「モンスタークレーマー」という言葉も定着して久しくなりました。理屈の通らないことを言ったり、執拗なまでに謝罪を求めたりするクレーマーへの対応に苦戦している企業も多いようです。
■執拗に名前と住所を聞いて脅す
ある企業のコールセンターで働いている30代のAさんは、執拗にオペレーターの個人情報を引き出そうとするクレーマーの対応に苦労していると言います。
「ちょっとした言い間違いや言葉遣いに文句をつけてきて、『お前の名前はなんて言うんだ』と名前を聞いてくる。オペレーターが山田です、と苗字を告げると『下の名前まで言え!』と怒鳴りつける。エスカレートすると『会社はどこにあるんだ、今から行ってやる』『お前個人の電話番号を言え』などと恐怖心をあおるようなことを言ってくる」とのこと。
「ある新人オペレーターは、『フルネームを言え』『どこに住んでいるんだ、ツラを見に行ってやる』と何度もしつこく凄まれて、やめてしまった。彼女はかなり優秀だったけれど、『この会社で働いているだけで、なんでこんなに怖い思いをしなきゃいけないのか』と言われて、さすがに私も心苦しかった。彼女のオペレーションに誤りがあったわけではなく、因縁をつけるようなクレームだったから彼女がそう思うのも無理はない」と続けます。
個人を特定しようとしてくる言動には恐怖を感じてもおかしくありません。Aさんの会社では、偽名を使うことも許可しており、内部のデータ管理システムに書き込むときに、本名とその際に使った偽名を入力して管理しているようです。
「そこまでしないと社員を守れないなんて悲しい世の中になったと思うけれど、悪質なクレーマーがいる限り仕方ない。偽名を使うことでオペレーターのみんなのストレスや心理的負担を和らげることができているのなら、業務に支障がない範囲でこういう対策も必要」と話していました。
■大きな声と暴言で威嚇するだけでなく…
「コロナ禍が始まって、店員にイチャモンをつけたり、大声で罵倒したりすることを何とも思わなくなった顧客が増えた気がする」と話すのは、生活用品店で働く30代のBさんです。
「感染拡大の初期にマスクやトイレットペーパーがなくなって、店員を怒鳴りつける顧客が問題になった時期があった。その対策として、店員が直接説明しなくてもいいように大きな紙に赤い文字で『トイレットペーパー入荷の目途は立っておりません』と書いたり、店内放送でも呼び掛けたりした」と言います。
「それでも、『店員に何か一言文句を言わないと気がすまない』とか『看板にはああやって書いてあるけれど、店員に聞けば教えてくれるはず』みたいなクレーマーが多くて、『いつ入荷されるんだ』『なんでそんなこともわからないのか』『この役立たず』なみたいな暴言を吐いていた。そして、あのとき店員を怒鳴ることに慣れた顧客が、今も何かあるとすぐ大声で威嚇している気がする」と話します。
「中には怒った顧客に肩を突き飛ばされたり、頭突きされたという店員もいる。そういう場合でも、各店舗の判断で警察を呼ばないことが多かったようだけれど、明らかに暴力沙汰だし悪質な場合は呼んでもいいと思っている。本社はノーリアクションだけれど、そういうのは本社からしっかり通達すべき」と語ってくれました。
たしかに肩を押したり、突き飛ばすような暴力は、たとえ顧客の立場であっても許されるものではないでしょう。
■粘着質に「誰のせいか」と尋ねてくる
「コールセンターにいると、人間の心の闇みたいなものが見えるような気がする」と話すのは、金融機関のコールセンターで働く20代のCさんです。
「お客さんがいろいろな説明を求めてくるのは理解できる。会社の落ち度に対するクレームも理解できる。
「こちらも落ち度はあるけれど、小さなミスをあげつらって『こうなったのは誰のせい?』としつこく聞いてくるクレーマーがいた。応対する言葉尻を拾い上げて『いまこう言ったよな?』と何度も言い、『確かに申し上げてしまいましたが、その点については訂正いたします。申し訳ございませんでした』と丁寧に謝っても『お前の説明にはミスがあった』『間違ったことをお客に言うのか』と勝ち誇ったように言う」のだそう。
「あまりにしつこく誰のせいかと尋ねられ、『こちらの誤りです』と伝えても『そうだよな、わかってるよな』と言われ、何を求められているのかもよくわからない会話が20分以上続いた」と嘆きます。
こういう粘着質なクレーマーは多いらしく、何度も繰り返し謝罪を求めてきたり、言い間違いについてどう間違えたかを何度も復唱させる、なんていうことは日常茶飯事なのだとか。Cさんが「心の闇」というのもうなずけます。
■業務終了後に店員を待ち伏せる
「もうその人は精神的に病んで休職してしまったけれど、そうなっても仕方ないくらい彼女にとってはトラウマになる事件だったと思う」と話し始めてくれたのは、百貨店で働く30代のDさんです。
同僚女性が顧客からストーカー行為の被害を受け、休職するほどまでに追い詰められてしまったのだとか。「彼女を守ってくれない会社にも色々と思うことがあった」と語ります。
「最初はただのいいお客さんだったと思う。彼女のことを気に入っていたみたいで、何を買うにも彼女に尋ねていた。
「女性同士で連携を取って、彼女に近づかせないようにフォローしていた。でも、目ざとく彼女を見つけてはストーカーをするように。終業後に店を出たら待ち伏せされていて、抱きつかれたこともあったようで…。その様子を見た他の社員から私に連絡が入ったので、同僚男性を連れて急いで従業員出入口に向かった。彼女がひどく震えていたのが印象的だった」と肩を落とします。
そのあと、自宅にまでつけてきたことも多かったという彼女からの相談あったものの、会社は何か対策を取るわけでもなかったうえに、警察には言うなと言ってきたのだとか。「あの時点で女性社員の多くは失望したと思う。会社のために働いても、会社は私たちを守ってくれないんだと思った」と話してくれました。
■おわりに
顧客の立場だからといって、個人情報を聞いてきたりするのは怖いことですし、突飛ばしたりストーカー行為を働いたりするのはクレーマーの域を超えています。クレーマーになる人はストレスを抱えているのかもしれませんが、他人に怒りをぶつけることでストレス解消するのはお門違いでしょう。