
本サイトにも予告記事が掲載済みですが、新潟県のえちごトキめき鉄道(トキ鉄)と千葉県の銚子電気鉄道(銚電)が2021年8月15日、姉妹鉄道の縁組みを結び、新潟県上越市にあるトキ鉄の鉄道テーマパーク「直江津D51レールパーク」で、セレモニーが開かれました。
片や北陸新幹線開業でJRから経営分離された並行在来線、片や海産物や特産の醤油を運んでいた老舗鉄道と、生い立ちや性格は大きく異なる両社ですが、共通するのは「観光鉄道としてエリア内外から誘客し、生き残りを図る」の一点。ここでは「姉妹鉄道」をキーワードに、鉄道相互提携のメリットなどを考えましょう。
新潟県が出資する三セク鉄道と、〝食品メーカー〟が運営する鉄道
まずは何回も紹介済みですが、簡単に両社のプロフィール。トキ鉄は、新潟県や沿線3市が出資する第三セクター鉄道です。2015年3月の北陸新幹線金沢延伸開業で、並行在来線を引き継いで開業しました。
運行するのは、日本海ひすいライン(北陸線市振ー直江津間)と、妙高はねうまライン(信越線妙高高原ー直江津間)。営業キロは全体で97.0キロで、地方鉄道としては長い距離を営業します。
銚電の路線は、銚子ー外川間の6.4キロです。開業は1923年で、2年後の2023年に100周年を迎えます。2006年以降、数度の経営危機に見舞われ、その中でぬれ煎餅やまずい棒といったヒット商品を生み出しました。

最近の銚電は、年商5億円のほぼ8割を鉄道以外で稼ぎ出します。
前職はいすみ鉄道社長
トキ鉄の鳥塚亮社長は、鉄道業界の有名人。元々は航空業界に在籍。2009年に千葉県の三セク・いすみ鉄道の公募社長に選考され、ムーミン列車や、採用者が費用を自己負担する新しい運転士養成制度の創設などで、同社の知名度を全国区に高めました。
鉄道ファンには、国鉄形気動車キハ52やキハ28といったクラシック車両の導入でおなじみ。実際に乗車された方も、いらっしゃるでしょう。
鳥塚社長は、2018年にいすみ鉄道社長を退任し、2019年からトキ鉄のトップに就任。最近、本サイトでも取り上げましたが、観光列車「えちごトキめきリゾート雪月花」の地元・新潟県民向け運転や、2021年4月には本社を置く直江津運転センターに「直江津D51レールパーク」をオープンし、鉄道ファンの視線を引き付けます。
トキ鉄の針路は一路東京へ!?
なぜ日本海側のトキ鉄が、太平洋側の銚電と姉妹縁組み? 鳥塚社長がいすみ鉄道社長時代、同じ千葉県の銚電と交流があったというのが主な理由ですが、あいさつではもう少し深い意図も披露しました。
新潟県最初の鉄道・直江津線(信越線の前身)が、直江津ー関山間に開業したのは1886年。直江津発の列車は東京を目指しました。2021年は、直江津線開業から135周年の節目。鳥塚社長は、「直江津線の原点に返り、関東の鉄道との提携を目指すことにした」と話しました。
姉妹鉄道で知名度アップ
もう少し、姉妹鉄道のメリットを考えましょう。思い当たるのは、知名度向上。
銚電は、社名に銚子の地名が入るので、どこを走る鉄道かは分かります。少し前には、経営危機やぬれ煎餅がバラエティー番組に取り上げられたので、記憶のある方もいるでしょうが、トキ鉄はひょっとしたら〝佐渡島の鉄道〟と誤解する方が現れそうな気も(トキ鉄ファンの皆さんスイマセン)。
鉄道は、本質的には来て乗ってもらわないと収入にならない商売。銚電でトキ鉄を知る、トキ鉄で銚電を知る方がいれば、ビジネスチャンスが広がります。
鉄道を知らない人も購入するぬれ煎餅
トキ鉄と銚電を比べれば、鉄道の規模的にはトキ鉄の方がずっと大きいのですが、関連事業は銚電が先輩です。代表的な商品のぬれ煎餅は、専門業者に製法を習い、銚電ファンはもちろん、鉄道を知らない人にも購入してもらえるようになりました。
さらに、銚電は経営危機が表面化した際、隠すことなく発信。「このままでは電車が走れない」と〝SOS〟を発して、世間を見方に付けました。
2020年は、ホラーコメディー映画「電車を止めるな!~のろいの6.4キロ~」を自主制作。全国で上映会を開き、会場でぬれ煎餅やグッズを販売して増収につなげています。
前章に「鉄道は乗ってもらわないと収入にならない商売」と書きましたが、来てもらわなくても、乗らなくても、応援できる手立てを編み出したのが銚電ともいえるでしょう。
姉妹縁組みでコラボバッジ発売
トキ鉄は、姉妹提携を記念して車両に両社コラボシールを貼付。レールパークでは、コラボバッジや銚電グッズを売り出します。
締結式で鳥塚トキ鉄社長は、「地域の良いもので交流することで、経済的結び付きもできる」、竹本銚電社長は「鉄道のプロフェッショナル・鳥塚社長のアドバイスをいただきながら、親交を深め良好な関係を築きたい」と、それぞれ抱負を述べました。
近江鉄道と伊豆箱根鉄道が台鉄2駅と姉妹縁組み

後段は、海外鉄道との姉妹縁組み。日本の多くの鉄道が関係を持つ、台湾鉄道の話題を集めました。直近の話題といっても2020年秋ですが、西武ホールディングス(HD)傘下の近江鉄道と伊豆箱根鉄道の地方私鉄2社は、台湾国鉄に相当する台湾鉄路管理局(台鉄)と「姉妹駅協定」を結びました。
姉妹駅になったのは近江の多賀大社駅と台鉄の萬華(ばんか)駅、伊豆箱根の伊豆長岡駅と台鉄の礁渓(しょうけい)駅。台湾では日本の鉄道が人気で、コロナ収束後には台湾人観光客の来訪や乗車が期待できます。
西武は姉妹鉄道協定
西武グループと台鉄の関係では、2015年に西武HDが「包括的事業連携に関する友好協定」、西武鉄道が「姉妹鉄道協定」をそれぞれ結び、交流を促進しつつ相互送客で利用促進に取り組んできました。今回は交流をもう一段深めようと、地方鉄道2社と台鉄が姉妹駅協定を結びました。
台鉄は日本の鉄道との姉妹縁組みに熱心です。両国には水上、大村、武田など同名駅が30駅以上あり、いすみ鉄道と集集線の姉妹鉄道、東京駅と新竹駅の姉妹駅など両国間の提携は20件を超えます。
車両メーカー団体も台湾と交流覚書

最後に、鉄道車両メーカーでつくる日本鉄道車輌工業会は、台湾の中華軌道車輛工業発展協会との間で「日台鉄道産業交流に関する覚書」を交わしています。
台湾高速鉄道が、コア技術に日本の新幹線システムを採用することは皆さんご存じでしょうが、日本が海外で開催する鉄道セミナーでは台湾の鉄道関係者にゲスト出演してもらい、日台合同で日本の鉄道技術をPRします。
ちなみに、台湾の年間車両生産両数は都市間鉄道年間約600両、地方鉄道約520両、機関車約130両、貨車などその他約60両で、合計1300両程度だそうです。

文/写真:上里夏生