みなさんは「資産寿命」という言葉を聞いたことはありますか?
通常の寿命である「生命寿命」と、生命寿命から寝たきりなどの介護の期間を差し引いた「健康寿命」という言葉には耳馴染みがあると思います。
最近では、それら2つの寿命に加えて、お金の寿命「資産寿命」という言葉が生まれました。
日本人の生命寿命は男性81.41歳、女性87.45歳(※1)( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/index.html )で、健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳(※2 ( https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/02pdf_index.html )2016年時点)になります。ご存知の通り、生命寿命より先に健康寿命が尽きてしまうと、なかなか辛い状況になります。
では、お金の寿命「資産寿命」が尽きてしまうとどうなるのでしょうか?
また、資産寿命はどれくらいあるのでしょうか?
この記事では、資産寿命の概要と平均的な長さ、そして、資産寿命を延ばす方法について分かりやすく解説します。
■「資産寿命」って何?
資産寿命という言葉は、昨年話題になった金融庁の「老後2000万円問題」のレポートの中に記載されています。
資産寿命とは、「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間。資産寿命が尽きた後は年金等のフローの収入のみで生活を営んでいくこととなる。
(出典:(※3)( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html )金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理(別紙1)」)
つまり、資産寿命とはこれまで貯えてきた資産が0になる年齢のことを意味します。なぜ、資産が0になるようなことが起きるのかというと、多くの人の老後の生活は毎月赤字になっているからです。
昔であれば、年金もしっかりともらえたため、資産寿命が尽きるどころか、むしろ資産が増えていく可能性すらありました。その上、退職金もたくさんもらえたので(1997年時点では、大学・大学院卒の平均退職給付額は3,203万円)、資産が全くない状態で老後を迎えてもなんとかなったかもしれません。
しかし、2017年時点では退職給付額も平均1,997万円まで減少しており、また年金も減ってしまっています(※3)( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html )。
■資産寿命は75歳?!
恐ろしい数字が出てきましたね。
金融広報中央委員会の調査によると、世帯主が60歳代の2人以上世帯の平均金融資産保有額は1,635万円でした(※4( https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2019/19bunruif001.html ) 金融資産を保有していない世帯を含む)。
そして、世帯主が65歳以降の家庭の平均収支は毎月5万4,520円の赤字なので(※5)( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190412.html )、年間では資産が65万4,240円減ります。
1,635万円を持っていたとすると、25年で資産が0になりますので、資産寿命は90歳になります。この場合、生命寿命より長いので、なんとかなりそうな気もしますね。
しかし、平均資産額は一部の富裕層が押し上げているというのも現実です。先ほどの60歳代の資産額ですが、中央値はなんと650万円になります。
この場合だと、10年足らずで資産が0になってしまうので、資産寿命は75歳になります。
多くの人は、生命や健康より先にお金の寿命が尽きてしまいます。
■資産寿命を短くする敵
さらに恐ろしいことに、資産寿命を短くする敵が存在します。それは介護です。
先ほどの生活費の計算では「保健・医療」という項目が月1万5,512円でしたが、もし介護が必要になれば、この金額では足りません。
生命保険文化センターの調べによると、介護費用は平均で毎月7万8,000円かかっているそうです(※6)( https://www.jili.or.jp/research/report/zenkokujittai_h30st_1.html )。
■資産寿命を延ばすには…?
対策の一つは、健康な体でいることです。健康でいることで、医療費と介護費は大幅に削減できます。
また、体が健康だと働くこともできます。働きたいかどうかはその人の考え方によるとは思いますが、働きたくても健康上の問題で働けないという人もいます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構のアンケート調査によると、60代の不就業者のうち「仕事をしたいと思いながら仕事に就けなかった」人は26.4%います。その理由でもっとも多かったのが「(あなたの)健康上の理由」です(※7)( https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/199.html )。
他の対策としては、もちろん現役期にお金を貯めておくことも大切です。健康にも資産形成にも一発逆転というものはありません。時間をかけてコツコツとつくり上げていくことが大切ですね。
参考
(※1)「令和元年簡易生命表の概況」( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/index.html )厚生労働省
(※2)「令和2年版高齢社会白書」( https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/02pdf_index.html )内閣府
(※3)「高齢社会における資産形成・管理」( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html )金融審議会市場ワーキング・グループ
(※4)「令和元年 家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」( https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2019/19bunruif001.html )金融広報中央委員会
(※5)金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第21回)(資料2)」( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190412.html )
(※6)「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」( https://www.jili.or.jp/research/report/zenkokujittai_h30st_1.html )公益財団法人生命保険文化センター
(※7)「60代の雇用・生活調査」( https://www.jil.go.jp/institute/research/2020/199.html )独立行政法人労働政策研究・研修機構
【ご注意】
ここでいう「金融資産」とは、家計が保有する金融商品のうち、貴金属や現金、事業のために保有している金融商品、預貯金のうち日常的な出し入れや引落しなど生活費に対応する部分を除いた「運用のため、または将来に備えて保有している部分」となっています。
【ご参考】貯蓄とは
総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。