新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの負の連鎖はどんどん広がっています。米メディア(※1)によれば、アメリカは5月14日の時点で過去2カ月間の失業保険申請件数は合計3,650万件となり、失業率は14.7%と大恐慌時の25%に着実に近づいているということです。



当初、失業は飲食業など都市閉鎖によって直接影響を受けた業種からはじまりました。しかし、今や、安泰と言い切れる職業はなくなっているようです。



「パワーカップル」と呼ばる、高給な共稼ぎ夫婦にも高学歴だから、専門職だから、大手企業勤務だから、ダブルインカムだから…と安心してはいられなくなっているようです。



■エリート医者カップルの失業



知り合いのあるご夫婦はお2人とも30代の医師です。いわゆるエリート「パワーカップル」です。しかし、COVID-19の治療に直接関係がない専門医のため、4月に奥さんが一時解雇、ご主人は時短勤務となり、一気に収入が減ってしまったそうです。



実は、アメリカではCOVID-19の影響で経営が厳しくなっている病院が増えています。人々が医療機関に行くことを恐れ、ERやCOVID-19の治療に関係のない部門の診療収入が減ってしまった上に、キャッシュ・カウである心臓手術や脳手術の件数が極端に減ったダメージが大きいようです。



アメリカでは、彼らのような安定が約束されたエリートパワーカップルですら経済的打撃を受けるようになってしまいました。



ウォール・ストリート・ジャーナル(※2)では「経済予測を行うコンサルティング会社の英オックスフォード・エコノミクスは、3月後半のレイオフが反映される4月の雇用統計について、ビジネスサービス分野(弁護士、建築士、コンサルタント、広告専門職など)が340万人減るほか、必須業務以外の医療従事者が150万人、情報分野(メディア、通信など)が10万人減少するとの予想を示した」と、高学歴、専門職、高所得者の失業時代の予測を報じています。



■「パワーカップル扱い」は企業側の都合?



日本でも今後失業者が増えるのは予想されます。共稼ぎで安定した購買力をもっていたパワーカップルにもライフスタイルの現状維持が厳しくなる日が来るかもしれません。



とくに日本では「パワーカップル扱い」される条件が欧米と比べると低く、さらに年々下げられていますので、案外脆いパワーカップルもいるかもしれません。



そもそも「パワーカップル」という言葉は2013年に『夫婦格差社会 - 二極化する結婚のかたち』夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(橘木 俊詔・迫田 さやか著、中央公論新社)という書籍で使われ、高学歴のエリート夫婦を示唆し、「夫が1,600万円以上、妻が1,000万円以上をパワーカップルの象徴といえる」(※3)としていました。



ところが2017年、ニッセイ基礎研究所では「定義は悩むところだ」とした上で、「夫も妻も同様に高い購買力を持つことなどを考慮すると、夫婦ともに年収700万円以上」の世帯をさすのだろうとしました(※4)。



その後2018年、三菱総合研究所では「夫の年収が600万円以上、妻が400万円以上で世帯年収が1,000万円以上の夫婦」だと見ていると産経新聞(※5)が伝えました。



さらに産経新聞では、1人で世帯収入1,000万円の家庭と比べると「パワーカップルの月間消費支出総額は約1.4倍も多いという」点や「時短、外注」のための出費や、「新商品」購入などの出費に糸目をつけない購買意欲を指摘しています。



どうやら企業にとって「パワーカップル扱い」は、共稼ぎ夫婦の購買意欲を刺激するには都合が良いようです。



■「パワーカップル扱い」に躍らされて身の丈以上の買い物



数年前から2人の収入を合計することで単独借り入れよりも高額借入れが可能なペアローンを利用して、都内高級高層マンションを購入する若い世代のパワーカップルの話題がよく取り上げられるようになりました。



最近は、専門職者の失業や大手企業でさえ減給やボーナス減額が予想されるなか、ペアローン返済持続が可能なのかという懸念の声も上がり始めました。



もちろん、不況にびくともしない堅実な「パワーカップル」も多いのでしょう。そういう夫婦にはどんどん高い購買力で経済を活気づけていただきたいです。



しかし、一部の夫婦は「パワーカップル扱い」に躍らされて、無理な計画で高額のペアローンを組んでいるのかもしれません。今後、その返済で困ることがないといいのですが。



大きなお世話!と叱られるかもしれません。しかし、楽天的過ぎる将来の見通しで身の丈以上の家を、サブプライム住宅ローンで購入して痛い目にあったアメリカ人夫婦をなぜか思い出しました。



ところで、前出のドクターカップル、いくらレイオフや減給になったといっても医師ですから、それなりの収入はあることでしょう。でも、彼らにも家のローンがあり、さらに2人とも学生ローンがまだ残っていて出費も多いようです。



しかし「厳しいのは我々だけではない。今は、夫婦協力して乗り切るしかない」と、苦笑する2人。

本物の「パワーカップル」の強さを感じました。



参考

(※1)“Powell says GDP could shrink more than 30%, but he doesn’t see another Depression”( https://www.cnbc.com/2020/05/17/powell-says-jobless-rate-could-top-30percent-but-he-doesnt-see-another-depression.html )CNBC
(※2)「米コロナ失職の第2波、あらゆる職種に迫る」( https://jp.wsj.com/articles/SB12455294765627133433304586326234198434142 )THE WALL SYREET JOURNAL
(※3)『夫婦格差社会 - 二極化する結婚のかたち (中公新書)』( https://amzn.to/36dR0io )橘木 俊詔・迫田 さやか(著)
(※4)『「パワーカップル」世帯の動向(1)』( https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=56482&pno=2?site=nli )ニッセイ基礎研究所
(※5)『高い購買力・情報発信力…企業が熱視線 共働き高収入夫婦「パワーカップル」』( https://www.sankei.com/life/news/181115/lif1811150011-n1.html )産経新聞