孫やひ孫まで総勢14~15人が団地の家に全員集合!
「にぎやかでしたよ。テーブルにちらし寿司、お雑煮、煮豆やらをずらっと並べて、みんなでワイワイ食べるんです。でもね、80歳になったころかしら、長男が『お母さん、大変だからもう料理しなくていいよ』と言ってくれて。『元日はそれぞれお昼ごはんを食べてから集合ね』と御触れを出してくれたんです。長男はそう言いながらも『ちらし寿司だけはつくって』と言ってくるんですけどね(笑)」
この御触れを機に、大量にあった食器を整理したそうです。とはいえ、どれも思い出のある食器ばかり。そこで、めいめい好きな器や皿を持って帰ってもらったそうです。
「今、残っているのは私が本当に気に入っている食器だけ。おかげで食器棚がすっきりして、お人形などの置物を飾る余裕もできました」

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キッチンの棚に入るのは主に洋食器。グラス類もいろいろ揃うのはお酒好きならではだ(写真撮影/相馬ミナ)

残すお金は葬式代だけで十分

普段は一人で自由に暮らし、時々、家族との時間をもつのはまさに理想的といえますが、気になるのはお金のこと。老後の年金生活で家計はどのようになっているのでしょうか。
団地の家賃は引越した当初は1万2000円くらいだったそうですが、徐々に値上がりして現在は5万円に。それでも相場から考えるとかなり抑えられています。
「出費には教室や趣味の会の参加費がありますが、NPO法人が運営する高齢者コミュニティなのでいくつ受けても1日800円。市民センターで開かれているものなら無料です。後は食費や水道光熱費、通信費など。食費は私一人だったら本当にわずかです。ただ、次男親子が来たときにはちょっといいお刺身買って手巻き寿司をつくったり、外で食事をしたり。そういうところに少しお金を使いますね」

支出には孫たちへのお小遣いもあります。クリスマスや入学祝いなどにまとまったお金を渡すようにしているとか。
「子育て中は生活がいっぱいいっぱいで、子どもたちにお小遣いをあげることができなかったんです。だから、その分を孫たちに渡しています。一人暮らしを始めたころは節約してやりくりしていましたが、80代の半ばくらいからはお金を残しても仕方ないなと考えるようになりました。残すのはお葬式代だけで十分。余分なお金は使ってしまおうと思っているんです」

もちろん、賃貸の団地暮らしなら家が残ることもありません。亡くなったらプラスもマイナスもなくゼロになるだけ。その点でも団地暮らしを続けてきて正解だったと言います。

そんな多良さんを見ていると老後の不安も晴れていきますが、ズバリ、楽しく暮らす秘訣はどこに?
「欲張らないことですね。毎日三度のご飯を食べられて、帰る家があって、ゆっくり眠れるベッドがある。この3つだけで私は本当に幸せなんです。後はおまけ、ご褒美です。人と比べないことも大事ですね。自分のできる範囲で工夫して楽しむ。先立つのは健康ですが、そのためにも新しいことにチャレンジするといいですよ」
そう言って、多良さんが手にしたのはiPad。昨年、LINEでチャットデビューをしたそうです。
「LINEはビデオ通話ばかりでしたが、文字を打ち込む“トーク”でやりとりをすると便利よと同い歳のお友達に聞いて、さっそく、始めてみました。アルファベットの打ち込みはタイピングと同じだから私にはカンタン。電話と違って、いつでも送れる気軽さもいいですね。最近は九州の妹と文字で打ち合いっこをして脳を活性化させています」

90歳で団地一人暮らし人気YouTuber。「Earthおばあちゃんねる」登録者17.2万人、多良美智子さんの”ポジティブ老後”「今が一番楽しい」。元気の秘訣はエレベーターなし4階住戸や晩酌!?

(写真撮影/相馬ミナ)

ポジティブな思考で、老後を生き生きと謳歌する多良さん。一人暮らしはもちろん、家族と一緒に暮らすとしても、大切なのは気持ちのもち方なのでしょう。人生の大先輩の姿に触れて、年齢を重ねることが楽しみに思えてきました。

●取材協力
Earthおばあちゃんねる
すばる舎

90歳で団地一人暮らし人気YouTuber。「Earthおばあちゃんねる」登録者17.2万人、多良美智子さんの”ポジティブ老後”「今が一番楽しい」。元気の秘訣はエレベーターなし4階住戸や晩酌!?
●関連書籍
『90年、無理をしない生き方』(すばる舎)

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