三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部では、不動産マーケットリサーチレポートを発行しているが、Vol.288では「分譲マンションの実需以外の取得は増えているか」をテーマに市場の分析を行っている。実需以外、つまり居住目的ではなく不動産投資などを目的とした取得の状況について調べたのだ。
【今週の住活トピック】
【新レポート発行】不動産マーケットリサーチレポートVol.288 「分譲マンションの実需以外の取得は増えているか」/三菱UFJ信託銀行
千代田区がマンション転売禁止などを要請した背景とは?
千代田区は2025年7月18日に、不動産の業界団体である不動産協会に対して、投機目的でのマンション取引等に関する要請を行った。要請の内容は、再開発事業などで販売するマンションについては、購入者が原則5年間は物件を転売できないようすること、同じ名義人が複数物件を購入しないことの2点だ。
このような要請をした理由として、千代田区は国外からの投機目的のマンション取引が増えることで、過度にマンション価格が上昇してしまい、千代田区に住みたい人たちが住めないことを挙げている。千代田区によると、区内のマンションの登記簿を調べると、所有者の住所が物件の住所と一致しない住戸が7割に及ぶマンションの事例があるなど、居住実態のない住戸が増えていることや、昨年(2024年)に竣工したマンションで多数の住戸が転売されていたことなどを根拠としているようだ。
富裕層ではない一般家庭にとっては、住宅の価格高騰が予算とのミスマッチを生み、結果として検討エリアを郊外に広げるか、購入を断念して賃貸にシフトするかといったことになりがちだ。一方、富裕層や投資家などは価格が高騰しても予算を引き上げることができるので、都心部の億ションの供給が変わらずに続いているのが実態だ。
では、本当に、都心部において投機目的の購入や外国人による購入が増大しているのだろうか?
実需以外(主に投資目的)の購入は都心部で増えているのか?
実は、投資目的かどうかを調べるのは簡単なことではない。投資目的と居住目的で分けて販売しているわけではないし、登記簿だけでは判断しづらい面もある。居住するために買ったがすぐに転勤が決まり、売らざるを得ないといったことも起こりうるので、その実態はわかりにくい。
三菱UFJ信託銀行の舩窪芳和さんが、この難題に挑戦してレポートを出した。まず、「実需以外の取得」の線引きとして、キャピタルゲイン(転売による売却益)とインカムゲイン(家賃収入)の2つの視点からマーケットを分析している。
●短期転売のシェアが増えたか
価格の上昇が著しいいま、短期で転売すればキャピタルゲインが得られることから、築浅のマンションが中古マンション市場で売買成約しているかを国土交通省の情報から推定したという。その結果、2024年に売買されたのは、築3年以内で2.5%、築5年以内で4.0%となり、それほど転売されていないと同行では見ている。
なお、所有期間5年を超える不動産の売却は「長期譲渡」とみなされ、5年以下の「短期譲渡」よりも税率が半分近くまで下がるので、築7年以内になると売却事例が増えるという背景がある。

出典:三菱UFJ信託銀行「不動産マーケットリサーチレポートVol.288」のプレスリリース
また、価格高騰が著しいと指摘される都心だが、短期の売買率の推計値は、千代田区・港区・渋谷区の3区は東京23区の中で見ても高いわけではないという。
●分譲マンションが賃貸市場に供給されているか
同じように、同行はインカムゲインについても分析しているが、筆者が注目したのは、東京23区の賃貸化の分布についてだ。
2024年に賃貸物件として募集終了した築5年以内の分譲マンションが、分譲マンション供給戸数全体に対して占める割合を区毎に推定したもの。港区は濃いグレー(0~7.5%)、千代田区・中央区・渋谷区は薄いグレー(7.5~15.0%)の範囲となり、23区全体の中では相対的に低いことがわかる。

出典:三菱UFJ信託銀行「不動産マーケットリサーチレポートVol.288」のプレスリリース
外国人の都心部での購入は増えているのか?
次に、外国人による取得についての分析結果を見ていこう。世界的に見て日本の不動産が割安になっているうえ、円安も加わり、海外マネーによる日本の不動産購入が進んでいるのは事実だろう。
三菱UFJ信託銀行では半期ごとに、デベロッパーにアンケート調査を行っている。千代田区・港区・渋谷区の3区における外国人取得者が占める割合について、最新の3期分で見る(左図)と、その平均値は17%~22%。一方、その3区を除く東京23区における割合を最新(2025/7)の結果で見る(右図)と、その平均は12.7%になる。
千代田区・港区・渋谷区の外国人取得者の占める割合は、ほかの23区よりも高いものの、同行では(価格高騰を招くほど)「それほど高くない」とみており、「分譲マンション市場全体への影響は一定程度にとどまる」と推察している。

出典: 三菱UFJ信託銀行「不動産マーケットリサーチレポートVol.288」のプレスリリース
以上のように、同行のレポートでは次のように総括している。
- 短期の転売および賃貸市場への供給の2つの視点から見て、分譲マンションの実需以外の取得は増加基調ではないと思われる
- 外国人によるマンション取得の市場全体に占める割合は一定程度に止まる
さて、千代田区の転売や複数購入の禁止については、あくまで要請のレベルなので、実現するかは不動産業界がどう動くかによるだろう。要請を受けた不動産協会は困惑しているという報道もあるので、すべて要請通りになるとはいえないようだ。ほかにも、神戸市で空室税の導入を検討しているといったこともある。
投資目的と言えば、従来は、シングル向きなどの面積の小さいものを賃貸化して長期の家賃収入を得るものだった。今問題になっているのは、都心部で居住用の広めの住戸が転売目的で買われているということだろう。たしかに、資金力のある投資家の購入が増えると、都心部の住宅価格の高騰に歯止めがきかない、一般購入者の購入機会が減るといった問題が生じる。さらに、居住目的ではない所有者が多いマンションでは、マンションの維持管理のための管理組合の活動が円滑に進まないなどの懸念も生じる。
いろいろと根が深い問題なだけに、政府や自治体、不動産業界などで真剣に考えたい課題だ。実態をよく把握したうえで、適正な取引ができるように知恵を絞るタイミングに来ているのだろう。
●関連リンク
三菱UFJ信託銀行「不動産マーケットリサーチレポートVol.288」