TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』毎週月曜日~金曜日 朝6時30分から放送中!
2月8日(水)放送後記
トルコの大地震では刻々と犠牲者が増える深刻な状況。多くは建物が崩壊し、その下敷きとなって亡くなっているようです。
実はこうした建物の危険性は、以前から指摘されていました。また、その防災技術が日本で開発されています。2022年3月22日放送「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)「現場にアタック」の内容から、振り返ります。
危険な「組積造」に世界人口の6割が
地震被害を抑えるために世界で耐震化が急務な建物、それは「組積造」。あまり聞きませんが、どんな建物なのか。東京大学・教授で、都市震災軽減工学が専門の、目黒公郎さんに伺いました。
東京大学(都市震災軽減工学)教授 目黒 公郎さん
「レンガとか石とか、コンクリートブロックとか、こういったものを積み上げて作る構造のことを「組積造」と言います。海外は非常にたくさん存在していて、世界の人口の6割位は、いまだに組積造に住んでらっしゃいます。もちろん場所によって違うんですけど、震度5弱位から、組積造はかなり壊れるんですよ。もう瞬時に壊れるので、避難ができない。それから一個一個の部材が、レンガ一個とか小っちゃいから、壊れると人が生き延びるための生存空間っていうのができないんですよ。行くとね、ここに集落があったっていうような所が、土の山みたいになっちゃってますよ。もう完全に壊れて。
日本ではほとんどないそうですが、実は世界の人口の6割がこの組積造に住んでいるそうです。日本のレンガ風の建物は、表面にレンガを張り付けているだけで、中身は鉄筋コンクリートなのですが、中東や南米などでは、石やレンガを積み上げて壁を作った組積造が多く、揺れに弱いという弱点があります。
例えば、2003年のイラン「バム地震」では、マグニチュード6・6の地震で4万人が死亡。2005年のパキスタン「カシミール地震」では、マグニチュード7・6の地震で8万~9万人が死亡。いずれも主な死因は建物の崩壊によるもので、1階建て~5、6階建てのモノも、ガラガラになってしまいます。
多くの命を救うためには、この組積造の耐震化を進めることが必要な状況なのですが、では組積造自体を、作り変えることはできないのか?もちろん、地面に基礎を作った上に、木や鉄筋で柱を立てれば建物は強くなりますが、コストがかかってしまいます。一方の組積造は安く作れるし、レンガの原料となる土や石は入手しやすいので、なくすことも難しいとういことです。
壁に塗るだけで震度7にも耐えられる
では、既に建てられた組積造を強化する方法はないのか。調べてみると、実は日本の企業が、ある画期的な技術を開発していた。
株式会社Aster代表取締役 鈴木 正臣さん
「組積造は非常に地震に弱いんですけど、塗るだけで耐震性を上げる技術を開発しました。塗料なので色は何色でも作れるんですけど、クリームチーズみたいに結構ドロッとしてるものです。アクリル樹脂というものと、特殊な繊維を混ぜて使ってるんですけど、ローラーとかコテみたいなもので塗りつけるみたいな感じで、普通に塗装してるのと何も変わらないですね。組積造がとにかく弱いのは、ちょっとずれたらガラガラって崩れ去ってしまうっていうところなので、横にガラガラガラガラって崩れないようにサポートするっていうのが役目です。
▼Asterの特殊塗料「Power Coating」

地震で揺れた時、「建物の変形にどれだけ耐えられるか」が、耐震性において重要になってきますが、レンガとレンガをモルタルで重ねただけの組積造は、柔軟性がなく簡単に崩れてしまいます。ところが、こちらのガラス繊維を混ぜ込んだ特殊な塗料を、厚さ1ミリほど、壁面に塗って乾かすと、レンガ一個一個が一枚の大きな板になったイメージで変形に強くなり、震度7にも耐えられるようになるということです。
さらに、どの部分をどの程度補強すればよいか検証できる解析技術も開発し、必要最小限の塗料で済むように、塗る場所や量を割り出すこともできます。最終的には、1平米あたり300~500円、一軒家だと、平均3万~5万円と、従来の壁の塗り替えと同程度の価格を目指したいと話していました。というのも、「耐震補強してください」と言っても、現地の人は、お金をかけてくれません。むしろ、「普段の壁の塗り替えですよ」とした方が、早く広まることに気づいたということです。
震災が起きる前に!が大事
ただ、とにかく、早くこうした耐震技術を普及しなければいけませんが、これについては、東京大学の目黒さんも、こう指摘していました。
東京大学(都市震災軽減工学)教授 目黒 公郎さん
「2015年4月25日にネパールで地震があって、そこでは9千人以上の方が亡くなったのね、4月の25日に。それで翌26日に、日本は70人の専門家たちを、最新の機材と一緒に特別機でネパール・カトマンズに向かって派遣したんですよ。延べ11日間、レスキューオペレーションを被災地でやったんですよ。実際はどれぐらいのことができたと思います?生存者の救出はゼロで、遺体の発見「1」。事後対策で救える命ってのは非常に限定的だってことなんですね。
地震が起きてからでは救えない命もあります。今回のトルコの地震では、速やかに救助を進める一方で、他の地域の組積造の建物への対策を急ぐ必要がありそうです。