TBSラジオ毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8時20分頃から放送している「人権トゥデイ」。様々な人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。
インターネットを使ったオンラインの「ゲートキーパー養成講座」を開催しているNPO法人「日本ゲートキーパー協会TOKYO」を紹介します。
▼講座スクリーンショット
「ゲートキーパー」という言葉を皆さんはご存知でしょうか。直訳するとゲートは「門」、「キーパー」は「守る人」、つなげて「門番」という意味でになりますが、福祉や保健の用語では自殺を考えている人の兆候を見つけ、問題解決の支援をする人を「ゲートキーパー」と名付け「命の門番」いう意味で使っています。生きていくのがつらいほど悩みや苦しみを抱えている人を支えて、気持ちを楽にしてあげるような役割です。
2007年に内閣府が決定した「自殺総合対策大綱」の中でも「ゲートキーパー」の役割をする人を増やすことが自殺対策の重要項目として挙げられ、厚生労働省や自治体などが 積極的に取組んでいます。
こうしたゲートキーパー養成を目的として「日本ゲートキーパー協会TOKYO」は2019年に設立され、現在、11人のスタッフで運営されています。協会の特徴は、企業や団体、学校などを対象とする研修だけでなく、個人に向けた初歩的な養成講座をインターネットの会議システム、ZOOMを使って自宅で参加できるオンライン形式で行っていることです。代表理事で公認心理師・精神保健福祉士の森本美花さんに協会を設立した経緯や特徴を聞きました。
▼スタッフの皆さん。写真右から大久保光男理事、森本美花代表理事、菅原玲子理事、林晋吾理事

NPO法人「日本ゲートキーパー協会TOKYO」代表理事の森本美花さん
もともと新潟と群馬に拠点のあった「日本ゲートキーパー協会」から暖簾分けのような形で東京の拠点として設立されたのが弊会です。最初は対面の授業を想定して講座をやろうとしてましたが、会場を借りて始めたら、コロナの感染拡大が始まってしまい、じゃ、オンラインでやってみようとZOOMを使って「ゲートキーパ養成講座」を始めました。そうしたら全国から受講者が集まってくれて。
日本ゲートキーパー協会TOKYOは、「ゲートキーパー」を「生きる人を支援する人」と位置づけ、自殺だけでなく人間関係や健康などで悩みを抱えている人の兆候に気付き、声かけや見守りを通して支える「ゲートキーパーマインド」を持つことを講義しています。虐待、いじめ、ハラスメントに苦しむ人や不登校や引きこもりの人たちの気持ちに寄り添うことで、思い詰めてゆくことを防ぎたいとしています。
オンラインで行なわれる「入門編」の講座ではゲートキーパーの役割を「気づく」「声かけ」「つなぐ、見守る」「話をきく」の4つのアプローチを通しどう対応すればいいか、分かりやすくやさしく説明します。たとえば、心にストレスを抱えている人に気づくポイント、急に性格が変わったように見える、身なりに構わなくなるといった兆候や、声をかける時「どうしたの?」「変だよ」と直接的に聴くのではなく、「疲れてるように見えるけど、心配だよ」「何かあれば話だけでも聞くから声をかけて」というようにその人が安心できる聞き方をし、話にじっくり耳を傾けるコミュニケーションの方法を実例で教えてくれます。
当事者の立場からゲートキーパーの重要さを伝えるまた、協会の特徴として、障がい、病歴などがある当事者がスタッフとして講座を担当している点があります。協会理事の菅原玲子さんは自閉スペクトラム障がいと双極性障がいがあり当事者の立場からゲートキーパーの重要さを伝えています。菅原さんはこのように話しています。
NPO法人「日本ゲートキーパー協会TOKYO」理事の菅原玲子さん
私の立ち位置としては、当事者としての意見を伝えることで私は希死念慮といって死にたいとか、消えてしまいたいという気持ちもあるし、精神障害2級のの手帳を持っていて、それなりに状態も悪いんですけど、こんなに弱い自分でもゲートキーパーとして見守ってくれる人、相談する人がいればちゃんと生きていられるんだよ、そんな程度のことからでいいんだと伝えられたらいいなと話をしてます。ネットなどで「ゲートキーパー」を調べると「自殺対策」という言葉がでるので、かなり重い役割のイメージが強いんですが、そうではなくて日常の中の出来事から「こんなことをしてもらえたら私にとって救いになったよ」と私なりに実体験を伝えられたら、と思って話をしています。
このように当事者としての経験から講義をしているのは菅原さんだけでなく、同じく協会理事の林信吾さんはパニック障がいと鬱病の病歴があり、その時感じた周りの人が離れていくような孤立感を家族や友人など周囲の人間がどのような対応をすれば支えられるかをやはり実体験から伝えていければと話していました。
「ゲートキーパー養成講座」は講師が毎回替わり、いろいろな人の意見や経験を反映させた話をすることで、身近さを感じてもらうことも意図しているそうです。受講者は、以前はカウンセラー、企業でメンタルケアの担当をしている人などが多かったそうですが、最近では興味をもった一般の方も増えてたとえば家族や友人に鬱病などの病気があったり、コロナ感染拡大以降、仕事がリモートになり不慣れな労働環境に不調を感じた人がいてどう接していいか分からないので受講してみたという方もいるそうです。
現在、講座は月に2~3回程度開催され、これまで18回行なわれて約200人が参加したそうです。今後はさらに上級の内容の講座も準備しているそうです。私(藤木)自身も2回、オンラインの養成講座に参加しましたが関東地区だけでなく北海道から参加している方もいました。とてもやさしい言葉、具体的な事例で説明して「ゲ−トキーパー」という役割に対する考え方のハードルが下がったように感じました。参加者の感想でも「自分にはできないと思っていたけれど、そうじゃなかった」というものがあったそうです。
「ゲートキーパー」を身近に感じてもらいたい最後にふたたび代表理事の森本さんに、「ゲートキーパー養成講座」の意義や課題について聞きました。
NPO法人「日本ゲートキーパー協会TOKYO」代表理事の森本美花さん
悩んでるような人がいて、見た目に変化があったり気になることがあったら、声をかけて孤立させないことだと思うんですよ。
現在は自殺対策として使われることの多い「ゲートキーパー」という言葉ですが、誰でも「ゲートキーパー」になることができ、いろいろな場面で人と人の支えあいにも使える広がりのある役割だと思いました。
◆5月29日放送分より 番組名:「人権トゥデイ(蓮見孝之 まとめて!土曜日内)」
◆https://radiko.jp/#!/ts/TBS/20210529082210