<マザーズ指数(左軸)とマザーズ売買代金(右軸)>

7月中小型のハイライト
超人気株の急落が飛び火、悪材料ばかり吸収するマザーズ…
6月の好調ぶりは何処へやら、7月の中小型株市場(とりわけグロース株)は軟調地合いにUターン。7月の東証マザーズ指数の月間騰落率は▲4.7%と低調でした。
かといって、株式市場全体の地合いが悪かったかといえば、そんなこともなく…7月の日経平均株価は同▲0.1%、TOPIX(東証株価指数)は同+1.5%でしたし、グロース株でいえば米ナスダック総合指数はプラス4.0%と好調でした。
では、「なんでマザーズは弱いの?」ですが、これはこの市場特有の問題が関係していそう。突出して個人投資家の売買シェアの高い東証グロース市場。個人投資家に大人気の銘柄の急落が重なり、センチメントを一時的に悪化した不運がありました。6月下旬のそーせいストップ安も衝撃でしたが、それ以上に影響大だったのが7月初旬の「ソシオネクストショック」。
信用買い残、流動性(売買代金)とも上位に入る日本屈指の人気株が、富士通など大株主による保有株全部売り(海外売出)発表で暴落。多くの個人投資家が関与してきた人気株の急落で評価損益率は急速に悪化しますので、センチメント悪化が他銘柄にも波及し、負の連鎖が生じました。
それにしても、悪材料ばかり吸い上げるマザーズ指数の吸引力…。TSMCショック(半導体世界大手TSMCが20日発表した決算で、四半期ベースで約4年ぶりの減収減益、通期見通しの下方修正を発表したこと)で半導体株が一斉安する場面もありましたが、半導体株なんて無いはずのマザーズ指数は連れ安しました。
7月末時点の信用買い残(金額ベース)全市場TOP10
コード 銘柄名 信用買い残
(億円) 7月
騰落率 6920 レーザーテック 804 0% 8306 三菱UFJ 678 8% 1570 日経レバETF 602 0% 6526 ソシオネクスト 568 -19% 9984 ソフトバンクG 559 7% 5401 日本製鉄 416 8% 8316 三井住友 384 9% 6857 アドバンテスト 351 2% 8058 三菱商事 348 5% 1357 DインバETF 325 0%
夏枯れ炸裂、中小型株は株価と売買量が順相関
地球が灼熱化しているといわれているらしいですが、今年もやってきた猛暑。上がり続ける気温とは裏腹に、この時期下がり続けるのが売買ボリューム。夏場に売買が減ることを「夏枯れ相場」とはよく言いますが、今年も除草剤でもまいたのか?というくらいに枯れています。
6月に空前の盛り上がりを示した東証プライム市場でも、6月の1日当たり売買代金4.0兆円に対し、7月は3.5兆円と12%減少。7月は月後半にFOMC(米連邦公開市場委員会)、そして日本銀行会合を控えていたこと、日米で決算発表も出てくることから様子見気分をどんどん強めてきました。
ただ、その落ち込み度合いは東証グロース市場のほうが大きく…。東証グロース市場の1日当たり売買代金は6月の2,305億円に対し、7月は1,618億円と30%も減少。
行列をつくっている店、視聴率の高いドラマが好きな日本人の国民性。人が集まるところに新たな人が寄る群衆心理の働きやすい東証グロース市場にあって、人の減少が人を遠ざけ、日に日に閑散化が深刻さを増す、そんな状況でした。
7月IPOは10社、一握りの銘柄が刹那的に盛り上がる
7月4日上場の AeroEdge(7409) から、7月31日上場の Laboro.AI(5586) まで、7月IPO(新規公開株)は計12社ありました(そのうち10社が東証グロースに上場)。公開規模の小さい小粒なグロース株も多く、7月第1号IPOのAeroEdgeの初値は公開価格の3.5倍、7月7日上場 グリッド(5582) も同3.0倍と初値から高騰する銘柄もありました。
ただ、グロース市場の地合い自体が緩く、初値を付けた後(セカンダリー)のパフォーマンスはさえない銘柄がほとんど。徐々に初値を買う意欲が低下し、初値騰落率も低下していきました。公開規模が大きかったこともあり、7月28日上場のゲームセンター運営大手 GENDA(9166) は公開価格を7.5%下回る初値からスタート。
そのGENDAが、初値不人気を吹き飛ばすセカンダリーでの好パフォーマンスになったのは興味深い現象でした。IPO前から機関投資家評価が高かったとも観測されており、今後のセカンダリー参戦の糸口を見せてくれたのかもしれません。
グロース上場の既存銘柄の売買が激減する中、7月IPOにはデイトレマネーが活発。グロース市場全体の売買代金の30%以上を、7月IPOだけで占めるような日もありました。
東証グロース 売買活発度TOP10
コード 銘柄名 売買代金
5MA(億円) 時価総額
(億円) 5586 LABOROAI 147 192 5585 エコナビスタ 85 185 9166 GENDA 81 741 5253 カバー 73 1461 9552 M&A総研HD 68 2017 5574 ABEJA 39 487 6027 弁護士コム 32 1095 3911 AIMING 31 210 9522 リニューアブル 30 325 2160 ジーエヌアイ 27 639 ※データは8月4日終値時点、青の網掛けは7月IPO
8月の中小型!今月のキーワードは…「優良中小型株のサマーセールを狙え!」
売買代金の減少が夏枯れを、マザーズ指数の下落トレンドが地合い悪化を意識させる…そんな7月相場の雰囲気そのままに、8月相場に入っています。日米とも(理由は異なりますが)、金利に先高観が生まれ、それが「グロース株の逆風になるのでは?」という警戒感につながっています。
7月会合で日銀がイールドカーブ・コントロール(以下:YCC)の柔軟化運用を決め、国債を無制限に毎営業日買う「連続指値オペ」の利回りが1.0%(まで容認する)に切り上がりました。
日銀の政策正常化に向けた大きな一歩とまではいかなくとも、小さな一歩であることを感じさせた今回の決定。「日本の10年債利回りも近い将来1.0%を試すだろう」と誰もが意識する中、8月に入ってからもジワジワ金利水準は切り上がっています。

昨年12月会合で、YCC修正がサプライズで決まると、10年債利回りが0.5%水準に急伸。このとき、金利上昇をネガティブとしてグロース株全般が大きく値下がりしました。今回も、YCCアタックの動きを見極めようというムードから、グロース株は敬遠され、相対的にバリュー株にお金が流れているように感じます。
日銀の説明からは、政策転換を急いでいるようには感じられません。ただ、海外投資家も減る夏休みシーズンであることも重なり、機関投資家全般が買いを控えている印象を受けます。これは、政策修正の思惑が広がった7月時点から感じられたところでもありました。7月の東証グロース市場の主な3投資主体の売買動向を見るとよく分かります。
東証グロース市場の主要3主体の7月売買動向(差引)【単位:億円】
マザーズ指数
騰落率 個人 外国人 投信 7月第1週 -3.5% 428 -421 -18 7月第2週 -0.3% 101 -119 -2 7月第3週 -2.4% 135 -142 7 7月第4週 -0.2% 95 -147 15
7月は全ての週で下落したマザーズ指数ですが、主要3主体(個人、外国人、投信)の売買動向は「個人が買い/外国人が売り/投信は様子見」でした。日銀の政策次第で、中小型ファンドも運用戦略を変更しなくてはいけません。
下落トレンドの中で個人は必死の逆張り買いを続けても、ファンド勢が押し目買いをしてくれない状況となると、機関投資家が好みそうな優良中小型株の下値にクッションが無い特殊な需給環境が生まれます。
どういうことかといえば、優良中小型株の押し目を拾う機関投資家が不在とあっては、機関投資家的な切り口(業績が良いのに売られ過ぎなど)で銘柄を選んでも報われないということ。押し目を買うのも個人投資家に限られるため、当該株が地合い要因で値下がりすれば、簡単にロスカットに回る短期プレーヤーの需給要素で価格が決まってしまう側面が強くなります。
そうした要因で、機関投資家からも評価が高いとされていた中小型の有望株が大きく値下がりしているように思われます。ただ、有望株との呼び声が高かった直近IPOの シーユーシー(9158) の動きに希望の光を見ました。7月1日~7月26日まで17%も値下がりし、上場来安値を更新していた同社株ですが、7月26日に第1四半期決算を発表。
決算自体にサプライズは無かったものの、決算翌日から4連騰で26%も上昇しました。完全に「アク抜け」と呼ばれる現象で、売り込まれた有望株の逆張りは有効ではないか?というヒントを与えてくれたようにも見えます。
今回は、7月に売り込まれた有望株を逆張り目線でスクリーニング。静観していた機関投資家(中小型ファンドなど)の始動に期待し、機関投資家にも認知されていそうな銘柄を抜き出そうと考えました。
優良中小型株(スタンダード&マザーズ)の逆張り狙い
【条件】(1)時価総額300億円以上(2)7月に大幅値下がり(月間騰落率▲5%以下)(3)証券会社のアナリストが3社以上カバーしている(4)アナリストが強気推奨(2.0点満点で1.5点以上)
市場 コード 銘柄名 レーティング
(2.0点満点) 7月
騰落率 スタンダード 6890 フェローテック 2.0 -6% グロース 7388 FPパートナー 2.0 -8% スタンダード 7826 フルヤ金属 2.0 -7% グロース 7685 BUYSELL 2.0 -6% グロース 9204 スカイマーク 1.5 -5% スタンダード 4970 東洋合成 1.6 -17% グロース 4371 CCT 2.0 -5% グロース 4417 グローセキュ 1.5 -11% グロース 6521 オキサイド 1.7 -11% スタンダード 6918 アバール 2.0 -6% グロース 7373 アイドマHD 1.7 -18%
東証スタンダード、東証グロースに上場する銘柄の中で、(1)時価総額300億円以上、(2)7月の月間騰落率が▲5%以下、(3)証券会社のアナリストが3社以上カバーしている、(4)アナリストが強気推奨(2.0点満点で1.5点以上)となると、上述の11銘柄しか抽出されません。
夏枯れ炸裂の中、がっつり下がったこれら銘柄の中では、 東洋合成(4970) 、 CCT(4371) 、 アバール(6918) が8月10日、 フェローテック(6890) 、 BUYSELL(7685) 、 スカイマーク(9204) が8月14日に決算発表を予定しています。決算通過での壮大なアク抜け、リバウンドの動きに期待!
(岡村 友哉)