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2月12日(日)放送後記

七代目・田中傳次郎さん(part 1)

歌舞伎囃子方七代目。父親は能楽師葛野流大鼓方の人間国宝、母親は歌舞伎囃子田中流前家元という、能と歌舞伎の名門の家に生まれ、1994年に七代目・田中傳次郎を襲名しました。

出水:田中さんは先日新橋演舞場で開かれた市川團十郎襲名公演「SANEMORI」でも囃子方として出演していらっしゃいましたが、ジュンコさんもご覧になったんですよね?

JK:田中傳次郎さん、本当のプロデューサーですよ。なにしろお客の革命ですね! 若返り作戦! 400年以上続いてきてだんだん寂しくなるんじゃなく、周りみんな若い女の子だらけで、私が逆に浮いちゃって。なぜか?!

田中:3~5年ぐらい前からジャニーズ事務所の方たちと交流がございまして、いつか歌舞伎の世界でコラボレーションできたらと考えていたんですが、3年前に「SANEMORI」という作品で、デビュー前のSnow Manの宮館涼太さんと阿部亮平さんにご出演いただきました。そして今回、3年ぶりに宮館さんが実盛として帰ってきた。偶然のように見えますが、実はこの3年間ずっと温めていまして。

JK:本当に目が覚めますよ! 新しいコラボレーションっていうか、全く違うジャンルで活躍している人が、ちょっとしたことでパッと火花が飛ぶ。これだ!と思いました。それとジャニーズのイメージをがっとひっくり返した。本物なんですよ! 背も高いし、堂々としてるし、セリフもきちっとしてるし、プロの方が見ても違和感ないと思いますよ。

田中: ないと思います。お忙しい方ですが3か月前から特訓して、紅白とか年末の忙しい中を縫って、だいぶご自身も努力されていたので。こちら側も10じゃなく15ぐらい注文を出した。

あの立ち回りは歌舞伎の人もなかなかあそこまでできないと思います。最後に幕が閉じたら、おつきの方が酸素ボンベで補充しないと動けないくらい。

出水:えーっ!(@w@)

田中:彼も真摯な方なので、まっすぐ歌舞伎に向き合っていただいた。ジャニーズの中の歌舞伎ではなく、歌舞伎の中に1人の俳優として入られていたので、違和感はなかったかなと思っています。

JK:ジャニーズの人っていうより、新しい演出にしっかりハマってるというかね。あの人じゃないとできないなあって思った。客席にも出ていくんですよ!

田中:みなさんが座っている肘掛けに立ち上がったり(^^)なかなか面白いですね。歌舞伎ってお客様との交流なので、それがやはり大事だと思います。

JK:ファンの人も、昔から歌舞伎が好きだった人も嬉しかったと思う。今は新橋や歌舞伎座とかいろんなところで歌舞伎やってるけど、いいことだと思うんです。一気にブームにするっていうかね。見るのに慣れる環境にしていくのはいいんじゃないかなって。

田中:私も4年前にNYのカーネギーホールに挑戦させていただいた時、外国人のファミリーが桟敷席に1ボックス取って、お子様もタキシード着ていらっしゃって、夜11時まで観て・・・そういう文化って日本にはないですよね。演劇ってお客様がいらっしゃることで、交通や宿泊、周りの飲食店もあるので経済効果もある。ネットやTVの時代ですが、やっぱりお客様に足を運んでいただく環境を作っていかないと。

JK:とくに歌舞伎は孤立してる。チケット買うところから慣れてないっていうかね。

田中:こないだの團十郎さんの襲名公演では、歌舞伎座で初めてCMを作ったんです。歌舞伎ってCMをやってないので、今何をやっているか分からない。どうしてもネットだのみになったり・・・我々としても、お客様にもっと足を運んでいただく代わりに、自分たちも足を運んで宣伝していかないと。「好きな方だけ来てください」っていう文化になるのは危険ですね。

出水:市川團十郎襲名公演では、囃子方だけでなく「作調:田中傳次郎」とも記されていましたが、作調とはどういったことをやるんですか?

田中:囃子方の仕事はいわゆる鼓や太鼓など打楽器全般を打つんですが、歌舞伎の黒御簾という場所には20~30種類ぐらいの楽器があるんです。今のようにテーブやSEはないので、風の音だったり水が流れている音も全部和太鼓で表現するんですね。波のシーンや山から吹き下ろしている風だとか・・・そういうのを300年かけて検証してきているんですが、「この場面で三味線はこう弾きましょう」「打楽器チームはこういう音を作りましょう」と相談するのが作調です。

JK:楽譜がないわけでしょ。

田中:そうなんです。1シーンを漢字1文字だけで覚える。あとは自分で芝居を見ながら自由演奏なんです。あとは自分のフィーリングだけ。

JK:じゃあ毎日違うわけですか?

田中:役者さんが毎日なんとなく違うので、それを感じ取りながらフリー演奏しなくてはいけないんです。だから台本2ページとか平気でありますよ。玉三郎さんがやる場面と仁左衛門さんがやる場面は違うので、ちょっと工夫したり、音量も役者さんのお好みの音を出す。

JK:だけど1人じゃないからね! ズラーッと並んでるでしょ? いつも思うんだけど、楽譜はないし、指揮者はいないし、どうやって?

田中:ひな壇で表に出て演奏している者には楽譜はあります。でもマル、バツ、ギザギザ、みたいな譜面で、誰も読めない。絶対FBIでも解読できない(笑)

出水:黒御簾にいる皆さんは楽譜なしで?

田中:台本の中に「●●の音」と書いてあるだけですね。映画のサントラを生で演奏しているものもあれば、ミュージカルのように演奏しているものもある。

JK:でも指揮者がいないからねぇ! せーの、っていうのは誰かリーダーがいるの?

田中:三味線の方が指揮を取る時と我々がテンポを取る時があって、我々が早くしたかったらどんどん早くしていくし、三味線の人が「フ・ヤー」といえばその息遣いでリズムが決まる。我々も「ヨー」とか「ホー」とか掛け声を言うじゃないですか。奇声を発しているわけではなく、あれも打楽器なんです。我々の声の調子でリズムを取っているんです。

JK:これは江戸時代からずっとこうやってきてるわけですか?

田中:そうですね、お能から派生してます。あれが日本のリズムなんですね。イッチニィサンシ、ニィニィサンシ、と童謡でも国歌でも全部4拍子なんです。岸和田のだんじりでも、チキチンチキチン・ダンダンダンダンッ、と4拍子。日本の祭りの興奮値なんです。三々七拍子は奇数ですけど、ヨヨヨイ・ヨヨヨイ・ヨヨヨイヨイ、と4拍子です。

JK:團十郎さんとは襲名から総合プロデューサーとして関わっていらっしゃいますよね。

田中:自分は裏方が好きなので、自分の名前はチラシなどには書かないんですけど・・・これからどんどん若いお客様をはじめ、いろんな角度から見ていかないと。

歌舞伎はもちろん、伝統芸能全般に危機感を感じているので。

JK:舞台がよくても、お客様が変わらないんじゃあねえ。

田中:だから音の工夫、音の楽しさで、耳で魅せる。やはり歌舞伎って視覚的効果が強いんですけど、祭囃子で皆さん興奮するように、立ち回りのシーンで激しくリズミカルにすると、お客様もノリやすいかなと。カーテンコールの音も、みんなで手拍子できるように工夫したり。

JK:新しいですよ! 宮館さんも媚びを売らず、びしっと決めているのがカッコよかった。ジャニーズだからできるんだろうなとも思ったの。ふだん訓練してるでしょ?

田中:そうですね、ダンスの訓練も受けていますからね。ダンスにならないように、とこちらが直すと、直した通りにできちゃうんです。逆に我々がジャニーズにようにできるかと言われたら、絶対無理(^^;)だけど彼らは逆輸入ができるので、それはすごいと思います。

OA楽曲
M1. 旅の衣は篠かけの / 芳村伊十郎 (七代目)

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