■『化身』『失楽園』『愛の流刑地』連載時の上昇率を振り返る



日経新聞で”大人の恋愛小説”の連載が始まると日経平均はどうな...の画像はこちら >>

■林真理子氏の『愉楽にて』の連載が始まる



2017年9月6日から、日本経済新聞の朝刊で林真理子氏の連載小説『愉楽にて』が始まりました。



作品の舞台は東京、京都、シンガポールで、主人公は50代の大手製薬会社の副会長という地位にある既婚男性です。

美術品の収集などを趣味とする一方で、多くの女性と恋愛を楽しむ人生を送っています。今週は、シンガポールでの年下女性との逢瀬が濃密に描かれていました。



日経新聞の恋愛小説といえば、2014年に亡くなった渡辺淳一氏が有名です。今回の林氏の連載を読みながら、過去に毎朝、渡辺氏の小説を楽しみに出勤した経験を思い出された方も少なくないかもしれません。



また、「渡辺淳一氏の小説の連載が始まると日経平均は上昇する」という都市伝説のような話を耳にした記憶をお持ちのかたもいらっしゃるのではないかと思います。



そこで今回は、渡辺氏の過去3回の連載小説が掲載された期間の日経平均の推移を検証してみることにしました。



■3回とも日経平均は2桁の上昇に



渡辺氏は、文芸評論家と銀座のホステスとの恋愛を描いた『化身』(黒木瞳が主演の映画も話題となりました)、最後は心中という悲しい結末の『失楽園』(映画、テレビでも話題となりました)、落ちぶれた小説家と人妻との関係を描いた『愛の流刑地』(「愛ルケ」という流行語を生みました)の3つの作品を日経新聞で連載しています。



各作品の連載時期と、その間の日経平均の上昇率は以下のようになっていました。



  • 『化身』(1984年4月1日~1985年11月1日):1万1,050円(注1)→1万2,808円、+16%上昇
  • 『失楽園』(1995年9月1日~1996年10月9日):1万8,120円→2万870円、+15%上昇
  • 『愛の流刑地』(2004年11月1日~2006年1月31日):1万734円→1万6,649円、+55%上昇

このように、3作品ともに連載開始時と比べ終了時の株価は上昇しており、上述の“都市伝説”は単なる俗説ではなく実際に起きたということになります。



注1:1984年4月1日は休場であっため4月2日の株価



■アノマリーは今回も起きるのか



明確な理論的根拠は見当たらないが、よく起きる事象を相場の世界では“アノマリー”と呼んでいます。



有名なものとしては、1月は株高になりやすい、ジブリが放映された翌週の相場は波乱となる、大型株よりも小型株のほうが上昇する、などです。しかし、いずれも過去にそうであったことが多いというだけで、将来も必ずそうなることを保証するものではありません。



このため、身もふたもない話ですが、今月から日経新聞で恋愛小説の連載が始まったからといって、今後日経平均が上昇するかどうか、確たる予想はつかないということになります。



■人々の記憶に残る作品となるか?



今回の連載がアノマリーを再び引き起こすかはともかく、将来、渡辺氏の小説と同様に多くの日本人の記憶に残るものとなるかどうか、興味のあるところです。



言うまでもなく、より幅広い読者に読まれるためには、連載終了後に書籍化され、テレビドラマや映画になってヒットすることがカギとなります。



というのは、日本経済新聞の本紙朝刊の販売部数は約270万部と全国紙トップの読売新聞の約3分の1、また、電子版用の紙面ビューアーアプリ(注2)利用者も約25万人に留まるためです。



日経新聞のコアの読者層は40代を中心とする企業の中堅社員、ホワイトカラー、経営者であり、一般的な老若男女というわけではありません。全国的に幅広い読者を獲得する作品となるためには、連載終了後の展開がより重要になると言えるでしょう。



当面は『愉楽にて』のストーリーが今後どのように繰り広げられるかを毎日楽しみにしつつ、日経平均の値動きがどうなるか、さらに連載終了後の展開についても注目したいところです。



注2:日経電子版では連載小説は電子ビューアーでしか読めない仕組みとなっています。



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