昨年8月にミャンマーのラカイン州で発生した大規模な衝突により、約65万5千人のイスラム系少数民族ロヒンギャがバングラデシュに避難し、すでに難民キャンプで生活していた20万人以上の避難民に合流した。だが難民数の爆発的な増加に伴い、バングラデシュでは様々な問題が発生している。
首都ダッカでも今月8日、25歳のバングラデシュ人男性と18歳のロヒンギャ女性の婚姻を認めないという判決が高等裁判所において下された。バングラデシュではロヒンギャ難民が偽装結婚などにより同国の市民権を取得することを防ぐため、2014年に「バングラデシュ国民とロヒンギャとの婚姻を禁止する」という法律が制定されており、今回の判決はそれに則したものであった。

『Dhaka Tribune』によると、ダッカのジャトラバリ地区にあるイスラム学校の教師ショアイブ・ホセイン・ジュエルさん(Shoaib Hossain Jewel)がラカイン州出身のロヒンギャである18歳のラフィザさん(Rafiza)と知り合ったのは、ラフィザさん一家が避難生活を送っていたイスラム指導者の家であった。

ラフィザさんとの結婚を決意したショアイブさんは「バングラデシュ人とロヒンギャの婚姻は禁止されている」と地元警察によって警告されたものの、2人は2017年9月にシャリーア(イスラム法)に則った結婚式を行った。ラフィザさんはこの時コックスバザールの難民キャンプに送還されており、式はキャンプ内のモスクで行われた。だが同年10月25日、婚姻届が受理されずラフィザさんを連れてショアイブさんが地元に戻ってきたことを知った警察が逮捕に動き出したため2人は逃亡、現在までその足取りは掴めていない。


ショアイブさんの父親ホセインさんは、ロヒンギャとの結婚が犯罪行為であり懲役7年の刑に問われる現状に疑問を呈し、息子達の婚姻が法的に認められるよう、またショアイブさんが逮捕されないよう同年12月10日に嘆願書を提出した。しかし今年に入り高等裁判所はホセインさんの訴えを却下、逆にホセインさんに法定費用として10万タカ(約13万4000円)の支払いを命じた。

ホセインさんは、2人の結婚は市民権取得が目的ではないと主張しており「バングラデシュ人がキリスト教徒、あるいは他宗教の信者と結婚することができるなら、私の息子とロヒンギャの女性との結婚のなにが悪いのか? 彼はバングラデシュの難民キャンプに暮らすイスラム教徒と結婚しただけなのに」と訴えている。

ホセインさんが言うように、バングラデシュ人が国籍の異なる者と結婚することは法的には禁止されていない。だがロヒンギャとの結婚だけが禁止されているこの法律は、バングラデシュ国内でも議論となっているようだ。元法務大臣シャフィック・アハメド氏(Shafique Ahmed)は「結婚により市民権を得たロヒンギャが様々な問題を巻き起こす可能性がある。
政府がこうした結婚を認めれば、彼らを送還させることが不可能になるため、この法律は理に適っている」と主張した。

一方でダッカ大学国際関係学教授C・R・アブラル氏(C・R・Abrar)は「政府が出した禁止令は、国民の人権と自由を認めているバングラデシュの法律、そして国際人権基準に反したものだ。イスラム教徒の結婚はシャリーアに基づくが、これは個人の契約となる。ロヒンギャとバングラデシュ人の双方がイスラム教徒であり、シャリーアの下結婚が行われたのであれば、彼らの結婚は何の問題もないはずだ」と苦言を呈している。

画像は『Dhaka Tribune 2018年1月8日付「Man fined for petitioning against government ban on Bangladeshis marrying Rohingyas」(Bigstock)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 椎名智深)