TBSラジオ『蓮見孝之 まとめて!土曜日』毎週土曜日内で8時20分頃から放送している「人権TODAY」
6月11日(土)放送後記
無意識・無自覚に傷つける「マイクロアグレッション」
「マイクロアグレッション」という概念について取り上げます。マイクロアグレッションとは、「小さな攻撃性」という意味です。相手を差別したり、傷つけたりする意図はないのに、相手の心に影を落とすような言動をしてしまうことを言い表します。
たとえば、こんな言葉をかけてしまうことありませんか?
・外国の方ですか? 日本語がお上手ですね!
・女性なのにそこまで出世して凄い!
・ゲイの方って才能が豊かな方が多いですよね!
一見すると、褒め言葉や個性を評価しているような発言でも、かけられた側からすれば「もしかして馬鹿にされているのかな?」と思ってしまいます。マイクロアグレッションによくみられるケースです。
見た目が外国出身の人でも、もう何十年も日本に住んでいる人もいるでしょうし、生まれ育ちが日本という人も多いはずです。そこには「こんな見た目の人が、日本語が上手なはずがない」という思い込みが隠れています。出世した女性が珍しがられるのは、男性優位の社会構造がすでにあるからです。ゲイの方がみな才能豊かなのではないですし、自らの性的指向を公にせずに暮らしている人も世の中にたくさんいることに気づいていないだけです。
マイクロアグレッションについて、 人権教育や多文化共生を研究する、大東文化大学文学部教授の渡辺雅之さんはこのように話します。
差別とか排除というのは、誰の目にも「よくないよね」というのはあるわけです。それに対して、声をあげたり眉をひそめたりするのは私たち多くの人ができるんです。でも、自分自身が持っている、社会の中に埋め込まれている小さな差別・偏見に対しては気づきにくい。むしろ無自覚なままに行われていることが多いわけです。差別・排除・暴力行為は突然現れるのではなくて、必ずピラミッド構造になっていて、その一番下部構造にあるのが社会問題への無関心やマイクロアグレッションだと思います。
マイクロアグレッションは、人種、ジェンダー、障害、高齢者、性的少数者など自分と異なる属性に対して向けられます。マジョリティ側は、マイノリティ側との間に壁があるとは感じていない。だからこそ、その違いについて、無意識に無自覚にマイノリティ側に問いかけてしまいます。マイノリティ側からすれば、「自分は異質なんだな」と思い知らされてしまいます。心理的ダメージが積み重なり、大きな偏見・差別へと発展していきます。
「相手の経験を無価値化させること」もマイクロアグレッションの特徴
時に、「それって偏見なのでは?」とマイノリティ側が声をあげたとしても、マジョリティ側によってかき消されてしまうことも多いと言います。
「気にするあなたが悪い」「そんなこと気にしなくていいじゃん」「差別なんかないよ」「私たちも気にしてないから」って。でも本人はそのことにつらい思いを抱えているのに、「気にしなくていい」と言われてしまうと、「私の抱えている問題や課題が取るに足らないことなんだ」ということになってしまう。見えないものにされてしまう。アグレッション自体が。
また、人の訴えに対して、「思いやり」などの話にすり替えてしまう問題も起こりがちです。 例えば、公共交通機関や施設のバリアフリーが不十分であることを訴えた身体障害のある方対して、「配慮してくれている人への感謝の言葉が足りないのでは?」「事前に連絡してくれればこんな騒ぎにならなかったのに」「権利ばかり主張している」という議論が出てくることがあります。
自らの感覚をアップデートしていくこと
では、マイクロアグレッションをなくすためにはどうしたらよいのか? 渡辺さんはこのように話します。
見えにくい、気づきにくい偏見や差別についても、いつでも目を向けながら、アップデートしていくこと。その繰り返し。
例えば、クオーター制やパリテのように、社会構造をドラスティックに変えることが必要かもしれません。当事者に議論に参加してもらうことも大切です。しかし、それは、ひとつの手段にすぎません。
ある分野においてマジョリティ側に属していると、どうしてもその特権に気づきにくいものです。すべてのマイクロアグレッションをなくすことはできないかもしれませんが、この社会はすでに多様な人が暮らしていると気づき、まだ想像できていない部分があると認めることこそが、その第一歩なのだと感じました。