日銀の日本株保有額がついに27兆円を超える
日本株市場で、日本銀行の存在がどんどん大きくなりつつあります。日銀は今、日本株ETF(上場投資信託)を年間6兆円のペースで買い付けています。売りはせず、買いだけです。
日本銀行による日本株ETFの累積買い付け額推移:2011年1月~2019年9月

日銀はこれまで、きわめて分かりやすい買い方をしてきました。年間の買い付けペース(年6兆円)をほぼ守りつつ、日経平均が午前中に大きく下がった日に、大口買い(703億円)を入れてきました。日経平均が上昇すると買いを減らし、「上値を牽引するのではなく、下値を支える」買い方を徹底してきました。
日銀は、2015年から買い付けペースを引き上げています。2015年は年3兆円(月間約2,500億円)の買い付けを行いました。2016年に入ってから、年3.3兆円(月間約2,750億円)としました。2016年8月から買い取りペースをさらに大幅に引き上げ、年6兆円(月間約5,000億円)としました。現在も6兆円のペースで買っています。
日銀と並び「自社株買い」も巨額の買い手に
日銀と並んで、「自社株買い」【注】も巨額の買い手となりつつあります。
【注】自社株買いとは
上場企業が、株主還元の一環として、自社の株を買うこと。「NTTドコモがNTTドコモ株を買う」「三井住友FGが三井住友FG株を買う」のが自社株買い。自社株買いを行うと発行済み株式数が減少するので、1株当たり利益が増加する。
事業法人が、毎年数兆円規模で日本株を買い越していますが、そのほとんどが自社株買いです。ただし、自社株買いは、事業法人の市場取引だけでなく、金融法人の市場取引や、事業法人・金融法人の市場外取引でも出ています。すべての自社株買いを合わせると、2018年度(2018年4月~2019年3月)は6兆円超ありました。2019年度(2019年4月~2020年3月)は、10兆円超の自社株買いが出る見込みです。そうなると、日銀買いを超えて、日本株最大の買い手となります。
日本の上場企業は100兆円あまりの現預金を保有しており、財務良好な日本企業から、今後も高水準の自社株買いが続く見込みです。
今年も自社株買いと並び、日銀が巨額の買い手に
買いだけ年6兆円ものペースでやる投資主体は、日銀以外にありません。2019年(1~9月)も、日銀が日本株の最大の買い手となっています。
2019年1~9月の日本株主体別売買、買い越し・売り越し上位3主体

上記の売買主体の特徴につき、以下、簡単に説明します。
<安定的な買い主体>日本銀行
金融政策の一環として、年6兆円のペースで日本株ETFを買いつけている。日本銀行が買い付けるETFを組成するために、証券自己部門などが日本株を買い越す。一部、日銀の買いが信託銀行の買いなどに含まれている可能性もある。
<安定的な買い主体>事業法人
事業法人の買いは、主に「自社株買い」。株主への利益配分の一環として、毎年安定的に買い越し。
<売ることも買うこともある>信託銀行
主に、年金基金などの売買。株価上昇局面では、日本株の組入比率が高くなるので、リバランス(比率調整)のために売り越すことが多い。株価下落局面では、日本株の組入比率が低くなるので、比率調整のために買い越すことが多い。
<売ることも買うこともある・マーケットを支配>外国人投資家
日本株の短期的な値動きを決めているのは、外国人投資家である。買う時は上値を追って買い、売る時は下値を叩いて売ることが多いので、外国人が買い越した月は日経平均が上昇し、売り越した月は日経平均が下落することが多い。
<売ることも買うこともある>個人投資家
日本株の上昇局面で売り越し、下落局面で買い越すことが多い。実態以上に、売り越し額が大きく出る傾向がある。なぜならば、個人投資家がIPO(新規公開株)を取得して上場後に売る場合、統計上売りだけが計上されるからだ。IPO取得は、買いに計上されない。
<安定的な売り主体>銀行・生損保
持ち合い解消売りを進めている。過去も今後も、一貫して売り越しが続いている。近年は金融法人も「自社株買い」のための買いを出すようになったが、まだ、持ち合い解消売りの方が金額が大きい。
2018年も2017年も、日銀が最大の買い手だった
昨年(2018年1-12月)、日本銀行は日本株ETFを6兆5,040億円も買い付けています。外国人投資家の大量売り(▲5兆7,402億円)を吸収したのが、日本銀行だったことがわかります。日本銀行の次に買い越しが大きかったのは事業法人(主に自社株買い)でした。外国人の次に売りが大きかったのは銀行・生損保(主に持ち合い解消売り)でした。
2018年の日本株主体別売買、買い越し・売り越し上位3主体

一昨年(2017年1~12月)も、日本銀行が最大の買い手でした。
2017年の日本株主体別売買、買い越し・売り越し上位3主体

日銀の買いがなかったら、日経平均はもっと安い水準に留まったか?
主体別売買を見ると、日銀が大量に買って日本株を支えているように見えます。日銀の買いで、日経平均は2,000円くらい嵩上げされていると言う人もいます。もし日銀の買いが無かったら、日経平均は今より2,000円下の1万9,000円強に留まっていたのでしょうか?
私は、そのようなことはないと思っています。日銀の買いがあってもなくても、日経平均は現在の水準(2019年10月7日時点で2万1,375円)に近いところにあると思います。
日経平均が急落する時は、外国人が売っています。日経平均が高値を取る時は、外国人が買っています。外国人が買うと上がり、売ると下がる傾向は、過去20年続いてきたことで、それは今も変わっていません。
外国人は、日本の景気・企業業績、世界の政治経済の動き、日本株のバリュエーションなどを睨みつつ、日本株が売りだと思えば売り、買いだと思えば買っているだけです。
日銀は、個人投資家の買いの機会を奪っただけ
それでは、日銀の買いは、何に影響したのでしょうか?日銀は、日経平均が下げた日に大口買いを入れることを徹底しています。外国人が売りに回ったとき、すかさず買って、日経平均が大きく下げるのを防いできました。
個人投資家は、日経平均が上がる局面で売り、下がる局面で買う傾向が鮮明です。外国人と反対の売買をしていることが多かったと言えます。外国人が買うと売り、売ると買っています。
ところが、2017年以降は、個人投資家の売買動向に変化が見られます。外国人が買って日経平均が上がる局面で売っているのは同じですが、外国人が売って日経平均が下がる局面であまり買えていません。
2017年以降は、日経平均が下がるとすかさず日銀が大量買いを入れて相場を支えるので、個人投資家が買いたいと思う水準まで下がらなくなっていました。
結果的に、日銀は、個人投資家の買い場を奪っていただけと考えています。
日銀はいずれ年6兆円規模の買い付け額を縮小しなければならなくなると予想
中央銀行である日銀が、年6兆円規模の買いを続けているのは、異常と考えています。いずれ買い付け額の縮小を議論しなければならなくなると、予想しています。
中央銀行の主な役割は、円滑な資金供給を通じて、経済を活性化することにあります。日銀は、インフレ期待を高め、設備投資に点火することを目指し、異次元金融緩和を実施してきました。ところが、いくら金余り状況を作っても、インフレ期待は高まってきません。そこで、株を大量に買い付けて、景況を良くする奇策に出たのです。
本来、金融緩和→インフレ期待上昇→設備投資拡大→日本株上昇をねらっていたのが、いつまでもインフレ期待が高まらないことに業を煮やし、ついに日本株を直接買う奇策に出たわけです。
その奇策も、有効に寄与しているとは、言えません。ただ、個人投資家の買い場を奪っているだけで、日経平均が上昇するか否かは、結局、外国人投資家次第という状況が続いています。私は、早晩、6兆円規模の買い付けを縮小する議論が必要になると考えています。
日銀が買いをやめるとどうなるか?
私は、日銀の買いは、日経平均の水準に影響していないと考えています。
ただし、日銀の買いがなくなると、日経平均のボラティリティ(変動性)は大きくなると思います。外国人が売って日経平均が下がる時、すかさず下値に買いを入れる主体がなくなるからです。日経平均のボラティリティが大きくなると、個人投資家が買いにくくなると言う人もいますが、私は逆だと思います。
過去に何度も見られたことですが、日経平均がしっかり下げれば、個人投資家は積極的に買ってきます。日銀が買わない分、日経平均のボラティリティが大きくなり、その分、個人投資家が買う機会が増えると考えています。
最終的に、日経平均がどうなるか?それは、日銀の買いの有無ではなく、日本企業のファンダメンタルズ(業績とバリュエーション)によって決まると考えています。日銀の売買は、短期的な変動に影響しているだけと考えています。
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(窪田 真之)