■至極真っ当な指摘を受け止め説得できるか
「嫁ブロック」という言葉を耳にしたことがあるという方はいらっしゃるでしょうか。これは夫婦間において、夫が何らか決断をし、妻にその内容を伝えた際に反対をされる(または反対により決断を撤回する)ことを指します。
ただ、ブロック時に妻から繰り出される指摘(反対意見)は至極真っ当なものであることが多いようです。今回は、転職や起業で男性の決断をくじく嫁ブロックがなぜ発生するのか、なぜ嫁ブロックを突破できないのか、その背景について考えてみたいと思います。
■男性はいつ、大事な決断をするのか
ひとたび結婚すれば、日常生活における収支管理は妻の独壇場であり、ほとんどの意思決定場面における決裁権も妻にある、という家庭も珍しくないでしょう。そのようななか、男性の「いざ!」という決断はそれほど多いものではありません。ただ、男子たるもの、時に自分の夢を追求したい、あるいは家族をもっと幸せにしたいといった目的のために、これまでの延長線上にない、ベクトルを変える意思決定をしたくなるタイミングがあるものです。
このような重要な意思決定を要する事項が毎日発生するわけではありません。もちろん人生でもそう何度もありません。ただ、どこかのタイミングで誰もが経験するものではあるでしょう。
■夢を求める夫、現実的な妻
男性の大事な意思決定といえば、転職や起業、あるいは投資といったイベントだと思います。特に身近な例は「転職」でしょう。
最近でこそ転職に関する情報が増え、転職が身近になってきました。とはいえ、いきなり家庭に持ち込まれても、すんなり「はい、そうですか」とは受け入れ難い、これが妻の正直な思いではないでしょうか。
一方、夫は職場の閉塞感や担当する事業の先行きなどをきっかけに、自分のやりたいことを見つめ直し、転職や起業を考えはじめます。
収入が増える転職であれば比較的問題は少ないでしょう。しかし「とにかく現在の職場から離れたい」といった焦りから、収入が増えない転職を選択してしまうこともありえます。また、収入が増える転職でも安泰とはいえません。中途採用は新卒入社とは異なり、即結果を求められることが大半です。採用担当者が期待したレベルでパフォーマンスが出ない場合には、その後の収入や雇用が約束されないなど、転職前と比べて待遇が悪化するといったこともあります。
それでも、夫は新天地を求めて決意を固めるのです。
■リスクは重々承知のうえでの決断したはずが、なぜ?
これが転職どころか起業したいと言い出したような場合ならどうでしょう。収入面において、これまでとは比較にならないほどリスクが高まると考えるのが自然です。
ただ、自分の思うような転職や起業とならなかった場合に金銭面で直面する状況は、実際に転職や起業をしなくても大方想像できます。それがわかったうえで、一生でそう何度もしない決意を彼らは口に出したはず、です。
それにも関わらず、妻の反対によって夫の決断はあっけなく潰えてしまいます。こうした「嫁ブロック」はなぜ起きるのでしょうか。
■「嫁ブロック」は単なる言い訳?
転職を決めて妻にその決断を切り出した際、妻に止められて転職できなかった、という話を耳にします。いわゆる転職時の「嫁ブロック」です。
A氏は大手金融機関に勤務するグローバルエリート・サラリーマンですが、ベンチャー企業に転職しようとした際に「嫁ブロック」にあい、転職そのものを断念しました。「なぜ将来有望なポジションと給与を捨ててベンチャーに行くのか」、妻の真っ当な指摘にA氏は返す言葉がなかったといいます。
このA氏の知人で別のベンチャー企業の経営者であるB氏は、A氏の行動に苦言を呈します。
「急に将来が不確実になって不安になるのは奥さんの立場なら当然のことです。
B氏は続けます。
「A氏は『嫁ブロック』を言い訳にしているだけで、自分の考えそのものを煮詰め切れていないのではないでしょうか。実際のところ、考え方が中途半端なメンバーが入ってくるのは受け入れ側にとってもよくないと思います」
いずれにせよA氏は「断念する」という苦渋の決断を再びすることになり、話を進めていた相手方も含め、多くの関係者を振り回すことにもなってしまいました。もし嫁ブロックを説得する自信がないならば、自分の考えがしっかり固まるまで、その決断は口には出さずに内に秘めている方が良さそうです。
■おわりに
こう決めた!と言い切り、実行に移す人を見ていると清々しいものです。自分で意思決定をし、その判断をもって周囲を適切に説得することができている人ばかりなら、そもそも「嫁ブロック」など存在しえないキーワードかもしれません。しかし、実際のところ「嫁ブロック」はあちこちで耳にしますし、それを理由に翻意する人も非常の多いものです。
なんとしても嫁ブロックを突破したい、そう思う方なら、自分の考えをしっかり煮詰め切れているか確認する、意思決定プロセスや周りを説得するという作業において、どこか不十分な点がないかきちんと見直すといったことが鍵となりそうです。