金融庁がKPIなる数字で、各販売会社で販売している投資信託の収益性を公表しています。少々古いデータで恐縮ですが、このデータを読み解いて、投資信託が儲かっているのかどうか見ていきましょう。



ちなみに、KPIはKey Performance Indicatorの略で、金融用語というよりもマーケティング用語です。要するに目標達成のための定量指標です。



投資信託の収益率で言えば、たとえばKPIが年間5%リターンとすると、このKPIを上回っている投資信託は何本(または、全体の何%)、下回っている本数は何本といった、達成度合いの“見える化”を図っているものです。



■投資信託の運用損益別顧客比率とは?



図表1は、さまざまな角度で分析しているデータの一つですが、正直、見るからに難解です。金融庁の努力はよく分かるのですが、これを一般の方々に伝えるには“翻訳”が必要です。 ということで、翻訳にトライです。



図表1:投資信託の運用損益別顧客比率(主要行等・地域銀行合算ベース)



投資信託って本当のところ儲かってるの? 金融庁のデータを”翻訳”してみる

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出典:投資信託の販売会社における 比較可能な共通KPIを用いた分析(金融庁)<対象:主要行99行・地域銀行20行、時点:2018年6月29日>



まず、運用損益別顧客比率の意味ですが、これは次のようになります。



− 調査に回答した銀行(メガ銀行・地銀)の顧客が何%のリターンを上げているか
(基準日は2018年3月末ですが、基準日から過去何年かのリターンかは明示されていない)
− リターン別の顧客比率は何%なのか



結果を紐解くと、約46%の投資家のリターンがマイナス(損失)となっています。プラスリターンは54%ですね。それぞれリターン幅は異なりますが、プラスかマイナスかで計測すれば、ほぼプラスマイナス五分五分だったということです。



■投資信託の比較を100m走の桐生選手とマラソンの川内選手に例えてみる



さて、この結果をどう判断するかです。



実は投資信託に限らず、金融商品の顧客個別リターンの計測には困難が伴います。

それは次の理由によります。



(1) 計測期間によってリターンは大きく異なる



投資信託は設定時期(運用開始時期)が異なるため、ある一定時点を基準に過去1年とか過去3年とか決めてリターンを計測しなければなりません。



ところが、投資信託は一つとして同じものがないとともに、同じ種類でも相場環境によってリターンは異なるため、計測期間が同じでも優劣が生じます。ですので、勝ったか負けたかは結果を未来に託すこともあり、実のところ比較できないのが実際です。



例えて言えば、100m走の桐生選手とマラソンの川内選手を比べるようなものです。桐生選手は100mでは勝てますが、川内選手のマラソンには勝てません。逆も真なりで、正直優劣はつけられないですね。



(2)販売している投資信託は販売会社により異なる



販社によって販売している投資信託は異なります。したがって、販売している投資信託が異なる投資信託のリターンを販売会社別に比べて優劣をつけても意味がありません。



販売会社がすべて同じ投資信託を販売していて、計測期間も同じであれば参考になりますが、そうではありません。ですから、どの販売会社がより収益性の高い投資信を販売しているかどうかは、このデータからは読み取れません。



これも例えて言えば、日本生命所属の桐生選手とあいおいニッセイ同和損保所属の川内選手を比べて、どちらの所属会社が優れているかを比較するようなものです(答えは出ないですね。

種目が異なりますから)。



■何が手堅い資産形成方法なのか



とまあ、実際、投資信託のリターン比較はできないのです。なぜなら、本当に比較するなら、同じ日(同じ基準価額基準日)に同じ金額で異なる投資信託を購入して、同じ日に解約したとき(同じ解約価額基準日)に、絶対値でのみその2つの投資信託の比較が可能だからです。



でも、そんなことできませんよね。



ですから、筆者は金融商品をあれこれ比較しないで、長期的に良好なリターンが期待できる金融商品(たとえば、NYダウ/S&P500指数連動インデックスファンド等)による「つみたて投資」で資産形成するほうが、よっぽど手堅い資産形成方法だと常々言っているのです。



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