毎週、金曜の朝8時30分からお送りしているTBSラジオ「金曜ボイスログ」。

パーソナリティ、シンガーソングライターの臼井ミトンによる12月18日の音楽コラム書き起こしです。


ポール・マッカトニーの本当の凄さは…長生き!?の画像はこちら >>

ポール・マッカートニーの本当の凄さとは

12月18日にポール・マッカートニーのニューアルバムがリリースされるということで、せっかくなので今日はポール・マッカートニーついてお話ししたいと思います。

もはや説明不要かなとも思いますけど、1962年にビートルズの一員としてデビューして以来・・・1962年ってことはもうちょっとで60年になるって事ですね、60年近いキャリアにおいて数え切れないほどのヒットソング、しかもただのヒットソングじゃないですよ!もう世界中の誰もが口ずさめるようなヒットソングを数え切れないほど書いてきた偉大な作曲家であり偉大な歌手ですよね。

彼の音楽の作り方とか作曲の手法っていうのは、これまでいろんな人が研究・分析して来ていて。例えば「ここでこういうふうに転調するところがすごいんだよ」とか「こういうハーモニーにこのメロディーをくっつけるところが天才的なんだよ」とか。もう論文みたいなものであったり、ポール・マッカートニーの作曲の手法についての書籍がいくつも世の中に出回っているくらい。

でもね、僕が思うにですけど、究極的にこの人の本当に一番すごいところがどこかって言ったら、僕は簡潔に、端的に、たった一言で実は言い表せると思っています。
長生きしてること!
実はそこが一番すごいんですよ。これまで音楽の歴史の中で、数え切れないほどの天才がその時代その時代で彗星のごとく現れて、世界中の人々を熱狂させて。そしてどうなるかっていうと、彗星のごとく消えていってしまうんです、大多数のスターが。
特にロックポピュラー系の音楽の世界では、これが顕著で。例えば、「トゥエンティセブン・クラブ」という言葉があります。

これちょっと不穏というか、おめでたい話じゃないんですけど、ジミ・ヘンドリックスとかジャニス・ジョプリンとかドアーズのジム・モリソン、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ、カート・コバーン、最近だとエイミー・ワインハウス。

ロック系のスターたちが何故かみんな27歳で死んじゃうんです。

なんでみんな27歳で死んじゃうんだろうねっていう。27歳で死んじゃうこの才能あふれるアーティストがあまりに多いもんで、「トゥエンティセブン・クラブ」なんていう言葉が作られちゃったわけなんですよ。
伝説的なブルースマンのロバートジョンソンも27歳で亡くなってますし、27歳に限らず20代で亡くなるアーティストもたくさんいます。数え切れないくらい。シド・ヴィシャスからデュアン・オールマンから バディ・ホリーから、30代で亡くなったスターとなると、さらにたくさんいるんですよ。金曜ボイスログの四時間半使っても、名前読み上げられないくらい。みんな短命と言うか早くに亡くなってしまう。日本だと例えば尾崎豊さんとかも若くして亡くなられてますし。

ポール・マッカトニーの本当の凄さは…長生き!?

何故若くして才能を爆発させる人達っていうのは、夭折してしまうのか、つまり早くに亡くなってしまうのか

これもあくまで僕個人の見解ですけど、飛行機事故であったりジョン・レノンみたいに射殺されてしまったりとかもちろん不可抗力の事故で亡くなってしまうというのもあるので、十把一絡げに決めつけるつもりもないですけど、誤解を恐れず一言で言うならばやっぱり「プレッシャーに耐えられない」ということなんですよ。
特に、60年代くらいからやっぱり音楽っていうのが商業ビジネスとして、世界的な規模で花開くわけです。そうするとそのアーティストにかかるプレッシャーっていうのは、もう世界中のリスナーから評論家から音楽雑誌からマスコミから注目を集める中で、前作よりもっといい作品を次に作らなきゃいけない。

あるいは何千何万っていうお客さんの前で昨日よりも良い演奏を、みんなが期待する演奏、いや期待する以上の演奏を毎晩披露していかなきゃならない。我々一般人からしたらもう想像もできないようなプレッシャーと彼らは向き合って生きていかなきゃならないわけなんですよね。

そして、一夜にして世界的な大スターになるということは、それはつまり凄い大金が転がり込むっていうことでもあるわけです。そうすると、ちょっと時代錯誤な言い方をあえてしますけども、酒と金と女とドラッグと、っていうのがもう向こうからやってくるわけですよ。プレッシャーから逃げるための絶好のツールが目の前にズラッと並んでいる状態で。やっぱりそういうものに溺れてオーバードーズして死んで行くっていうパターンがすごく多いんですね。

ポール・マッカートニーも同じような時代を生きたスターであり、やっぱり他のミュージシャンと同じように若い頃からありとあらゆる薬物に手を出して薬漬けだったわけですが、でも78歳になる今も元気に音楽活動を続けていられる。

なぜかっていうと、これもあくまで僕が思うにですけど、彼は自分自身の音楽的な才能に根本的にものすごく大きな自信があったからなんですよ。
作品を生み出し続ける自信。明日も明後日も何の問題もなく上手に歌っていける自信。これがあるから溺れないんですよね。

ポール・マッカトニーの本当の凄さは…長生き!?

特に1曲大ヒットしちゃった人っていうのは基本的には、「あの曲を超える曲はもう俺には書けないかもしれない」「書けなかったらどうしよう」っていう恐怖と共にその後の人生を歩んで行くわけじゃないですか。
でもポール・マッカートニーっていうのは、自分の内側の、曲のアイデアが湧き出てくる源泉みたいなものが枯れる気配がないんでしょうね。そこの部分の不安がないから、やっぱりプレッシャーというか恐怖もないわけなんですよ。もう次から次へと溢れててきてしょうがないんだと思います。それと同時に、自分の生活であったり世の中で起こった些細な出来事、ちょっとした小さなトピックなんかを元にポップソングに仕立て上げる技術的な「コツ」みたいなものもキャリアのかなり早い段階でつかんじゃってたんだと思うんですよね。だからそういう精神的なプレッシャーと無縁だった。

そして何より演奏の技術!

ポール・マッカートニーがビートルズでデビューして以降、本当に様々なライブを記録した映像っていうのが、五万と出回ってます。あれだけの世界的なスターだったんで。でもね、僕がどの動画を見ても、この人が音程を外してる瞬間っていうのを一度たりとも見たことがないんですよ。
そのくらいもパーフェクトな耳の良さ、音感の良さと、そして発声の技術がもうすごいんですよ。

「明日声が出なかったらどうしよう」って、歌を生業にしている人なら誰しもが思うんです。ステージに上がる前に、「うまくいかなかったらどうしよう」って。その恐怖もね、この人ほとんどないんじゃないかなって思っちゃうくらいの圧倒的な技術の裏打ちがあるんですよね。

こんな人の隣で一緒に音楽やらなきゃならないんじゃ、ジョン・レノンもそりゃグレるわ、って。ほんとミュージシャン目線で見ると、演奏の技術も曲の湧き出る感じもやっぱ圧倒的なんですよね。

凄まじい才能を持つ人ってのはその時代その時代で一定数、いろんな国で出てきますよ。でもその凄まじい才能を御する才能、あるいは才能という名の暴れ馬を軽々と乗りこなす才能さえも併せて持ち合わせてる人っていうのは、このポール・マッカートニーっていう人以外、思い浮かばないなぁっていう感じがするんですよね。

近いところで言うとスティービー・ワンダーだったりエルトン・ジョンだったりっていうのも割と軽々と乗りこなすみたいな側面はあるかなと思ったりもしますけどね。日本で言うなら桑田佳祐さんかなぁ。

ポール・マッカートニーには長生きしてもっとたくさんの作品を生み出してほしいですね。

78歳にしてこのコロナ禍で1枚アルバムを仕上げてしまうという、その新譜からかけたいところではあるんですが、僕は関係者でも何でもありませんので特に今日発売の新譜が、あらかじめサンプル盤届いてるとかそういうことも一切ありませんので笑、今日かけるのは、まぁポールマッカートニーの曲なら何聞いてもハズレがないんで何でもいいんですけど、僕が個人的に幼稚園児の頃からもう本当に大好きなこの一曲聞いていただきたいと思います。

ビートルズ時代の曲です。ザ・ビートルズで「ハロー・グッバイ」

◆12月18日放送分より 番組名:「金曜ボイスログ」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20201218083000

編集部おすすめ