■大阪にこだわる蓬莱が示す外食企業の生きる道
大阪の食といえば、たこ焼きやお好み焼きを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、「551蓬莱」の豚まんの存在抜きに大阪の食を語ることはできません。
大阪人にとっては豚まんの味とともに、心の原風景ともなっている551蓬莱。そんな蓬莱が東京に進出しない理由を探ると、外食産業の1つの在り方が見えてくるように思います。
■東京に進出しない2つの理由
たこ焼き、お好み焼きと並んで大阪人のソウルフードである551蓬莱の豚まん。大阪のターミナル駅には必ず店舗があり、店はいつも繁盛しています。その豚まんの餡はジューシーで何とも言えない旨さ。関西出身者以外でも病みつきになる方が多いのもうなずけます。
この豚まんを製造販売している株式会社蓬莱は、頑なに大阪にこだわっている企業としても知られています。では、551蓬莱が東京進出をしない理由は何なのでしょうか。
地元大阪へのこだわり
現在の551蓬莱の前身は1945年(昭和20年)に大阪難波で産声をあげました。今も難波に本店があり(本社は難波のお隣の桜川)、70年余にわたる歴史の中で大阪のソウルフードとしての地位を確立してきました。その地元に恩返ししたいという気持ちが、東京進出をせずに大阪にこだわる理由の1つとして知られています。
大阪本社の会社が東京に本社を移す事例は数多いですが、551蓬莱の大阪にこだわる姿勢にはある種のすがすがしささえ覚えます。
生地へのこだわり
東京進出をしない背景には、生地へのこだわりもあります。551蓬莱では店頭で豚まんを作っている店員の姿がつきもの。551の店舗=豚まんを作っている店、というのが原風景となっている大阪人も多数いるのです。
そんな豚まんですが、あのモチモチの生地は大阪市浪速区桜川の工場から配送されるものです。基本的に551蓬莱は桜川の工場から生地をそのまま配送できる範囲内にしか出店していません。よって、必然的に出店は大阪近辺に限られてしまいます。
■IPOを目指さない蓬莱に見る外食企業のあり方
外食産業からはIPO(株式上場)をする企業も多く出ていますが、蓬莱は今も未上場企業です。
IPOを目指す外食企業は、業容拡大の過程でどうしても味の画一化が避けられません。セントラルキッチンで用意された食材を店舗で調理するのは、安くて旨いという観点では非常にありがたいのですが、たまに食べたい“おふくろの味”的な要素は、手間がかかるためIPOとは相容れないものなのかもしれません。
IPOをして全国チェーンを目指すのも外食企業の1つの道ですし、蓬莱のように未上場のまま味にこだわるというのも1つの道です。後者を選択して大阪のソウルフード的存在にまでなった同社には、外食企業としての1つの在り方を見ることができるのではないでしょうか。
■横浜には崎陽軒のシウマイ、名古屋には寿がきやのラーメン
日本の各地域には、それぞれソウルフードがあるものです。横浜の崎陽軒のシウマイ(東京駅でも売っていますが)、名古屋の寿がきやのラーメンも地元のソウルフードと言える存在でしょう。
狭い日本とはいっても、各地域に豊かな食文化が存在します。そうしたローカルの食文化を外食産業という形で体現している代表的な例が551蓬莱の豚まん、崎陽軒のシウマイ、寿がきやのラーメンではないでしょうか。いずれの会社も、IPOを行わず地元にこだわる姿勢が共通しています。
■大阪人が優越感を感じる東京での豚まん販売
東京で551蓬莱の豚まんを食べる機会といえば、デパートで開催される関西の物産展があります。ただし、大阪人が喜び勇んで物産展に行くと驚かされるのが、豚まんを買うための長蛇の列。待ち時間が30分以上という光景が普通に広がっています。
そこで大阪人は思うのです、大阪なら5分も並べば551蓬莱の豚まんが買える、と。そして東京に対する優越感に浸り、ほくそ笑む大阪人多数。大阪人にとって、551蓬莱の豚まんは自らのアイデンティティーを意識させる存在と言えるかもしれません。
そんな豚まんを作り続ける蓬莱は、今後も大阪にこだわる企業として大阪人に愛され続けるのではないでしょうか。