中東緊迫化で有事のドル買い、米景気指標堅調で6月の利下げ期待後退
先週は、10日に発表された米3月CPI(消費者物価指数)が前年同月比3.5%上昇と市場予想を上回りました。米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)による利下げ時期が後ずれするとの思惑が広がり、ドル買いが優勢となったため、外国為替相場のドル相場はあっさりと1ドル=152円を超えました。
警戒されていた日本政府による為替介入もなかったことから、ドル買いの勢いは続き、153円も突破しました。
在シリアのイラン大使館がイスラエルに空爆されたことを巡って、イランによるイスラエルへの報復攻撃が警戒されていましたが、イランが13日、イスラエルに無人機や弾道ミサイルで攻撃に踏み切りました。紛争拡大が懸念されますが、イランは「(報復の)目的は達成された」として攻撃の終了を示唆しました。
また、バイデン米大統領は13日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談し、イスラエルがイランに反撃することに反対する考えを伝え、米国はイランへの対抗措置に参加しないと述べています。
イスラエルが「報復の報復」に動かなければ、中東の紛争拡大は沈静化する可能性がありますが、イスラエル軍のトップであるハレビ参謀総長は15日、相応の措置を取る考えを示しました。
この中東情勢の緊張継続で、有事のドル買いが優勢となり、原油価格は上昇しました。
さらに、15日に発表された米3月小売売上高も前月比0.7%上昇と市場予想を上回ったことから一段のドル買いとなり、1ドル=154円台を付け、ドル高円安が進みました。その後も154円台で堅調な動きをしています。
今月発表された米国の雇用、物価、消費関連の統計が堅調なことから、6月の利下げ期待はかなり後退しました。FRB高官からも利下げ時期は慎重に判断すべきとの発言が相次いでいますが、これらの指標から確信を深めたのではないかと推測されます。
また、年内利下げが適切と語っていたFRBのパウエル議長も、16日、ワシントンでのカナダ中央銀行総裁との対談で、インフレ率が2%に向かって低下していると判断するまで、想定より時間がかかる可能性を示し、利下げ開始時期を遅らせることを示唆しました。
また「抑制的な金融政策が効果を発揮するまでさらに時間をかけることが適切」と述べ、現行の政策金利水準を当面維持することを示しました。パウエル議長の変心はドル高を後押ししましたが、この発言によって、4月30日~5月1日のFOMC(連邦公開市場委員会)でのサプライズはないかもしれません。
しかし、その前の4月26日に発表される物価指標PCEデフレーターが強めに出た場合は、もう一段のドル高になる可能性があるため留意する必要があります。
先行きの政策金利の織り込み度を示す米国CME(シカゴ先物取引所)のフェドウオッチ(Fed Watch)によると、米小売売上高発表後の6月の0.25%利下げ確率は15%程度に急低下しています。7月利下げだと38%、9月利下げで46%、11月利下げで42%、そして12月に再利下げ確率が高まり33%となっています。
3月のFOMC時点では年内3回の利下げ見通しでしたが、現時点では、7月から12月のタイミングで0.25%の利下げを計2回するとの見通しとなっています。
しかし、今後の指標によっては、この年内2回との見方が後退する可能性も想定した方がよさそうです。年内1回の利下げ、もしくは年内利下げなしとのシナリオが浮上してきました。
為替介入は1ドル=155円を超えてから?160円が新たな「防衛ライン」!?
中東リスクを意識したドル買いと利下げ時期後ろ倒しの思惑からドル高円安が続き、1ドル=155円に近づいています。為替介入への警戒感が一段と高まっており、155円が防衛ラインとの見方がありますが、155円が防衛ラインであるならば、介入するタイミングが遅すぎたかもしれません。
152円を超えたタイミングから介入を実施して、市場に次の介入が出るのではないかと疑心暗鬼にさせないとあっさりと155円を超える可能性があります。155円を超えてから介入を実施しても、オプション絡みの取引には155円が付くと一段の円安を起こしかねないものもあるといわれており、あまり意味があるとは思えません。
5円刻みの心理的節目である155円は重要なチャートポイントですが、さらに重要なポイントである1990年に付けた160円を当局は意識しているのかもしれません。このポイントが完全にブレイクされると、天井知らずの円安になる可能性があるからです。
つまり、1985年のプラザ合意によって、1988年には120円までドル安円高に傾き、その行き過ぎた反動から円安の動きとなり、1990年に160円まで戻りました。
従って、今回、160円を上抜くと260円まで重要な節目がないということになります。そのため、160円を絶対死守するために155円を超えてから本格的な介入を実施することは想定されます。
介入水準でなく、介入のタイミングも留意しておく必要があります。鈴木俊一財務相は、17日から米ワシントンで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に関し為替は議題になるかとの記者からの質問に、為替は議題として設定されていないが、「議題にならなくとも話題にはなる」と語っています。
2022年秋のドル売り・円買い介入は、9月22日、10月21、24日の3回行われましたが、合間の10月12~13日にG20会議が開催されました。このG20の後、10月の「大規模」、「連続」、「覆面」介入が実施されました。今回、ドル独歩高の様相も出始めているため、為替が話題になるかもしれません。
円安による物価上昇懸念広がれば、岸田政権に打撃、円安是正言及も?
もう一つ留意したいのは、今月28日投開票の衆議院3補欠選挙です。
内閣支持率が低水準であるところに、円安による物価の再上昇懸念が広がれば、さらに支持率が低下する可能性があります。不人気を回避するためにも現行の円安に言及する可能性があるかもしれません。
17日からのG20、28日までの衆院補選期間、そしてその間には、25~26日の日本銀行の金融政策決定会合(政策変更なしと思われますが、公表される展望リポート(経済・物価情勢の展望)の物価見通しが中東情勢緊迫化によって上方修正されるかもしれません。早期追加利上げの思惑から円高要因)、26日のFRBが注目する米3月PCEデフレーターの公表、4月30日~5月1日のFOMCと続きます。
ゴールデンウイーク期間中は流動性が薄くなり、値動きが荒くなりやすくなります。ゴールデンウイークを控え、財務省・日銀にとって円安に歯止めをかける正念場かもしれません。
(ハッサク)