ワクチン開発は期待以上の展開
新型コロナウイルスのワクチン開発が思いのほか、順調に進んでいます。先頭集団の全てが次のステージに駒を進めており、まだ脱落するグループは皆無です。
これまでにトランプ米政権の「ワープスピード計画」に採用が決まったプロジェクトは次の通りです。
グループ 進捗状況(臨床監督) 技術 注目点 アストラゼネカ(AZN) /
オックスフォード
大学 英国、ブラジル、南アで第3相臨床試験中。8月から米国で3万人の臨床試験を開始
(米国立衛生研究所) 遺伝子組み換えアデノウイルス・ベクター 「ランセット」に第1・2相臨床試験の結果が紹介された
→副作用少ない。
免疫反応良好。抗体、T細胞の両方が認められた モデルナ(MRNA) /
ロンザ 7月末から第3相臨床試験(米国立衛生研究所) mRNA 第1相臨床試験の詳細なデータが開示された
→副作用少ない。
免疫反応良好 ファイザー(PFE) /
バイオンテック(BNTX) 7月末から第3相臨床試験(自社で実施) mRNA 第1相臨床試験の詳細なデータが開示された。
ビア・レビューされた報告書が近く学会誌に掲載される。ドイツでの臨床試験も良好
→少しだけ副作用が認められたが問題なし。
免疫反応良好。抗体、T細胞の両方が認められた ジョンソン&ジョンソン(JNJ) / エマージェント(EBS) 9月に第3相臨床試験
(米国立衛生研究所) AdVacアデノウイルス・ベクター/
PER.C6セルライン 予定より2カ月臨床が繰り上がった ノヴァヴァックス(NVAX) /
エマージェント(EBS) 秋に第3相臨床試験 スパイクたんぱく質/アジュバント(抗原性補強剤) 第1・2相臨床試験がオーストラリアで完了。データは7月末に公表される メルク(MRK) /
IAVI 年内に第1相臨床試験開始 rVSV(遺伝子組み換え水疱性口内炎ウイルス) ヴァックスアート(VXRT) サルへの動物試験 粘膜アジュバント(抗原性補強剤) 錠剤
ワクチン開発グループの見込み
アストラゼネカ/オックスフォード大学
アストラゼネカ/オックスフォード大学のワクチンは9月から量産に入る見込みです。米国政府は5月に、アストラゼネカに対して12億ドルを支払う代わりに、3億ドース(1.5億人分)のワクチンの提供を受ける契約を交わしました。アストラゼネカは2020年中に10億ドースのワクチンを製造する計画です。
ファイザー/バイオンテック
ファイザー/バイオンテックは英国政府に対し2020年と2021年の間に3,000万ドース(1,500万人分)のワクチンを提供する契約を交わしました。その対価は明らかにされていません。
ファイザー/バイオンテックのワクチンは、10月にFDA(米国食品医薬品局)の審査を受けることを望んでいます。
ファイザー/バイオンテックのワクチンを投与された被験者はT細胞ができましたが、その度合いは被験者によって、ばらつきがありました。
ノヴァヴァックス/エマージェント
ノヴァヴァックス/エマージェントは7月に「ワープスピード計画」への採用が決まり米国政府から16億ドルを獲得しました。これは同社にとっては大金です。同社のワクチンは前評判が高いものの、第1相臨床試験のデータはいまだ公表されていないので、本当に良いワクチンかどうかはそれを見て判断したいところです。
ワクチン関連株をトレードする際に気を付けること
さて、ここまでの臨床が順調だったからといって、第3相臨床試験がうまくいくとは限りません。
まず、これまでの臨床試験の規模は数十人から数百人程度ですが、第3相臨床試験は3万人という大掛かりなものになります。
一般にワクチンは製造が難しく、小さいロットで生産しているときは問題がなくても、量産すると期待した効き目を得られないことがあります。
最終的にワクチンを承認するのはFDAの仕事です。FDAは新型コロナウイルス・ワクチンを承認する足切り基準として「単にワクチンを投与された人の体内に、抗体やT細胞ができたというだけではダメだ。実際に新型コロナへの感染が50%以上抑えられたことがデータで確認されなければ承認しない」と明言しています。
これはかなり高いハードルです。
最初に第3相臨床試験に入るのはファイザー/バイオンテックとモデルナです。
両方とも7月の終わりに第3相臨床を開始します。被験者は1回注射を受けた後、4週間後にもう1回注射を打たれます。つまり早くても8月24日の週までは、臨床試験が順調かどうか? に関するニュースは出ないのです。したがってこの期間は悪いニュースがもたらされるリスクは比較的小さいと思われます。
しかし、気を付けないといけないのは8月24日以降です。
なお、トランプ米政権は8月10日から25日くらいの間に「ワープスピード計画」に基づき、備蓄向けワクチンの大量発注を行うことを予定しています。このニュースがもたらされれば、受注した企業の株が上昇する可能性があります。
これらのことを総合すると、備蓄向けワクチンの大量発注のニュースが出た後で、ワクチン株相場から降りるという戦術が手堅いトレードの進め方のように思われます。
(広瀬 隆雄)