慶應義塾大学・経済学部は「看板学部」といわれ、学内外でも評価の高い学部です。その経済学部と商学部とでは就職状況はどう違うのでしょうか。

同大学より公表されたデータをもとにみていきます。



■なぜ経済学部が看板学部なのか



慶應義塾大学・経済学部はいわゆる「看板学部」ともいわれ、総合大学である慶應義塾大学の文系学部を代表する学部ともいえます。その理由としてあげられるのは、経済学部の歴史にあるといえます。



経済学部は「理財科」を前身とし、福澤諭吉が存命中に作られた3学部の1つにあたります。1890年に理財科、文学科、法律科の3学科を大学部とし、慶應義塾に設置されています。



一方、商学部の歴史は経済学部ほど古くはなく、1957年に開設されており、学部としては60年ほどの歴史となっています。



もっとも、商学部は突如できた学部ではありません。



1920年に理財科を経済学部に改称し、経済学系統と商学系統の科目群の分類がされました。1938年に経済学科と商学科が併設され、先ほど見たように1957年に「商学系統の学問の成熟を待って」(商学部)独立した学部です。



■就職状況はどうなっているのか



ここまで見てきたように経済学部は歴史も長く、長らく看板学部として位置づけられてきました。



経済学部に対して次のような意見もあります。



「内部進学者の評価だけではなく、入試での偏差値などもあり、経済学部の学生たちは自分たちは商学部よりも明らかに『上』だという意識は持っていると思います。

また、就職先も商学部よりもよいと思っているというのもあるからではないでしょうか」(商学部OB)



では、この経済学部の学生の認識は就職先データから支持されるのでしょうか。それぞれの学部の就職先を見ていきましょう。



慶應義塾大学が発表した2017年度の上位就職先企業によれば(3名以上上位20社を開示)、経済学部の就職者数は1003人、一方、商学部が839人となっています。まず、就業者数が経済学部と商学部で異なります。



詳細は最後にお示しする各学部の就職先データを参考にしていただきたいのですが、ここでは、就職活動をする学生に人気のある総合商社とメガバンク、コンサルティング会社を中心に見ていきます。



総合商社

経済学部の三菱商事への就職者数は8人でうち2人が女性です。経済学部の就職者数全体に対する三菱商事の比率は0.80%となります。上位20社の中には、総合商社としては三菱商事のみです。



一方、商学部については、三井物産への就職者数は7人でうち1人が女性です。先ほどと同様に三井物産の商学部の就職者数全体に占める割合をみると、0.83%となります。また、三菱商事への就職者数は7人でうち1人が女性です。三菱商事の比率は0.83%となります。



こうしてみると学生の就職希望先である総合商社の就職状況は、三菱商事と三井物産に限ってみると、各学部の全就職者に占める比率だけを見れば、経済学部よりも商学部の方が高いといえます。



メガバンク

さて、続いてメガバンクについて見ていきましょう。



経済学部のみずほ銀行への就職者数は32人でうち女性が9人となっています。みずほ銀行が経済学部の就職者数全体に占める比率は3.19%。同様にみていくと、三菱UFJ銀行は27人でうち女性が8人となっており、同比率は2.69%となります。三井住友銀行は15人でうち1人が女性となっており、同比率は1.50%となります。



3行合わせたメガバンク全体で見ると経済学部の就職者数は74人で、就職者数全体に占めるメガバンクの比率は7.38%となります。



商学部についても同様に見ていきましょう。



三菱UFJ銀行へは17人でうち女性が11人となっており、商学部の就職者数全体に占める比率は2.02%。三井住友銀行へは13人でうち6人が女性となっており、同比率は1.55%。みずほ銀行へは11人でうち5人が女性となっており、同比率は1.31%となっています。



3行合わせたメガバンク全体で見ると商学部の就職者数は41人で、就職者数全体に占める比率は4.89%となります。



ここで見た数値に限って言えば、メガバンクへの就職比率は経済学部の方が就職状況は商学部よりも高いといえます。



コンサルティング会社

では、コンサルティング会社について見てみましょう。



経済学部のアクセンチュアへの就職人数は18人でうち女性が7人となっており、経済学部の就職者数に占めるアクセンチュアの比率は1.79%となっています。また、アビームコンサルティングへは8人(すべて男性)となっており、同比率は0.80%となっています。



また、商学部のアビームコンサルティングへの就職人数は12人でうち4人が女性となっており、商学部の就職者に占める比率は1.43%となっています。また、アクセンチュアの就職人数は8人(すべて男性)となっており、同比率は0.95%となっています。



■まとめにかえて



ここまで、総合商社、メガバンク、コンサルティング会社を見てきましたが、産業ごとに学部によって就職比率に高低があり、一概に「経済学部が強い」や「商学部が強い」というのは言えません。



ただし、メガバンクの就職比率は経済学部が商学部よりも高いといえます。また、最近の総合商社への就職人気が高まっていることを考えれば、商学部の方が就職状況としては学生に魅力的に映るかもしれません。



しかし、あらためて確認しておくべきポイントがあります。



総合商社に関していえば、経済学部と商学部の就職先上位20社に「伊藤忠商事」がリストされていません。伊藤忠商事はここまで業績も好調で、同社への注目度は年々上昇しています。



慶應義塾大学の伊藤忠商事への就職で見ると、法学部法律学科で5人(うち女性2人)、法学部政治学科で5人(1人)、文学部で6人(2人)、総合政策学部で3人(すべて男性)となっており、法学部で見ると10人も送り出しています。こうみると、経済学部と商学部では財閥系総合商社に強いともいえます。



また、慶應義塾大学は公認会計士試験の合格者数は44年連続1位ということで、今回は取り扱わなかったですが、両学部から監査法人への就職も多くなっています。資格を伴っての就職ということも考えると、通常の就職とは分けて考える必要もありそうですが、各学部での就職状況を考える重要なポイントになると思います。



【ご参考データ】

経済学部の就職先



  • みずほ銀行:32人(9人)
  • 三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行):27人(8人)
  • 東京海上日動火災保険:23人(10人)
  • 野村證券:22人(4人)
  • アクセンチュア:18人(7人)
  • 三井住友銀行:15人(1人)
  • 新日本有限責任監査法人:14人(4人)
  • SMBC日興証券:13人(5人)
  • 三井住友海上火災保険:13人(5人)
  • みずほ証券:11人(1人)
  • 三井住友信託銀行:11人(2人)
  • 三菱UFJ信託銀行:11人(1人)
  • 日本航空:10人(4人)
  • 大和証券:9人(0人)
  • 明治安田生命保険相互会社:9人(0人)
  • 有限責任あずさ監査法人:9人(1人)
  • 有限責任監査法人トーマツ:9人(3人)
  • アビームコンサルティング:8人(0人)
  • りそなホールディングス:8人(0人)
  • 三菱商事:8人(2人)
  • 商工組合中央金庫:8人(2人)
  • 損保ジャパン日本興亜:8人(2人)
  • 電通:8人(4人)
  • 東京都:8人(3人)
  • 日本政策金融公庫:8人(3人)

商学部



  • 三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行):17人(11人)
  • 東京海上日動火災保険:14人(5人)
  • 三井住友銀行:13人(6人)
  • アビームコンサルティング:12人(4人)
  • みずほ銀行:11人(5人)
  • アメリカンファミリーライフインシュランスカンパニーオブコロンバス:9人(2人)
  • 三井住友海上火災保険:9人(4人)
  • 三井住友信託銀行:9人(3人)
  • アクセンチュア:8人(0人)
  • エヌ・ティ・ティ・データ:8人(3人)
  • 三井物産:8人(1人)
  • 東日本電信電話:8人(3人)
  • 有限会社責任監査法人トーマツ:8人(2人)
  • キーエンス:7人(1人)
  • 三菱UFJ信託銀行:7人(2人)
  • 三菱商事:7人(1人)
  • 新日本有限責任監査法人:7人(2人)
  • 日本生命保険相互会社:7人(3人)
  • 富士通:7人(2人)
  • 商工組合中央金庫:6人(0人)
  • 第一生命保険:6人(2人)
  • 電通:6人(3人)
  • 日本航空:6人(2人)
  • 日立製作所:6人(3人)
  • 農林中央金庫:6人(1人)
  • 明治安田生命保険相互会社:6人(0人)
【参考文献】
  • 慶應義塾大学経済学部・大学院経済学研究科「沿革」
  • 慶應義塾大学商学部「商学部とは」
  • 慶應義塾大学「慶應義塾大学 2017年度 上位就職先企業(3名以上上位20社)」
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