新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大の影響により、2020年1~3月期の公的年金の積立金運用損益が過去最大の赤字(※1( https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-syakaihosyo-koutekinenkin-unyousoneki ))となっています。



少子高齢化が深刻な日本では、年金制度の維持だけでなく、医療や介護など社会保障関連でも多くの問題を抱えています。

現在の年金受給世代の暮らしを参考に、年金を含めた老後の生活費について考えてみましょう。



(※1)「公的年金運用、17.7兆円の赤字=新型コロナで過去最大―1~3月期( https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-syakaihosyo-koutekinenkin-unyousoneki )」(2020年7月3日付)時事通信



■現在の年金受給世代の暮らし



シルバー世代の暮らしぶりは、一見、ゆとりがあるように見えることがあるかもしれません。総務省の統計によると、世帯主年齢60歳以上の無職世帯(二人以上)の持ち家率は93.2%、貯蓄2244万円(※2( https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002210016 ))と、安定ぶりがうかがえます。ただし負債を保有している世帯では負債額の平均559万円、月賦・年賦額は41万円(同※2)というデータもあるのです。



意外に多い「孫のための支出」

ソニー生命保険株式会社が実施した「シニアの生活意識調査」(※3( https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_190904.html ))によると、一番の楽しみが「旅行(47.4%)」という結果の一方で、孫のための支出が年間平均13万1334円というデータも判明しています。中には、年間50万円以上孫のために支出しているシニアも6.1%いて、2017年に3.1%、2018年に4.8%、2019年に6.1%と、増加傾向にあります。



では、年金額に余裕があるかというと、厚生労働省が公表している年金受給額の例(※4( https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/000468259.pdf ))によれば



  • 国民年金…満額受給者1人あたり月額6万5008円
  • 厚生年金「モデル世帯(高齢2人世帯)」…月額22万1504円

となりますので、孫関連の支出は決して軽いものではないことが分かります。



(※2)「家計調査 貯蓄・負債編 二人以上の世帯( https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002210016 )」(表8-4よりデータを抽出)総務省
(※3)「シニアの生活意識調査2019( https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_190904.html )」(対象者:50歳~79歳の男女1,000名、2019年9月4日発表)ソニー生命
(※4)「平成31年度の年金額改定についてお知らせします( https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/000468259.pdf )」厚生労働省



クルマに関わる支出

また、高齢になると話題になるのが「車の運転」に関することでしょう。上記、ソニー生命の調査では、運転免許証を自主返納した人はわずか2.9%。年代別では、50代0.8%、60代1.6%、70代8.4%という結果で、高齢者講習(※5( https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/menkyo/koshu/koshu/under74.html ))など免許の更新が厳格化している70代でも、自主返納している割合はまだまだ低いようです。



外出時の移動手段についても、一番多いのが「自家用車(65.0%)」となり、「電車(44.8%)」や「バス(25.5%)」などの公共交通機関を大幅に上回りました。自家用車がなければ生活が成り立たない地域もあり、環境によっては車の維持費も老後の必要経費となりそうです。



自動車の保有については、自動車税や任意保険料、車検もあり、年数が経てば買い替えも必要となるでしょう。車関連費はガソリン代を含めて年単位で計画を立てたり、車検を目安に2年単位で必要経費をリストアップしておくと、見積もりやすくなるのではないでしょうか。



こういった収入・支出の情報を見ていくと、高齢世代の負担は決して軽くはないことが分かってきますね。



(※5)「高齢者講習(70歳から74歳までの方の免許更新)( https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/menkyo/koshu/koshu/under74.html )」警視庁



■具体的な老後の生活費を考える



それでは、現在の年金受給世代を参考に、老後の生活資金について考えてみましょう。公的年金の受給額や老後の生活費について各種データをご紹介します。



(1)収入部分:年金受給額の例

まず、年金受給額の例については上述(同※4)の通り、



  • 国民年金(満額受給者)…1人あたり月額6万5008円
  • 厚生年金の「モデル世帯(無職夫婦世帯)」…月額22万1504円

厚生年金の「モデル世帯」は、「夫が平均月収(42万8000円、年収ベースで約513万円)で40年間就業、妻は専業主婦であった世帯」を仮定して算出されています。国民年金の場合は、現役時代の収入に関わらず、年金加入月数により一律となります。個人の年金額は、加入実績により異なります。



(2)支出部分:高齢世帯の生活費

次に生活費のデータを見てみましょう。生命保険文化センターが2019年9月20日に発表した調査結果(※6( https://www.jili.or.jp/press/2019/nwl4.html ))によると、公的年金給付のみの無職の高齢夫婦世帯の生活費は



  • 「最低日常生活費」の平均額…月額22万1000円

となっています。



(3)収入-支出の差は?

(1)(2)を比較すると、厚生年金の「モデル世帯(夫婦二人:月額22万1504円)」であれば、「最低日常生活費(夫婦二人:月額22万1000円)」を賄えるように見えますが、この金額が最低限度の生活費のデータであることに注意しましょう。同調査結果によると、



  • 「ゆとりのある生活費」の場合の平均額…月額36万1000円

というデータもあります。つまり、夫婦二人分で毎月プラス14万円が目安となるのです。一年間に必要な生活費は、最低限度のケースで約270万円、ゆとりのあるケースで約430万円となります。



(4)「2000万円不足」を提起した金融庁データでは…

また、老後生活費2000万円不足を提起した金融庁のデータも見てみましょう。金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書(※7)の試算によると、高齢二人(無職)世帯の生活費は



  • 実収入20万9198円
  • 実支出26万3718円

と推計され、この場合、毎月の赤字額は約5万4000円となります。約5万5000円と仮定して老後の不足額を計算すると



  • 20年間:5万5000円×20年=1320万円
  • 30年間:5万5000円×30年=1980万円

となります。このような数字から「老後2000万円問題」などと呼ばれ、リタイヤ後に向けた自助努力が推奨されたというわけです。

ゆとりある老後生活のためには計画的な貯蓄が重要となりそうですね。



(※6)「令和元年度『生活保障に関する調査(速報版)』」( https://www.jili.or.jp/press/2019/nwl4.html )生命保険文化センター
(※7)「市場ワーキング・グループの報告書『高齢社会における資産形成・管理』( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html )」(報告書p.10【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)】表内データ参照)金融庁



■さいごに



このように、高齢世代の年金受給・支出事情を見てみると、必ずしも余裕のある生活とは言い切れない様子が分かりました。



(4)の不足金額に関するデータはもちろんのこと、(1)~(3)を見ても、自営業など国民年金のみの受給世帯では夫婦2人分で月額約13万円です。老後に向けて早期からの対策が必要になるといえるでしょう。



厚生年金モデル世帯の場合も、現役時代の年収500万円台から約270万円に低下します。収入がほぼ半減するという感覚に生活を適合できるかどうかという点も、老後生活を考える上での重要なポイントとなるのではないでしょうか。



これらの年金受給世代の事情を参考に、老後の生活設計について考えてみてはいかがでしょうか。年金の受給見込み額や退職金に関する規定を確認するなど、情報を早期に把握して計画的な貯蓄につなげていきましょう。



【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。



【参考】
(※1)「公的年金運用、17.7兆円の赤字=新型コロナで過去最大―1~3月期( https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_seisaku-syakaihosyo-koutekinenkin-unyousoneki )」(2020年7月3日付) 時事通信
(※2)「家計調査 貯蓄・負債編 二人以上の世帯( https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0002210016 )」(表8-4よりデータを抽出)総務省
(※3)「シニアの生活意識調査2019( https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_190904.html )」(2019年9月4日発表)ソニー生命
(※4)「平成31年度の年金額改定についてお知らせします( https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/000468259.pdf )」厚生労働省
(※5)「高齢者講習(70歳から74歳までの方の免許更新)( https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/menkyo/koshu/koshu/under74.html )」警視庁
(※6)「令和元年度『生活保障に関する調査(速報版)』」( https://www.jili.or.jp/press/2019/nwl4.html )生命保険文化センター
(※7)「市場ワーキング・グループの報告書『高齢社会における資産形成・管理』( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html )」(報告書p.10【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)】表内データ参照)金融庁



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