TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。

3月14日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、元トラックドライバーのフリーライター、橋本愛喜(はしもと・あいき)さんをお迎えしました。

シンガーソングライターに憧れていた橋本さんは、大学卒業後はニューヨークに留学する予定でした。ところが工場を経営していた父が倒れたため渡米直前に夢を諦め、工場の仕事を継ぎました。

大型免許を取った橋本さんは、1日に平均500キロ、繁忙期には800~1000キロも走る中・長距離のトラックドライバーとなって、およそ10年間働きました。

物流がどんどん便利になる裏側で、トラックドライバーの現場はとても過酷です。理不尽なことも多いといいます。そんな運送業界の実態やトラックドライバーたちの本音を知ることができるのが、橋本さんが書いた『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)です。

「時間厳守」に神経をすり減らす

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「このスタジオの中にあるすべてのものとかね、我々の身の回りにあるほとんどのもので、原料から製品になる間、一度もトラックに乗ったことがないというものはないんです」(久米さん)

日本国内の貨物輸送の90%以上はトラックです。あらゆる産業は文字通りトラックによって支えられています。それなのにトラックやトラックドライバーに対する印象はどうでしょう。怖い、態度が悪い、いつも路上駐車をして邪魔…。実は橋本さんも、自分がトラックドライバーになるまでは「邪魔な存在」と思っていました。ところが自分がトラックの運転席に座るようになって初めて、いかに大変な労働環境であるかに気づいたそうです。

トラックドライバーの仕事で最も重要なことは「時間厳守」。事故渋滞や台風などがあっても延着(遅刻)すれば、運送会社が損害賠償を請求されることもあるのです。ところが大型自動車にはスピードリミッターの装着が義務付けられ、最高で時速90キロまでしか出せないことになっています。遅刻はだめ、でもスピードも出せない。となると、時間を稼ぐためには休憩やトイレの時間を削るしかない。空きペットボトルに用を済ませながら運転するドライバーもいるとか。

一方、到着が早すぎてもだめなんです。荷物の搬入時間を1分単位で指定してくる荷主もいるそうです(荷主とは荷物の送り手・引き取り手のこと)。そこでトラックドライバーは搬入先の近くで待機したいのですが、近隣住民への配慮などから現場近くでの待機を禁じる場合が多いそうです。そこでドライバーは搬入先から離れた路上で駐車して待たざるを得ず、「大きなトラックをこんなところに路駐しないでよ」と白い目で見られてしまうのです。

これだけ神経をすり減らして時間通りの現場入りを果たしたトラックドライバーたちは、現場に着くと今度は長時間待たされることになります。これがドライバーたちを苦しめている「荷待ち」です。

積んでいる荷物を現場で降ろすまでの待機時間が2~3時間になることもあるそうです。

トラックドライバーが時間を調整するのは、高速道路の「深夜割引」を利用するためということもあります。ETCを利用するクルマは、午前0時~4時の時間帯は高速料金が3割引きになるのです。長距離トラックにとってこの割引サービスはとても大きく、中には毎月数百万円以上の高速代を浮かせる業者もいるそうです。深夜割引で浮かせた金額が給料に反映されるというようなドライバーもいて、みんななんとか深夜割引を利用しようということで時間を調整する。ドライバーには大変な負担ですし、これも迷惑駐車・違法駐車につながっています。

「手荷役」がキツイ

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トラックドライバーの仕事を過酷にしているのが「手荷役」(てにやく)です。荷物の積み下ろし作業を「荷役」といいます。フォークリフトを使って一度に大量の荷物を積み下ろしするのではなく、一つひとつの荷物を手で積み下ろしするするのが「手荷役」。本来トラックドライバーの仕事は荷物を搬入先まで安全・無傷・定時に運び届けることで、現場で荷物を積み下ろしすることまでは契約にないそうです。ただ「手荷役までがドライバーの仕事」を考える荷主が業界には多く、実際にはトラックドライバーが手荷役までやっています。これがとてもきつい仕事なのです。

橋本さんがSNSを使ってトラックドライバーにアンケートしたところ次のような体験談が寄せられました。「米30㎏の紙袋を800袋はキツい」「スイカ900個。腰と体がアザだらけ」「業務用小麦粉(25㎏)や一斗缶、特に水飴やシロップ缶は地獄。指の関節が変形しました」。

本来契約にない、いわば「オマケ仕事」である手荷役をトラックドライバーが余儀なくさせられているのは、業界の価格競争が背景にあります。1990年の規制緩和によって運送業は新規参入がどっと増え、価格競争が激しくなりました。他社と差をつけるために、本来は契約にない手荷役をサービスとして運送業者がやるようになったそうです。そのしわ寄せは、実際に手荷役を行う現場のドライバーに集中しているのです。

新型コロナの影響も

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新型コロナウイルスの感染拡大は、トラックドライバーの仕事にも大きく影響を及ぼしています。
工場から物流センターや倉庫へ大量の荷物を運ぶ長距離トラックドライバーは、中国からの物流がストップしているため、仕事がなくて困っているそうです。トラックドライバーは「日給月給制」なので、労働日数が少ないと収入が減ってしまいます。仕事がない長距離トラックドライバーいま非常につらい状況になっています。

「アルバイトに行かなきゃいけないという状況の方もいらっしゃいます」(橋本さん)

「送料無料」は運送業者の存在を無視

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いま話題になっている「送料無料」について橋本さんは、胸がいたくなる言葉だと言います。

「通販番組や雑誌で『送料無料』って見ると、イラッとする?」(久米さん)

「すごくイラッとします(笑)」(橋本さん)

「こんなにドライバーのみなさんが苦労して運んでいるのに『無料』って何なのよって」(久米さん)

「ありえないですねえ。彼らは汗水たらして安い賃金で日本のインフラを下支えしています。ほかに別の表現、『送料込み』とか『送料弊社負担』とか言い方はいくらでもある中で、なんで『送料無料』という言い方をするのかというと、結局、顧客至上主義。『無料』と書けばお客さんが食いつくでしょうと。時間に振り回されながら安い賃金で働いている人たちの気持ちをないがしろにしています。彼らの気持ちを考えると、この『無料』という言葉だけはなんとかしないとと思います」(橋本さん)

「完全にドライバーの労働を無視している言葉ですからね」(久米さん)

「すごく胸が痛くなる言葉ですね」(橋本さん)

橋本さんは、日頃理不尽なことの多い現場でも一生懸命頑張っているトラックドライバーたちの思いや姿をもっと多くの人に知ってほしいと思い、インターネットなどで記事を執筆しています。

「物流のトップの人や製造メーカーのトップの人は、一回、長距離トラックの助手席に乗ってみるといいですよね」(久米さん)

「乗ってみるべきだと思います。本当に」(橋本さん)

「そうすると、自分たちは誰に支えてもらっているのか、この人たちがどれだけ大変なのかって分かるもんね」(久米さん)

「ほんまにそう思います。荷主さんもそうですし、子供も一般の歩行者にも、一度トラック乗ってほしいって、ドライバーのみなさんが口を揃えておっしゃいます」(橋本さん)

橋本愛喜さんのご感想

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久米さんはすごく話しやすかったです。堀井さんがトラックのことをご存じないということだったんですけど、彼女の反応を見て「これが世間の反応なんだ」と、すごくお話しした甲斐がありました。まだ本の読者の方の反応は分からないけれども、堀井さんを通してみなさんに伝わるといいなと思いました。

久米さんはトラックのことをよくご存じでしたね。ドライバーが時間に振り回されている背景にある「ジャスト・イン・タイム方式」という言葉を、まさか久米さんからお話ししてくださると思っていませんでした。いまトラックドライバーの方からも「よくぞ言ってくれた」というツイッターがきています。久米さんがリードしてくださったので私も合わせることができて、大変感謝しております。結構、幅広く聞いてくださいましたよね。すごく嬉しかったです。ありがとうございました。

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◆3月14日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200314130000

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