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音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/04/03)

「追悼 志村けんさん~志村さんが愛したソウルミュージック」

高橋:本日はこんな特集をお届けいたします。「追悼 志村けんさん~志村さんが愛したソウルミュージック」。

新型コロナウイルスに感染して闘病されていたタレントでコメディアンの志村けんさんが3月29日、肺炎でお亡くなりになりました。70歳でした。まだ受け止められないという方も大勢いらっしゃると思いますが、今日は音楽を通して志村さんを追悼できたらと。

もしかしたら「音楽コラムで志村さんの追悼企画ってどういうこと?」と思われる方もいるかもしれませんが、志村さんは大の音楽好き、熱心な音楽マニアなんですよ。特にブラックミュージック/ソウルミュージックがお好きなようで。志村さんが亡くなったあとSNSなどでも話題になっていたのでご存知の方もいると思いますが、志村さんは1980年前後には音楽雑誌でアルバムレビューを執筆していたほどなんですよ。

もちろん、志村さんは当時すでにドリフターズの中心メンバーとして子供たちに大人気で。TBSテレビで放映されていたドリフターズの出演番組『8時だョ!全員集合』の視聴率が40パーセントに達していたころですね。そんな状況のなかで音楽雑誌に寄稿していたわけですから、志村さんがどれだけ音楽好きだったのかはここからもよくわかると思います。

そんな志村さんの音楽趣味はドリフターズのギャグやコントにも強く反映されていました。その最もよく知られている例が、1979年から1980年にかけて『8時だョ!全員集合』のコントコーナーで加藤茶さんとのコンビで披露していた「ヒゲダンス」です。志村さんと加藤さんが黒の燕尾服につけ髭姿でダンスをしながらいろいろな芸に挑戦するコント、皆さんよくご存知ですよね。

その「ヒゲダンス」のテーマ曲として使われていたのが、1980年にたかしまあきひこ&エレクトリック・シェパーズ名義でシングルが発売になった「『ヒゲ』のテーマ」です。

M1 ヒゲのテーマ / たかしまあきひことエレクトリック・シェーバーズ

スー:いやー、子供のころこの曲を聴くと心が沸き立ったよね。最高!

高橋:この「『ヒゲ』のテーマ」には実は元ネタがあるんですよ。それが1970年代に絶大な人気を博したソウルシンガー、テディ・ペンダーグラスの「Do Me」。あのおなじみのリフ/ループはこの曲から引用されているんです。これは当時テディ・ペンダーグラスの「Do Me」が好きだった志村さんが、たかしまあきひこさんにレコードを持っていってあのおなじみの「『ヒゲ』のテーマ」にアレンジしてもらったという経緯があります。アレンジの方向性には志村さんの意向も取り入れられているらしいですね。

ここで注目したいのは、テディ・ペンダーグラスの「Do Me」が収録されているアルバム『Teddy』のアメリカでのリリースは1979年7月。だから、ほぼタイムラグなく最新のアメリカのソウルミュージックをコントに取り入れいているんですよ。しかも、この「Do Me」はシングル曲ではなく単なるアルバム曲で。

スー:ええーっ!

高橋:うん。このあたりから志村さんがいかに熱心に音楽を聴き込んでいたかがよくわかると思います。

スー:しかも、それをお茶の間の子供たちにドーンと届けたわけだもんね。

高橋:そう。そのへんがまたかっこいいよね。

M2 Do Me / Teddy Pendergrass

スー:うん、かっこいい!

高橋:志村さんがアメリカのソウルミュージックを引用したケースは他にもあります。「ヒゲダンス」の直後、これも『8時だョ!全員集合』の少年少女合唱隊のコーナーから派生して1980年にヒットした「ドリフの早口ことば」。

M3 ドリフの早口ことば / ザ・ドリフターズ

高橋:この「ドリフの早口ことば」のオケもソウルミュージックからの引用で、元ネタは「ダンス天国」などのヒットで知られる名シンガー、ウィルソン・ピケットの「Don't Knock My Love」。1971年にアメリカのソウルミュージックチャートで1位を記録したヒット曲です。

これも先ほどの「『ヒゲ』のテーマ」と同じようにたかしまあきひこさんに音を持っていってアレンジしてもらったのだと思うんですけど、「ドリフの早口ことば」で注目したいのはその手法ですね。ソウルミュージックやファンクの楽曲の一部分を抜き出してそれをループさせてトラック/オケを作って、そこに早口言葉/おしゃべりを乗せる。これはもうラップですよ。

スー:そうだね。

高橋:先ほども触れた通り「ドリフの早口ことば」のシングルは1980年12月のリリース。

そして、最初のラップのヒット曲であるシュガーヒル・ギャングの「Rapper's Delight」が発売になったのが1979年9月。

スー:フフフフフ、早いな!

高橋:そうなのよ。「Rapper's Delight」はアメリカのソウルミュージックチャートで4位にランクインする大きなヒットになっているから、もしかしたら志村さんは「Rapper's Delight」にインスパイアされて「早口ことば」のあの手法を思いついたのかもしれないですね。これはあくまで妄想にすぎないんですけど、でも「ヒゲダンス」のテディ・ペンダーグラスのケースを踏まえるとまったくない話でもないのかなという気もします。

では、その「ドリフの早口ことば」の元ネタを聴いてもらいたいと思いますが、今日はオリジナルのウィルソン・ピケット版ではなく1973年にリリースされたダイアナ・ロスとマーヴィン・ゲイのデュエットによるカバーバージョンを紹介したいと思います。こちらの方がより「早口ことば」のアレンジに近いんですよ。

M4 Don't Knock My Love / Diana Ross & Marvin Gaye

スー:すごい! 素晴らしい!

高橋:その他、『8時だョ!全員集合』のコントやギャグに関する志村さんのソウルミュージックのオマージュとしては、これも少年少女合唱隊のコーナーから生まれた1976年の「東村山音頭」 もそうなんですよ。「東村山音頭」は四丁目から始まって三丁目、一丁目と進んでいく構成ですが、一丁目はこんな感じでした。

M5 志村けんの全員集合 東村山音頭 / 志村けん

高橋:この「いっちょめ、いっちょめ、ワーオ!」のフレーズ、これはファンクの帝王ジェームス・ブラウンのシャウトがモチーフになっているそうなんです。ちょっと聴き比べてみましょうか。

M6 Give It Up Or Turn It a Loose / James Brown

高橋:これ、JBからインスパイアされたというのは志村さんご自身が明言されているんですよ。

スー:すごい! しかし本人はめっちゃおもしろかっただろうね。

JBにインスパイアされてやったことを子供たちが大喜びで「いっちょめ、いっちょめ、ワーオ!」って真似してるんだからさ。

高橋:この志村さんが「東村山音頭」で披露したジェームス・ブラウン譲りのシャウトなんですけど、実は志村さんがドリフターズに加入して最初のシングル、1976年3月にリリースされた「ドリフのバイのバイのバイ」ですでに聴くことができるんですよ。ここではより露骨にJBの代表曲「Get Up (I Feel Like Being a) Sex Machine」の有名なフレーズ「ゲロッパ!」を叫んでいて。

スー:ええっ!?

高橋:さらにこの「ドリフのバイのバイのバイ」、これは志村さんのアイデアかどうかはわからないんですけど、実質的に当番組のラジオショッピングのテーマ曲としておなじみ、ヴァン・マッコイの「The Hustle」のリメイクなんですよ。

M7 The Hustle / Van McCoy & The Soul City Symphony

スー:これはもう完全に有坂さんが出てくるパターン!

高橋:フフフフフ。ヴァン・マッコイ「The Hustle」のリリースは1975年4月。この曲はディスコブームの原点とされていて、日本の歌謡曲にも絶大な影響を及ぼしているんですね。なかでは筒美京平さんが手掛けた岩崎宏美さんの「センチメンタル」などが有名だですけど、この「ドリフのバイのバイのバイ」のアレンジもそういう流れから生まれたのではないかと思います。

では、もろに「The Hustle」なアレンジと志村さんのJBばりのシャウトに注目して聴いてください。

M8 ドリフのバイのバイのバイ / いかりや長介とザ・ドリフターズ

スー:贅沢!

高橋:思いっきり「The Hustle」でしょ? 「Do the hustle!」の掛け声まで入っていたりして。

スー:ねえ。すごい!

高橋:ドリフターズの音源はいま各ストリーミングサービスで配信されているのでこの機会にぜひ聴いてみてください。

めちゃくちゃ楽しいですよ。そういえば、堀井さんは志村さんと一緒にお仕事されたことがあるんですよね?

堀井:2回ぐらいかな? 志村さんがTBSラジオで番組を始めたときもご挨拶に行ったんですけど、真面目で無口な渋い男性のイメージですね。

スー:志村さん、思うところはいっぱいありますけど明るく送り出したいですね。みんなで志村さんにお悔やみを申し上げたいと思います。

◆4月3日放送分より 番組名:「ジェーン・スー 生活は踊る」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200403110000

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