■年収1000万円の所得制限になる制度も確認
同じ世帯年収1000万円でも、独身と専業主婦世帯、共働き世帯では手取りの額は変わってきます。
これは引かれる税金や社会保険料が、世帯構成によって異なるためです。
実際にどのくらい違うのか、それぞれの手取り額を計算して比べてみたいと思います。
また、年収1000万円は所得制限が適用される可能性があります。所得制限がある制度と目安となる年収も合わせてご紹介します。
■世帯年収1000万円の3つの世帯パタ-ン
世帯年収1000万円といっても、世帯構成によって生活イメ-ジは大きく異なります。
税金や社会保険料は所得や扶養の有無によって金額が変わるため、手取り収入に違いが出てきます。
また、世帯の人数によって生活費も変わってくるので、家計の収支バランスからゆとりがある生活ができるのか、そうでないのかイメ-ジができます。
ここでは、例として次の3つのパタ-ンを想定してそれぞれ計算していきます。
■パタ-ン1:独身
- 35歳会社員、年収1000万円(月収60万円+ボ-ナス140万円×2回)
■パタ-ン2:専業主婦世帯
- 夫:35歳会社員、年収1000万円(月収60万円+ボ-ナス140万円×2回)
- 妻:32歳無職
- 子:1歳
■パタ-ン3:共働き世帯
- 夫:35歳会社員、年収600万円(月収40万円+ボ-ナス60万円×2回)
- 妻:32歳会社員、年収400万円(月収30万円+ボ-ナス20万円×2回)
※いずれも東京都在住(協会けんぽ加入)
※提示した情報以外の控除はないこととします
※社会保険料は「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」(40歳以上になると「介護保険料」が加わります)
では一つずつ確認していきましょう。
■世帯年収1000万円「独身世帯」の手取りを計算
まずは先ほどの条件で、独身世帯の年間の手取り額を計算します。
独身世帯:35歳会社員、年収1000万円(月収60万円+ボ-ナス140万円×2回)
■健康保険料
■月収
59万円(標準報酬)×9.81%÷2=2万8939円(50銭以下切り捨て)
2万8939円×12カ月=34万7268円
■ボ-ナス
140万円×9.81%÷2=6万8670円
6万8670円×2=13万7340円
計48万4608円
■厚生年金保険料
■月収
59万円(標準報酬)×18.3%÷2=5万3985円
5万3985円×12カ月=64万7820円
■ボ-ナス
140万円×18.3%÷2=12万8100円
12万8100円×2=25万6200円
計90万4020円
※参考:全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)」
■雇用保険料
1000万円×0.3%=3万円
社会保険料合計:141万8628円
■所得税
1000万円-195万円(給与所得控除)=805万円
805万円-141万8628円(社会保険料控除)-48万円(基礎控除)=615万1372円
615万1000円(課税所得)※千円未満切捨て
615万1000円×20%(税率)-42万7500円(控除額)=80万2700円
※復興特別所得税は考慮しない
■住民税
62万2500円
※個人住民税額シミュレ-ション(東京都中央区)を使用して試算
税金合計142万5200円
■手取り額
1000万円-141万8628円(社会保険料)-142万5200円(税金)=715万6172円
■世帯年収1000万円「専業主婦世帯」の手取りを計算
次に専業主婦世帯の手取りです。
夫:35歳会社員、年収1000万円(月収60万円+ボ-ナス140万円×2回)
妻:32歳無職
子:1歳
■社会保険料
社会保険料合計:141万8628円
※計算方法は「パタ-ン1:独身」を参照
■税金
■所得税
1000万円-195万円(給与所得控除)=805万円
805万円-141万8628円(社会保険料控除)-38万円(配偶者控除)-48万円(基礎控除)=577万1372円
577万1000円(課税所得)※千円未満切捨て
577万1000円×20%(税率)-42万7500円(控除額)=72万6700円
※復興特別所得税は考慮しない
■住民税
57万4500円
※個人住民税額シミュレ-ション(東京都中央区)を使用して試算
税金合計 130万1200円
■手取り額
1000万円-141万8628円(社会保険料)-130万1200円(税金)=728万172円
■世帯年収1000万円「共働き世帯」の手取りを計算
最後に共働き世帯の手取りを計算します。
夫:35歳会社員、年収600万円(月収40万円+ボ-ナス60万円×2回)
妻:32歳会社員、年収400万円(月収30万円+ボ-ナス20万円×2回)
■夫の社会保険料
■健康保険料
■月収
41万円(標準報酬)×9.81%÷2=2万110円(50銭以下切り捨て)
2万110円×12カ月=24万1320円
■ボ-ナス
60万円×9.81%÷2=2万9430円
2万9430円×2=5万8860円
計30万180円
■厚生年金保険料
■月収
41万円(標準報酬)×18.3%÷2=3万7515円
3万7515円×12カ月=45万180円
■ボ-ナス
60万円×18.3%÷2=5万4900円
5万4900円×2=10万9800円
計55万9980円
■雇用保険料
600万円×0.3%=1万8000円
社会保険料(夫)合計 87万8160円
■妻の社会保険料
■健康保険料
■月収
30万円(標準報酬)×9.81%÷2=1万4715円
1万4715円×12カ月=17万6580円
■ボーナス
20万円×9.81%÷2=9810円
9810円×2=1万9620円
計19万6200円
■厚生年金保険料
■月収
30万円(標準報酬)×18.3%÷2=2万7450円
2万7450円×12カ月=32万9400円
■ボ-ナス
20万円×18.3%÷2=1万8300円
1万8300円×2=3万6600円
計36万6000円
■雇用保険料
400万円×0.3%=1万2000円
社会保険料(妻)合計 57万4200円
■夫の税金
■所得税
600万円-164万円(給与所得控除)=436万円
436万円-87万8160円(社会保険料控除)-48万円(基礎控除)=300万1840円
300万1000円(課税所得)※千円未満切捨て
300万1000円×10%(税率)-9万7500円(控除額)=20万2600円
※復興特別所得税は考慮しない
■住民税
30万7500円
※個人住民税額シミュレ-ション(東京都中央区)を使用して試算
税金(夫)合計 51万100円
■妻の税金
■所得税
400万円-124万円(給与所得控除)=276万円
276万円-57万4200円(社会保険料控除)-48万円(基礎控除)=170万5800円
170万5000円(課税所得)※千円未満切捨て
170万5000円×5%(税率)=8万5250円
※復興特別所得税は考慮しない
■住民税
17万8000円
※個人住民税額シミュレ-ション(東京都中央区)を使用して試算
税金(妻)合計26万3250円
■手取り額
■夫
600万円-87万8160円(社会保険料)- 51万100円(税金)=461万1740円
■妻
400万円-57万4200円(社会保険料)- 26万3250円(税金)=316万2550円
■世帯合計
1000万円-145万2360円(社会保険料)- 77万3350円(税金)=777万4290円
■【年収1000万円】手取りが一番多いのは共働き世帯
独身の場合は控除額が少ないため、税金が多くなり、手取りは一番少ない715万6172円となりました。
■世帯年収1000万円の手取り額(年額)

各種資料をもとに筆者作成
専業主婦世帯の場合は、配偶者控除や子育て世帯向けの控除があるため、税金が軽減され、手取りは728万172円となりました。
共働き世帯は夫婦の収入を合わせて1000万円なので、課税対象額が増えるほど税率が上がる「累進課税制度」では税率が低くなり、税金の負担が軽くなることで手取り額は一番多くなります。
■年収1000万円は所得制限に引っかかる?
年収1000万円世帯はしばしば所得制限に引っかかりやすいと言われます。
たとえば児童手当です。
■児童手当の所得制限
児童手当は中学生までの子どもがいる世帯に支給されます。
3歳未満は一律1万5000円、3歳以上小学校修了前は1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は一律1万円です。
児童手当には所得制限が設けられています。
■所得制限限度額と所得上限限度額

出典:内閣府「児童手当制度のご案内:子ども・子育て本部」をもとに筆者作成
児童手当の支給要件として、子どもを養育している人の所得が「所得制限限度額」未満である必要があります。
ただし、「所得制限限度額」以上「所得上限限度額」未満の場合は、特例給付として、児童1人当たり月額一律5000円が支給されます。※
※令和4年10月支給分から、「所得上限限度額」以上の場合には、特例給付は支給されません。
これまで、「所得制限限度額」以上の場合は一律5000円の特別給付がありましたが、これにも「所得上限限度額」という上限を設けて、特別給付にも制限がかけられました。
扶養親族とは、同一生計の配偶者と子どもを指します。
前出の「パターン2:専業主婦世帯」の場合、妻と子ども1人なので扶養親族は2人となり、収入額の目安を参考にすると、児童手当は受けられず、特別給付が受けられます。
■その他の所得制限がある子育て支援
高校生のいる家庭の授業料負担を軽減するための制度である「高等学校等就学支援金」には所得制限が設けられています。
対象となる年収の目安としては、両親のうちどちらか一方が働き、高校生1人(16歳以上)、中学生1人の子供がいる世帯で年収約910万円未満となります。
他にも、子どもの医療費の一部または全額を自治体が助成する「小児医療費助成制度(自治体によって名称が異なる)」に所得制限を設けているケースがあります。
対象年齢や助成内容、所得制限の有無などは各自治体で異なるため、お住まいの市区町村のホームページで確認してみてください。
■まとめにかえて
同じ世帯年収1000万円でも、世帯構成によって手取り額が違うこと、また、子どもを持つ家庭では年収1000万円は所得制限によって、支援を受けられてない可能性が高いということがわかりました。
独身の場合は支出も1人分なので、年収1000万円は手取りが少ないとしても余裕のある生活ができるでしょう。
専業主婦(主夫)世帯や共働き世帯は子どもがいると支出が増え、世帯年収1000万円といえども余裕があるとはいえない状況でしょう。
子育て支援の所得制限は議論の余地があると思います。世帯年収だけではわからない収支バランスによって生活イメージを捉えることが大事でしょう。
■参考資料
- 全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)」( https://docs.google.com/document/d/1MD44mUfjwDXoGKLra58DL45WblUcXWrYoTmtOSbAn5I/edit# )
- 内閣府「児童手当制度のご案内:子ども・子育て本部」( https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/annai.html )
- 文部科学省「高等学校等就学支援金制度」( https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/1342674.htm )
- 東京都中央区「個人住民税額シミュレ-ション」( https://zeisim.e-civion.net/tax-project/tax/chuo_top.html )