先日、銀座にある老舗呉服店「銀座いせよし」が2016年に公開した広告ポスターが、ツイッターを中心に批判を集めました。着物を着た女性の横にあったのは「ハーフの子を産みたい方に。」という文字。
■着物を着れば外国人がナンパしてくる?
「銀座いせよし」のポスターに使われたコピー表現は、特に差別的だと多くの人が怒りの声をあげた「ハーフの子を産みたい方に。」のほか、「着るという親孝行もある」「ナンパしてくる人は減る。ナンパしてくる人の年収は上がる」「着物を着ると、扉がすべて自動ドアになる」の4つ。
これらのコピーに対しツイッター上では、「着物を着れば年収の低い日本人ではなく年収の高い外国人がナンパしてくるということ?」、「着物を着た女性なら男性はチヤホヤしてドアも開けてくれる。だから着物を着ようだなんて、とんでもないメッセージ」といった否定的な意見が散見されています。
そして、波紋を呼んだのはその差別的な表現だけが理由ではありません。このコピーが日本を代表する有名広告代理店・博報堂の女性コピーライターが作ったものであること、さらには広告業界における新人賞でもある東京コピーライターズクラブで新人賞を受賞したこと。
昨今炎上する広告表現は、「男性が女性を差別的に描く」といった構図で批判の的になることが多かったものの、今回は違います。批判や怒りの声の中には「同じ女性なのにどうして…」といったがっかり感も多く混じっていたように感じました。
■「男ウケ意識しているんでしょ?」という呪縛
今回の銀座いせよしのコピー問題で筆者が思い出したのは、自分の髪の毛に関する出来事でした。
筆者は、産まれた時から髪の毛が真っ黒でした。美容院に行けば、したことがないのに「最近黒染めしましたよね?」と言われるほどの色は黒というよりももはや漆黒。
そして大学に入学して周囲が茶や金、赤など思い思いの髪色になっていく中で、自分はこの黒髪を貫こうと思って過ごしていました。そのため、学校やサークル、髪色が自由だったバイト先では「なんで染めないの?」「茶髪似合いそうなのに」と言われることは少なくありませんでしたが、そのたびに「自分の生まれ持った髪色が好きなので」と答えていました。
しかし、バイト先のとある男の先輩がこう言ったのです。「でも、男の人は黒髪好きだからね~。特に外国人とか、男ウケ意識してるでしょ?」と。先輩なりの冗談だったのかもしれません。しかしその時、筆者は「自分は周囲に、モテるために黒髪でいると思われているんだ」と、ハッとしました。自分の黒髪が「モテたい」アピールだと思われるくらいなら、染める方がマシだ…。こう思い、筆者は次の日に金髪にしました。
筆者の感覚は被害妄想だったかもしれませんし、「男ウケ狙ってる?」なんて言われたとしても、自分の信念を貫けばよかったのかもしれません。しかし、18歳だった筆者にそんな強さはなく、とにかく「男ウケを狙ってる黒髪」から抜け出したかった。
そして、その先輩の「黒髪=男ウケしている女性」という認識は、何が作り出したものなのか。それはもしかしたら先輩自身の体験ではなく、アイドルや芸能人といったメディアや広告イメージの力によるものも大きいのではないかと感じました。
■行動心理のレッテルを貼ることの大いなる過ち
異性にモテるために自分を変えたり何かアクションを起こしたりすることは、決して悪いことではありません。しかし、着物のポスターで物議を醸したような「〇〇は異性にモテたいからするものだ」という行動心理のレッテルを貼ることは、広告として共感を呼ぶものとは言えないのではないでしょうか。
今回のコピーは、「女性は外国人にモテるために着物を着る」というメッセージを発信したと捉えられています。そしてそのメッセージは、そんな目的を持たずに着物を着る女性に対する偏見を助長するかもしれません。「着物=外国人と出会いたい女性」「着物=ナンパ待ちしている女性」というイメージを与えれば、これまで着物に馴染みのなかった女性層を取り込めると勘違いしていることが、「女性をバカにしているのか」という批判につながっているわけです。
また、こうしたメッセージは外国人や外国人と結婚した人、ハーフの人など様々な層や着物文化自体を貶めていることになっていないでしょうか。実際、「いちハーフとして」このコピーへの不快感をネットで表明している人もいました。
3年前には特に問題にもならなかったこのコピーが、今になって矢面に立たされる現象に異を唱える声もあります。しかし筆者は、3年前にこのコピーを見て「外国人のナンパ待ちしてると思われるなら着物を着たくない」と感じた女性もいたのではないかと思わざるを得ませんでした。
たびたび批判の的になる広告コピー。これからは誰かが傷ついたり侮辱されたと感じないコピーで、人々を感動させてほしいと思います。