TBSラジオ『アフター6ジャンクション』月~金曜日の夜18時から放送中!

4月14日(金)放送後記

「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では3月31日から公開されているこの作品、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』。

はい、今これ、重々しいサントラが流れてますけど、エンディングテーマはね、テーム・インパラの曲(『Wings of time』)に乗せて……あれもなんか、すごい楽しいエンディングでしたけどね。1974年に誕生したテーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム、通称「TRPG」の元祖『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をクリス・パイン主演で新たに映画化。舞台は、様々な種族やモンスターが生息する世界「フォーゴトン・レルム」。ある目的のために旅に出た盗賊のエドガンと相棒の戦士ホルガは、仲間を増やしつつ、数々のクエストを乗り越えていく。やがて彼らは、世界を脅かす巨大な陰謀に立ち向かうことになる。

主演のクリス・パインの他、ミシェル・ロドリゲス、ジャスティス・スミス、ヒュー・グラントなどが出演しております。脚本・監督は、『スパイダーマン:ホームカミング』などの脚本も手がけている、ジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーさん。この2人が監督・脚本ということで、ぜひこの2人の名前を覚えて帰ってね、という回になるかとも思います。

ということで、この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。

メールの量は、「普通」。 賛否の比率は、褒める意見がおよそ9割。結構これ、好評ですね。主な褒める意見は「予想をはるかに超える良く出来たエンタメ大作」「TRPGを知らない自分でも楽しめた」「いや、TRPGを題材にした映画としても最後までよくできている」などございました。つまりマニアも、わりと私のようなライト層も満足、という感じ。一方、否定的な意見は、「ギャグがくどい」「センスが合わない」「目新しさがなく、凡庸」などの意見もございました。

「滅茶苦茶良い意味で裏切られました。本作の見えない功労者は編集を手掛けたダン・レベンタル」

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「Mr.ホワイト」さん。「トレーラーを見てたときは「こりゃ観るプライオリティ低いな」と思っていたのですが、滅茶苦茶良い意味で裏切られました。先入観良くない。ワンランク上の面白さでした。

近々もっぺん観ます。4人+1人の好漢ぶりとチームワーク感が隅々まで心地良い、という時点で快作なんですが、この作品には更にアドベンチャーシーンに創意と工夫が満ちています。これは全く簡単じゃないと思います。

ワープ鏡を使った……」。要するに「ここそこ杖」っつってね、要するにポータル穴を開けて移動する、という。「……ワープ鏡を使ったドタバタ、スライムを活かした脱出など、どれもありそうで、でも見たことのない仕掛けであり、監督脚本コンビが、とても楽しんで考えて抜いたことを感じられます。

そして、本作の見えない功労者は、編集を手掛けたダン・レベンタルでしょう。キレキレの笑いのテンポを編集で作っていました。特に墓場のシーンでその力量が発揮されていました。大笑い(長そうな話は即カット)。サイモンのボケもだいたい即切りで編集ツッコミの役割と化しています。レベンタルは『アントマン』『アントマン&ワスプ』のマイケル・ペーニャの与太話を竜巻みたいに捲し立てる編集を手掛けた人です。

彼とマイケル・ペーニャを欠いた3作目は、独自性と笑いの個性を失っていました。ディズニープラスの配信映画『ウエストエンド殺人事件』(サーシャ・ローナン主演)といい、こういう楽しい編集が多くなっている気がします。(元祖は勿論スコセージでしょうが)」。

このMr.ホワイトさんのね、「映画うるさ型感」ね(笑)。(より本来の発音に近い)「スコセージ」っていうね。まあ、(マーティン・)スコセッシのことね。ちなみにこの編集のダン・レーベンタールさんは、監督・脚本の2人のコンビが脚本を提供した『スパイダーマン:ホームカミング』をはじめとして、今回のプロデューサーの方が手がけた『アイアンマン』とか『アイアンマン2』とか、初期MCUを手がけられてる方というのもあって……だいたい、ちょっと前期MCUメンツが多く参加している作品、という面もありますね。

一方、ダメだったという方。ラジオネーム「jongo」さん。「『ダンジョンズ&ドラゴンズ』否定派です。まず、ギャグが全く面白くありませんでした。というかイライラしました。

死体のシーンは「それ、最初に当たりの死体を引いても話は変わらないよね。早くしてよ・・・」と笑いに包まれる劇場の中、舌打ちしそうになりました。

なぜこんなにイライラしたのか。自分でも半分驚いています。周囲でも似ていると言及されている『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では、、事の重大さがわからない前半こそ軽口が多いですが、「これが敵の手に渡るとシャレにならないぞ・・」と判明した後半からは、無駄な軽口は少なくなっていました。それに対し、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』では、「娘がヤバいやつに捕まっていて、半分洗脳されかかっている」という主人公にとっては切迫すべき重大な問題が序盤から起こっているのです。そんな状況にもかかわらず、主人公はギャグや軽口を延々言っているため、「もっと焦れよ! 娘のこと大事じゃないの?」と感じてしまい、イライラにつながったのだと思います……」という。いろいろ書いていただいて。「ギャグも笑えないし、カタルシスもない。もったいなかったです」というジョンゴさんもいらっしゃいました。ということで皆さん、メールありがとうございます。

『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、私も、TOHOシネマズ六本木でまず字幕版、そして109シネマズ二子玉川で吹き替え版と、2回、観てまいりました。

 

芸達者で豪華な声優+素晴らしいアダプテーション=吹き替え版の面白さ、体感30%UP

ちなみに今回ですね、またしても劇場パンフ販売なし、ということで。一応、公式ホームページに、オフィシャルなプロダクションノートとか載ってるんですが……うーん、今作こそやっぱり、日本の識者による『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、元のTRPGの歴史解説と本作のそのディテール(の比較)、みたいなのがほしいところでしたね。やっぱり、公式のああいうプロダクションノートは、ちょっと味気ないんだよな。なんかな、ちょっとな……と思いましたね。

TOHOシネマズ六本木の方は、日曜だったのもあって、おそらく観光客と思われる本当に多種多様な家族連れで、かなり賑わっていましたね。家族連れがね。あとはチラホラ、いかにもD&Dプレーヤーといった感じの、英語圏オタク、という雰囲気の人。

あとですね、一方、これは絶対日本語吹き替え版も観ておいた方がいいやつだ!という風な気がしてですね、久々に二子玉まで足を伸ばしましたが……実際、これが非常に良かったです、吹き替え版。

ものすごく身も蓋もない言い方をしてしまえば、先ほどメールもあった通り、みんな大好き『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』っぽいバランスの、適度にオフビートなコメディテイストがまぶされた作りなんですけども。その面白みがですね、この吹き替え版、私を初めとする日本語ネイティブにも、スッと入ってきて。わざとらしくもなく、やりすぎてもいなく、自然に笑える、大変見事な吹き替え版、翻訳版になっていると思います。

クリス・パイン演じる主人公エドガンを当てている、武内駿輔さんがとにかくうまくてですね。たとえば、予告やCMなどでもよく使われていた、あの知性に反応する脳みそ型のクリーチャー……要するに、「インテリジェンス」っていう、たぶんその枠組みのキャラクターには反応する、みたいなことなんでしょう? ゲームでいえば。

その脳みそ型のクリーチャーが、主人公たちの横を素通りする……要するに知性が高い人がいない、というようなギャグになっている。で、字幕で「知性が低いってこと?」って読んでも、もちろん面白いです。それも面白いんですけど、これね、具体的に何を言うかは伏せますが、この吹き替え版ではですね、この武内駿輔さんが、もう一個ですね、「ボヤき」のニュアンスを加えた、素晴らしいアダプテーションをしていてですね。元々面白いと思っていたシーンなのに、思わずここ、声を出して笑ってしまいました。この、武内さんの言い方がおかしくて。

あと、劇中でも特に笑える……先ほどね、ちょっと「笑えない」という意見もありましたが、非常に評判がいい、墓場で4人の死者に5つだけ質問できる、というくだり。元々、本気で『モンティ・パイソン』のオリジナルメンバーに声を当ててもらおうとしていたというほど、特に『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』っぽい、毒っ気が効いたシーンですけども。これ、『DVD&動画配信でーた』のインタビューで、音響監督の依田孝利さんという方……ベテランの音響監督である依田さんのインタビューによれば、4人の死体役は、収録が始まってもまだ決まってなくて、本国からは「重要な役なのでインフルエンサーのキャスティングを」というような要請があった。そこで依田さんはなんと、神谷浩史さん、森川智之さん、津田健次郎さん、諏訪部順一さんというベテラン、ビッグネームたちを、ここだけに配役!……めちゃくちゃ贅沢なんですね。だから、それぞれ短い出演、本当にひとことふたこと言うような感じなのが、さすが、日本の観客の笑いをですね、やっぱりダイレクトにかっさらっていく感じ。森川さんとかが……それこそ、トム・クルーズですよね。トム・クルーズ声で、あの隊長だよね。「いや、ちょっと途中で死んじゃって……」みたいなのとか、あんなのがすごいおかしい、ってのもあるし。

あとですね、木村昴さん。普段はやっぱり、押しが強い役のイメージが強い……もちろんジャイアンですから。その木村昴さんが今回は、オリジナルではジャスティス・スミスが演じる、気弱な魔法使いサイモンをやっていて、非常に新鮮だし、やっぱりうまくてですね。しっかり笑かしまくってくれるんですよね、本当にね。

ということで、ちょっと長くなりましたが、本作に関しては、日本語ネイティブの方には吹き替え版がかなりおすすめかもしれないです。体感30%ぐらい面白さ、満足度が上がりました、私は。今日から(吹き替え版の上映)回数が、グッと減ってしまったのはあるんですが。

マニアも唸らせつつ、知らない人でも楽しめる。これはまさにMCU的バランス

ということで、改めて、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』。原作はですね、何度も言ってますが、この番組でも3月23日にですね、多田遠志さんと三角絞めさんに特集をやっていただきました……1974年に誕生以降、様々に進化を遂げながら、世界中で熱烈なファンを生んできたTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、通称D&D。

ただ私自身、世代的には本来ジャストだったはずなのに、もったいないことしました、ご縁がなく、実際にプレイしたことがあんまない、というD&D弱者なので。その点に関してはひとまず置いといての、あくまでも映画作品としての時評となることを、まずはちょっとどうかご容赦いただきたいんですが。

もっとも、今回の最新映画版、その特集の時もですね、お二人とも口を揃えていらっしゃいましたし、他に多くのD&Dプレーヤーの方も、本作について、ファンを納得させうならせる数々のディテールに満ちている、という……だからそういう、マニアがうなるようなところもよくできていると同時に、仮にそれらに関する知識がなかったとしても、ちゃんと楽しく面白いエンターテイメントになっている、という。純粋に一本の映画としても非常によくできている、という風に皆さんおっしゃっている。これ、プロデューサーのジェレミー・ラッチャムさん、先ほども申し上げましたが、元々は前期MCUのプロデューサーをやられていた方で。まさにMCU的バランスというかね、コミックを知ってる人はめちゃくちゃ「ああっ!」ってなるけれども、知らなくても、もちろん面白い!っていうね。MCUバランス。

過去の映像三作品に比べれば、今回は文句なしの大傑作!

あと、さらにその前提としてですね、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を映像化した過去の3本の作品がですね、単純に映画としてはというべきか、いろいろアレな作品だった……あまりにもいろいろアレな作品だったという苦い歴史もある、というのがあるとは思いますけど。僕もこのタイミングでですね、3本、DVDを買って観たんですけど……これ、D&Dプレーヤーでもない身としては、正直、かなりきつかった(笑)。3本観るのは。

めちゃくちゃざっくり僕なりに表現するなら、2000年の1作目はまずね、悪い意味でふざけすぎ。「ああ、これはダメだ」っていう感じですね。今回のみたいな、こういうバランスの良いコメディタッチじゃなくて、バランスが悪いコメディタッチというか。2005年の「2」は逆に、前よりはマシだけど、生真面目すぎ。で、2012年の「3」、『太陽の騎士団と暗黒の書』っていうのは……これが一番あえていえば、かなりダークめで、ダーティめで、中では一番楽しめました。

特にですね、途中出てくる、アンデッドガール(ゾンビ少女)というキャラクターがいて。あれ、ストップモーションアニメなのかな? とにかく、ものすごく禍々しくて、気味が悪いし、気まずい……顔がぐちゃぐちゃの少女が、こっちの指をねぶりまくってくる!っていう(笑)。最悪なんだけど! ドン引き!っていう。はい。でもあのシーンを観られただけでも……非常にインパクトがあるシーンでしたから、あのシーンを観れただけでも、僕は観た価値がありましたね。「3」は良かった。まあでも、そんな感じ。

なので、それらに比べればですね、今回のリブートは、もう文句なしの大傑作!と言っていいレベルだと思います。過去3作と比べたらね。

脚本・監督のジョナサン・ゴールドスタイン&ジョン・フランシス・デイリーさんのコンビが大正解

とはいえですね、ここに至るまでの経緯は、めちゃくちゃ入り組んでいる作品でもあって。本当に長年、二転三転を続けた企画でもありました。よく映画ができたな、っていうぐらい、二転三転している。なのでこれ、間の話はあまりにも複雑なのでちょっと端折りますけど、とにかくですね、本作では今は原案とクレジットされている、クリス・マッケイさん。彼の脚本・監督で進んでいたんです。クリス・マッケイさんって、あの『LEGO ムービー』シリーズを手がけてきた方なんで、「ああ、なるほど」と……まあ適任にも思えますけども。彼は、『トゥモロー・ウォー』というね、あのクリス・プラットのあれを監督するために離れまして。最終的に、ジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーさんというこのコンビが脚本・監督に落ち着いた、ということですね。今回はぜひですね、このジョナサン・ゴールドスタインさん、ジョン・フランシス・デイリーさん、このコンビの名前を覚えて帰っていただきたいんですが。

これ、特集の時に多田さんもちょっと言及してましたが、ジョン・フランシス・デイリーさんは、『フリークス学園(原題 Freaks and Geeks)』のサム・ウィアーという役で出てたような、元々は俳優さんで……しかもその『フリークス学園』の中で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をプレイしてたりしてますけどね。みたいな感じです。で、この2人、先ほど言ったジェレミー・ラッチャムさんのもとで、『スパイダーマン:ホームカミング』の脚本を手がけたりとか。その前には、『モンスター上司』ですね。あれも面白かったね。『モンスター上司』の脚本とか、あとまあ僕、作品としてはちょっとあれかなと思ったけど、『くもりときどきミートボール2』ね……ちょっと僕には「がっかり2」でしたけど、まあこれの脚本とかをやってた人たちですが。

この2人がですね、自分たちで監督も手がけた……脚本だけでなくて、監督も手がけた過去の2作のコメディ。これ、すごい面白くて。2015年、日本題『お!バカんす家族』っていう……これね、『ホリデーロード4000キロ』という1983年のチェビー・チェイスが出ている作品、あれのリメイクというか続編というか、なやつと。あと2018年、『ゲーム・ナイト』。これね、レイチェル・マクアダムス史上、一番かわいいと思うね!(笑)。『ゲーム・ナイト』。この2本のコメディを監督してて、これ、どっちもめちゃくちゃ面白いんです。普通にゲラゲラ笑えて、本当にハラハラもする、みたいな。本当に面白いんですけど。

で、連続して観るとですね、今回の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とも、はっきり共通して見えてくるテーマもありまして。どれもですね、私の表現になりますが、「いわゆるイケてる男」ではない自分に、引け目やコンプレックスを抱えたオタク的資質の男が、冒険を通して、その引け目とか、「いわゆるイケてる男」に対するコンプレックスを克服してゆく物語、ということですね。で、それを『ダンジョンズ&ドラゴンズ』映画化にも持ち込んだ、っていう言い方ができると思うんです。

それっておそらくですね、多くのD&Dプレーヤーの社会的立ち位置とか心情と、重なるものでもあるわけですよ。だから、非常に感情移入も強くするし……というのは、やっぱりTRPGって、主人公は本来、「自分たち」なんで。あの、クリス・パインとかが演じてますけど、あれの向こうにはその「自分たち」がいるんだ、っていうことなんで。そのコンプレックスを抱えた……しかも、「いわゆるイケてる人、じゃない」っていうのを描くのが上手いこの2人をここに持ってきたのは、実はそういうバランスもあるのかなと。

あとは、『お!バカんす家族』なんかはまさに、ダメな父親が旅を通じて成長するっていうような、もう一回「父になり直す」みたいな、まさに今回の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とも連なる話だし。まあ、『ゲーム・ナイト』なんか、タイトル通りですね。主人公たちがボードゲームオタクなんですよね。主人公たちがボードゲームオタクであることに、特にその(理由付けの)説明はない、っていうか。「今日ね、ゲームやるから、みんな集まってね!」みたいな……ということで、ジョナサン・ゴールドスタインさんとジョン・フランシス・デイリーさん。結果としてこの2人で大正解、というふうに私、思います。

「ゲームをしっかり映画化した」ことが、そのまま「映画としての面白さ」に繋がっている

実際、出来上がったこのD&D最新映画化。先ほども言ったようにですね、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のファンタジー世界版、という線で、映画としてストレートによくできている、ウェルメイドな面白さに満ちた作品になっているわけですが……その「ウェルメイドな面白さ」の源にはですね、しかし僕の考えではやはり、これがTRPG、ゲームが原作であることが、大きく関係しているように思います。

どういうことかと言いますと、端的に言って本作、危機を脱したり、難題を思わぬ方法で解決したり、強敵に勝ったりする、その全てに、非常に明確なロジックが積み重ねられているんですね。このキャラクターのこの能力を、ここでこう使えば、なんとかここは突破できる、みたいな……それのいくつかの組み合わせで突破していく、みたいな。で、それはまさにTRPGの進め方そのものでもあるし。なのでその本質はTRPGの進め方……しかもその「TRPGの進め方」というのは、それはイコール「ストーリーを紡いでゆくこと」でもあるので。その本質に忠実に、ストーリーや描写を組み立てていったからこそ、エンターテイメントとしても非常に筋が通った、ごまかしがないカタルシスがしっかり生まれている、ということだと思うんですよね。

これは同じく、今はハズブロ所有というか、ハズブロが権利を持ってるゲームの映画化で……全然ゲーム性は違いますよ? 『バトルシップ』という2012年の作品。あれも、バカ映画って見えるかもしれませんけど、実は勝敗などの作品内ルールとかロジックが非常に明確で、それがカタルシスを生んでいた作品なんですよ。だからハズブロのゲーム映画って、なんかひとつ、こういう傾向があるなと……あとはもうひとつ、その『LEGO ムービー』みたいに、メタ(・フィクション的な構造)とかにはしない、とか。ゲーム性はすごく生かすけど、メタにはしない、みたいなところ。共通してるかな、というところもありますね。

逆に、さっきから言ってるように、ゲームを映画化する際に、そういうゲーム的ロジックみたいなものを重視しない映画化は、失敗する、っていうことじゃないのかな?っていう気もするんです。はい。とにかく本作、しっかり「ゲームを映画化した」ことが、そのまま「映画としての面白さ」に繋がっているという、大成功例!という言い方ができるんじゃないでしょうか。

映画として非常に語り口がいい。質が高い

一方でですね、とても洗練された、まさに映画的語り口も、堪能できる作品です。やっぱり、ストレートに映画としても上等だと。

まあアクションシーン……あの擬似的ロングショット使いね。すごくそれも面白いし。あと、ダイナミックなカメラワーク。人物ごとグーッと180度とか360度動くような、ダイナミックなカメラワーク。あるいは、ミシェル・ロドリゲスのあの殺陣の、設計のやはりロジカルさ、というのかな。あの、レンガを使って、上で弾いて、下で足を潰して……とか。なんか一連の流れがすごくロジカルな上に、楽しいし。ということで。アクションシーンは全体にやっぱり、質が非常に高いですし。

たとえば、ラスト。主人公がある決断をするんですね。非常に感動的なシーンなんですが、ある決断をする。で、その前振りとして、全編にわたってあの、ご覧になった方はおわかりだと思います、青いトンボっていうのが、ある人の……「あの人」の象徴としての青いトンボっていうのが、全編にわたって飛んでいる。それを見せてるわけです。しかし、ここでその、肝心な部分っていうかね……クライマックス、主人公が決断する時に、あえてその、なぜ主人公が決断をしたのかは、セリフでは聞かせない。

それはね、その青いトンボが象徴しているあの人が言ったことっていうのが、主人公の決断の大きな動機になってるんだけど、それをあえて言葉では聞かせずに、その場面の、その人の微笑み……窓を開けて微笑んでいるという、その画だけを見せることで、「ああ、そうだよね」って、観客にも、そして主人公にも、「思い起こさせる」という。

とても品がいいし、ゆえにより感動も増す、という……本当に、さっきから言っていますけど、映画として非常に、語り口、質が高いですね。もうここのクライマックスの一場面を取っても、「ああ、これは本当にいい」という感じがします。

一級品の仕事で全員幸せ。「ありがとう、面白い映画を!」

ということで、映画として質が高いし、でもしっかりその本質には原作TRPGの面白さ、みたいなものがちゃんと入っている。役者陣、本当にどれも素晴らしくてですね。クリス・パインさん、これは多田遠志さんも言ってたけど、ひょっとしたらベストアクトかもしれないですね。非常にハマり役だと思います。

あとやっぱり、もう出てきた瞬間にだいたい何をしでかすかはわかる、ヒュー・グラント(笑)。自分をよくわかってるな!という感じだし。あとはさっきも言いましたけど、ミシェル・ロドリゲス。やっぱりアクションの説得力!っていうかね。あと、ミシェル・ロドリゲスのですね、とはいえこういう女戦士なんですけど、ちょっと彼女が、乙女な、と言いましょうか……乙女なっていうか、女なっていうか、それを見せる場面があって。そこのまあ、あっと驚くキャメオ出演とかも含めてですね、楽しいし。それを踏まえたラストの……これもセリフにしないんですよね。ニヤッて……絶妙な顔じゃない?(笑) 「あらあなた、かわいいじゃない?」みたいな。あの顔だけで示すのとか、本当にスマートですね。あそこでなんか、ぐじゃぐじゃぐじゃぐじゃやらないっていうのも品がいいし。良いと思います!

ということでですね、文句なしに軽く楽しめる娯楽作なんですが、実はよく練りこまれた、配慮のゆきとどいた……マニアも納得だというんですから。これは一級品の仕事、ということじゃないでしょうかね。結果、全員幸せ!という感じでございます。まあ軽さも含めてね、軽く観られるってことも含めて、見事な着地じゃないでしょうか。「ありがとう、面白い映画を!」ということです。ぜひ……本当におすすめです! 今(劇場で)かかってる映画の中でも、結構面白い方だと思います。ぜひぜひ、劇場でウォッチしてください!

編集部おすすめ