「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第58回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日のクイズ
今日は、金(ゴールド)・プラチナ投資に関するクイズを出します。
<クイズ>以下に、金とプラチナの小売価格(12月3日時点)が出ています。金の小売価格は、【1】【2】のうち、どちらでしょう?
【1】(1グラム当たり)5,127円
【2】(1グラム当たり)1万4,065円
金への投資は、資産形成に必要か?
正解をお知らせする前に、最近、金投資について皆さまからいただいた質問に、回答します。「金投資は資産形成に必要か」という質問をいただきました。
資産形成の一環として、金(ゴールド)を持つのも良いと思います。ただし、「必ず投資しなければならない」というわけではありません。日本株、外国株、外国債券、国内債券などに分散投資するオーソドックスなアセットアロケーション(資産配分)を組めば、金が入っていなくても、十分に良い資産形成ができると思います。
お好み次第で、金への投資を含めるか含めないか、決めて良いと思います。後段で、金価格が動く要因について解説しますので、それを読みながら、ご自分でお考えください。
長期的な投資成果のほとんどは、アセット・アロケーション(資産配分)によって決まります。国内株式、外国株式、外国債券、国内債券などの資産に、保有する貯蓄を何パーセントずつ配分するかによって決まります。
個人個人によって、リスク許容度が異なるので、どういうアセット・アロケーションが良いか一概には言えませんが、参考になるのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用方針です。GPIFは、日本最大、かつ世界でも最大の公的年金で、運用資産254兆7,027億円を保有します(2024年6月末時点)。
そのGPIFの現在の基本ポートフォリオは、以下の通りです。
<GPIF運用の基本ポートフォリオ(2024年9月時点)>

GPIFは、過去約23年で合計162.8兆円もの運用益を獲得しています。とは言っても、決して特殊な運用をやったわけではありません。ごく当たり前の長期・国際分散投資をやることでリターンを稼いできました。私たちも参考とすることができます。
長期投資を考える上で、株式への投資は必須です。それに加えて2~3%、金(ゴールド)やプラチナを入れておくのも悪くはないと思います。
正解は…
正解は【2】です。
1グラム当たりの小売価格は12月3日時点、プラチナが【1】5,127円、金(ゴールド)が【2】1万4,065円です。金(ゴールド)の方が、プラチナより2.7倍も高い価格です。
ところで、プラチナ会員・ゴールド会員といったら、どちらが格上でしょう。通常は、プラチナ会員の方が格上です。なぜならば、長年にわたり、プラチナ価格はゴールド価格を上回って推移してきたからです。ところが、その常識が今、通用しなくなってきています。
<プラチナ・ゴールドNY先物価格(期近、月次推移):1988年1月~2024年12月(2日まで)>

上のチャートは、プラチナとゴールドの1986年以降の価格推移を示しています。1トロイオンス(約31グラム)当たりのドル建て先物価格(期近)で示されています。これを見ると分かる通り、プラチナ価格が長期低迷する中、ゴールド価格が大きく上昇しています。
中央銀行への不信感が、代替通貨としてのゴールドの価値を高めてきた
ゴールド価格(ドル建て)は、過去20年で6倍以上に上昇しています。まず、その要因を説明しましょう。さまざまな要因が影響していますが、一番重要な要因をひとことで言うと、以下の通りです。
ゴールドは、「中央銀行が発行する法定通貨の信頼低下に伴って、代替通貨として値上がりしてきた」とまとめられます。
ゴールドには、そもそも三つの利用価値があります。
【1】代替通貨としての価値
【2】宝飾品としての価値
【3】産業用途としての価値
ゴールド固有の最も重要な価値は、【1】代替通貨としての価値です。次に重要なのが、【2】宝飾品としての価値です。【3】産業用途(歯科材料など)としての価値もありますが、限定的です。
2008年のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行は、こぞって大規模な金融緩和を行いました。通貨発行量をどんどん拡大する「量的緩和」を実施しました。中央銀行がお金を刷りまくって空からばらまけば景気が良くなるという「ヘリコプターマネー」理論を唱える学者まで現れる始末です。
2020年にコロナショックが起こると、日米欧主要国は「何でもあり」の経済対策を始めました。各国の中央銀行が未曽有の金融緩和を進める中、大型の財政出動が行われました。コロナ対策として、事実上のヘリコプターマネーが実現しました。
政府および中央銀行が、このように通貨の信用を下げる行動を強めた結果、マネー市場では中央銀行が発行する通貨を持つインセンティブが低下しました。設備投資需要が限られる中、行き場のないマネーが市場にあふれました。そうした中で、代替通貨を探す動きが強まっています。
代替通貨を求めるマネーの一部は、暗号資産(仮想通貨)であるビットコインに向かいました。そこで、ビットコインの急騰が起こりました。ただ、ビットコインは、短期的な価格変動があまりに大きいため、通貨として決済手段に使われることはほとんど無くなってしまいました。
代替通貨を探すマネーの大部分は、通貨の元祖、ゴールドに向かいました。ゴールドの見直しについて最も象徴的な動きは、各国の中央銀行が、外貨準備の一環として、ゴールドを買い始めたことです。1990年代以降、各国の中央銀行は、金利を生まないゴールドの保有をやめ、売却しました。ところが、今、逆にゴールドを買い増しするようになってきています。
ゴールドを代替通貨と言っていますが、貨幣の流通が始まったばかりの古代から近世において、ゴールドは代替通貨ではなく、通貨そのものでした。金貨は、最も信用のある通貨でした。興亡を繰り返す不安定な国家や政府が発行する通貨よりも、はるかに高い信用がありました。
貨幣経済が急拡大した近現代に至っても、通貨発行主体に信用がない間は、金に交換できる通貨、兌換(だかん)紙幣だけが信頼を得ていました。ただし、兌換紙幣だけに頼っていると、金の流通量に通貨の発行量が制約されます。
それでは、世界的に急拡大する貨幣経済に、通貨の発行が追いつかなくなります。そこで、金と交換されない不換紙幣が発行されるようになり、その発行がどんどん拡大していきました。
世界の中央銀行の信用が高まった現代、通貨に金の裏づけは必要なくなりました。今や、中央銀行が紙幣を刷りまくって金利をゼロにしても、世界中の人が何の疑いもなく、中央銀行の発行する通貨を信用し、喜んで受け取るようになりました。
ゴールドを上昇させているのは、こうした中央銀行の行動への疑念だと思います。中央銀行が、自ら発行する通貨や、中央銀行そのものの信用を低下させる政策を採り続ける限り、今後もゴールドが代替通貨として買われる流れは変わらないと思います。
フォルクスワーゲンショックから低迷が続くプラチナ
プラチナの価値も、ゴールドと同様に三つあります。
【1】代替通貨としての価値
【2】宝飾品としての価値
【3】産業用途としての価値
ゴールドとの大きな違いは、プラチナは通貨として使われてきた歴史がなく、【1】代替通貨としての価値に買い需要がないと考えられることです。外貨準備の一環として、各国の中央銀行が大量に保有するということもありません。この違いが、近年の値動きの差に表れています。
一方、プラチナは、【2】宝飾品としての価値、【3】産業用途としての価値に需要はあります。産業用途では、ディーゼル車やガソリン車の排ガス浄化装置向けの需要が大きいが、近年、ディーゼル車向けの需要が伸びないこと、パラジウムなどの代替金属が、プラチナ需要の伸び悩みにつながっています。
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