「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)7時35分からは素朴な疑問、気になる現場にせまる「現場にアタック」。毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。
今日取り上げるのは、科学シルマナブの「コロナウイルス何個で感染するの?」という記事。これは、東京新聞に寄せられた「ノロウイルスは10~100個で感染するというけど、コロナは何個で感染するの?」という読者からの質問に応えようとしたものです。

イギリスで、人での実験が始まっています

質問を受けて、東京新聞科学班の増井のぞみ記者が調べ始めたのですが、実は、この「コロナウイルスは何個で感染するのか?」ということは、まだわかっていません!ただ、それを知るために、ある実験が始まっていることがわかったそうです。イギリス政府がスポンサーになって「ボランティアに、コロナのウイルスが入った飛沫を注射器で鼻に吹き付けて、実際どの濃度から感染するのか」っていうのを実験してることが分かって、その結果が出れば質問に答えられるのかなって。このイギリスの結果が出れば、いち早く取材してお知らせしたいなって思います。ほんとすぐ世界を駆け巡ると思います、そういう結果が発表されたら。世界中の専門家が注目してる話ですし、感染リスクどのくらいなのかって考える上では、全世界の人にも関係してくる実験結果になるのかなって思います。理化学研究所のスーパーコンピューター富岳っていうのがありますけど、そういう環境なんかでウイルスがどういう風に動いているのかっていうのを見てる学者さんにとっては、喉から手が出るほど欲しいデータなんだとおっしゃってました。人での実験!?と増井さんもとても驚いた、とおっしゃっていましたが、実はこうした実験は、調べてみるとノロウイルスや、腸チフス、コレラなどでも、これまでも行われてきていました。もちろん「いきなり人で」ではなく、動物や細胞レベルでの知見を蓄積したうえで、治療体制も整えて、謝礼金も支払い、補償金も用意して、ということです。人間の体は複雑。それを再現することはやはりできないので、培養した細胞での実験だけでは足りないのだそうです。実験では、ウイルスが入った液体を、どんどん薄めて、感染しないレベルから吹き付ける。
それを少しずつ、濃くしていくことで「何個から感染した」というのを見極めるという方法で行われます。これが確立したら、ワクチン接種者にも同様の実験を行なって、ワクチンの効果を検証することもできるそうです。ということで、この実験は、今年の3月から従来株で始まり、結果はこれからですが、世界が注目しています。

デルタ株は半分の数で感染、1000倍のウイルスを作り出す

でも、皆さんが知りたいのは、今、猛威を振るっているデルタ株はどうなのか?だと思います。これについては、人での実験はまだですが、細胞レベルの実験で、その威力がわかってきています。増井さんのお話です。従来株のトゲのところにデルタ株の変異を入れたら、細胞にくっついて入り込む効率が良くなって、半分くらいの数で感染するようになったと。すごくだから効率が良い、打率が良い、打率が3割バッターが6割バッターになってるって考えたら全然違う。で、最初にコロナウイルス陽性って分かった時のウイルス量が、デルタ株は従来株に比べて平均で約1000倍、最大で1260倍だったという風な、中国の研究チームの報告が7月にありまして、だからデルタ株は、従来の半分の数で感染が成立する、かつ、身体の中で効率よく広がるのでウイルスを1000倍の数作り出す。同じ新型コロナなんですけど、別の強力なウイルスだって思って対策することが必要だと思います。これは、あくまで細胞の実験で、人の実験ではないですが、デルタ株は従来株の半分くらいの数で感染する可能性がある。つまり感染しやすい、ということ。半分の数で感染して、1000倍の数のウイルスを作り出す。
怖いですよね。数字で聞くとその感染力の強さを実感します。しかも、別の感染症の専門家に話を聞いたら、「感染しやすいということは、たくさんの細胞にどんどん感染するので急激な重症化にもつながりやすい」という話があったそう。そう聞くと、今、世の中で起きていることに合致して、納得。デルタ株は全然別のウイルスと考えて対策する必要、というのにもうなずけました。

読者の素朴な疑問を受けて取材をして感じたこと/h2>読者の素朴な疑問から始まって、10人以上のさまざまな専門家の話を聞いたという増井さんですが、今回、2つのことを強く感じたと話します。参加した人の安全を確実に守れるのか、っていうところが問題だと思います。レムデシベルっていう薬をイギリスの研究チームも準備してて、もし患者の症状がひどくなりそうな場合に投与するという風に示しているんですけれども、確実に治るというほどの薬でもないし、臨床試験のサイトでも「リスクはゼロにはできないから、もしそういうことがあった場合は補償する」という風なことを書いてあるので、新しい科学のデータを医学で得るっていうのは、そういう人の犠牲があって、今まで医学の進歩って進んできたんだな、っていうのを感じました。ほんとに鋭い質問で、研究者一人に聞いただけでは分からなくて、感染症って言っても色んな分野の人にまたがったような質問だったので、取材するのは時間がかかったんですけど、ほんとに一般の人の疑問っていうのが大事なんだなっていうのが、今回分かりました。まだまだ分からないことが多い新型コロナですから、確かに参加者の安全が守れるか心配。それでも、今回の実験では90人のボランティアの方が参加し、さらに90人追加で募集してくれていますが、こういう、ボランティアの方や患者さんの協力なしでは、感染対策も治療も進歩しないのもまた現実。これまでの医学の進歩の影に、こうした協力者の積み重ねがあったとしみじみ感じた。
と同時に、読者の素朴な疑問から、さまざまなことに行き着いたとして、そうした素朴な疑問の大切さを強く感じた、ということでした。今回の実験の結果をもって、ワクチンの効果を検証するのが最終的な形、ということでしたが、実験・研究は一歩ずつの進歩。デルタ株の実データも待たれます。

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