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著者の吉田 哲が解説しています。
「 悪魔の果実ブームは金(ゴールド)相場上昇要因 」
ロブスタコーヒー価格急騰
以下の通り、コーヒーの品種の一つ、ロブスタ種の相場が過熱感を帯びています。およそ45年ぶりの高値水準です。2024年4月の水準は2022年4月の1.84倍、2020年4月の3.00倍です(世界銀行のデータより)。
図:ロブスタコーヒー相場 単位:ドル/キログラム
コーヒーの品種は大きく二つに分けられます。スターバックスや主要なコーヒーショップで用いられている、芳醇な香りが特徴のアラビカ種と、缶コーヒーやコーヒー飲料などで幅広く用いられている、酸味が特徴のロブスタ種です。
2020年以降、価格上昇が目立っているのはロブスタコーヒーだけではありません。アラビカコーヒー、カカオ、砂糖、オレンジジュースなどの価格も上昇しています。
こうした農産物の価格が高騰している背景には、複数の世界規模で起きている流れがあります。(1)ぜいたく品を求める人口が増加していること(需要増加)、(2)主要生産国で異常気象が頻発していること(供給減少)、(3)主要国の金融緩和が投資マネーを増やしたこと(変動幅拡大)、(4)フェアトレードが普及し始めたこと(価格下支え)、などです。
このような世界的な流れの中で、ロブスタコーヒーは2022年以降、突出した上昇を演じているのです。
中国でドリアンブーム発生
ドリアンは「フルーツの王様」と呼ばれています。東南アジアのマレー半島を原産地とするフルーツで、甘い果肉は「濃厚なカスタードクリーム」と評されます。栄養価が高いため、「滋養強壮のフルーツ」といわれることもあります。
図:中国のドリアン輸入額・シェア
中国は近年、ドリアンブームです。おいしさを求める中産階級の増加、健康促進、東南アジアの文化の拡大、インターネット通販の普及が同時進行していることが、その理由とされています。ピザやパフェのトッピング、鍋料理の具材などにも使われているようです。
2010年代初めから世界規模の「爆食」が始まり、インターネット通販でドリアンを購入できるようになった2018年ごろから、ブームに拍車がかかったと考えられます。
世界各国の貿易統計を集約するOEC(The Observatory of Economic Complexity)のデータから、中国のドリアンブームの軌跡を確認することができます。上の図の通り、2022年の同国のドリアンの輸入額(およそ38億ドル)は、2010年の22.6倍、2015年の4.1倍、2020年の1.7倍と増加傾向にあります。2022年の輸入シェア(金額ベース)はなんと92.7%です。
以下の図の通り、中国が輸入するドリアンのほとんどはタイ産です。2021年に開通した中国の昆明(雲南省)と南部で接するラオスのビエンチャンを結ぶ「中老鉄路(中国ラオス鉄道)」を利用することで、中国は各段にタイ産のドリアンを輸入しやすくなりました。
図:中国のドリアン輸入元(上位三カ国)と金額
こうした状況の中、中国は2022年にベトナムからの生鮮ドリアンの輸入を許可しました。また、2023年にフィリピンと「検疫要求議定書」に調印し、フィリピン産の生鮮ドリアンも中国市場に出回るようになりました(人民網より)。
コーヒーからドリアンに転作
複数の報道は、ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国としていますが、ロブスタに限って言えば世界1位です(USDAのデータより)。世界1位のロブスタ生産国であるベトナムは、中国の旺盛なドリアン需要が入り込んだことで、大きな変化にさらされています。
1990年ごろから続いたベトナムのロブスタコーヒー生産量の長期増加トレンドは、2021年にいったん、終わったと考えられます。2021年比に比べると、2022年、2023年ともに、10%以上、減少しました。
図:ロブスタコーヒーの生産量(上位3カ国) 単位:1000袋(1袋=60キログラム)
同国で、ロブスタからドリアンへの転作が進んでいると報じられています。一部の報道は同国のロブスタの生産量が2021年をピークに減少した原因を異常気象としていますが、中国が同国産の生鮮ドリアンの輸入を許可したのが2022年だったことを考えると、ドリアンへの転作進展が、生産量のピークアウトの一因になった可能性が浮上します。
図:ベトナムのコーヒー収穫面積(前年比)
上の図の通り、2022年のベトナムのコーヒーの収穫面積の伸び(前年比)は、2007年以降で最低になりました。2022年は、中国がベトナム産の生鮮ドリアンの輸入を許可したタイミングです。生産量の減少と収穫面積の伸び鈍化は、同国でコーヒーからドリアンへの転作が進んだことを示唆しているといえます。
一部では、ベトナムでドリアンを作って得られる収益は、コーヒーを作って得られる収益の2倍ともいわれています。冒頭で述べた通り、足元の価格が2022年比で1.8倍以上になっているのは、世界ナンバーワンのロブスタ生産国であるベトナムが、中国のドリアンブームによって岐路に立たされていることを、反映していると考えられます。
爆食の影響は西側諸国に
世界輸入シェア92%超(2022年)という異常なまでの中国のドリアン爆食は、ベトナムのロブスタコーヒーの生産量を減少させた可能性が高いといえます。ではその影響はどこに出るのでしょうか。
すでに、ロブスタ価格の上昇は、私たち市民が口にするコーヒーの小売価格(コンビニ、ファミリーレストラン、喫茶店などの価格)を押し上げたり、コーヒーの流通に関わる業者の懐事情を悪化させたりしています。以下の通り、2023年の日本のカフェ(喫茶店)の倒産件数は、コロナ禍で人流が急減した2020年の68件を大きく上回る72件となり、過去最高になりました。
図:日本のカフェ(喫茶店)の倒産件数 単位:件
さらに今後は、価格上昇のほか、西側諸国でロブスタの需給がひっ迫する懸念が高まっています。ベトナム産のロブスタコーヒーの多くは、EU(欧州連合)、米国、日本などの西側諸国向けです。2022年、ベトナムは80を超える国にコーヒーを輸出しましたが、その80%弱はEU、米国、日本などの西側諸国に仕向けられました(FAOのデータより)。
中国のドリアン爆食は、世界のコーヒー価格を上昇させ、西側諸国のコーヒー小売価格を引き上げた上で、今後は品不足を引き起こそうとしているのです。
図:ベトナムのコーヒー輸出先(数量ベース 2022年)
ぜいたく品を奪われる西側
足元の状況は、中国がドリアンを使って西側諸国からコーヒーを奪おうとしているように見えなくありません。中国でドリアンブームが起きていなければ、ロブスタ価格がここまでの高騰劇を演じたり、それによって西側の国々のコーヒー事情に悪影響が生じたりすることはなかったのではないか…そう考えてしまいます。
膨大な需要を掘り起こすことができるのが、中国の強みです。経済が成熟し、飽和状態に至った西側先進国にはない、大変に大きな強みです。それを利用すれば間接的に、西側からコーヒーのようなぜいたく品を奪えることが、足元のドリアンブームが示唆していると筆者はみています。
ベトナムでドリアンへの転作が進んだ背景には、少なからず輸出先が中国だったことが影響していると考えられます。中国の影響が強く及んでいる資源国は、農産物に限らず、金属やエネルギーなど、多数あります。
西側諸国の「市民の心」に影響を及ぼすのであれば、市民が口にするぜいたく品を奪うことが有効でしょう。コーヒー、その次は砂糖でしょうか、カカオか、紅茶か、スパイスか、バナナやアボカドなども候補になるかもしれません。
食を脅かされることに不安を感じない市民はほとんどいないでしょう。非西側にぜいたく品を奪われる恐怖(屈辱も)は、西側社会に漠然とした不安をもたらすでしょう。こうした不安は、筆者が掲げる金(ゴールド)市場をとりまく七つのテーマの最後にあたる、超長期視点のテーマ「見えないリスク」を強める要因になり得ます。
図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年 筆者イメージ)
非西側の大国である中国は、次はどんな需要を喚起し、何を西側から奪おうとするのでしょうか。中国の食におけるブームがどの品目で起きているのか、その品目を代替できる国がどこかなどに、今後、超長期視点で注視していく必要がありそうです。
[参考]積み立てができる貴金属関連の投資商品例
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)
関連ETF(上場投資信託)(NISA成長投資枠対応。かぶツミを利用することで積み立てが可能)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
(吉田 哲)