米国トランプ大統領の先の読めない関税政策で、今週の株式市場も乱高下が続きそうです。


 先週、2月1日(土)にカナダ、メキシコからの輸入品に25%の追加関税をかける大統領令に署名したトランプ大統領でしたが、3日(月)には関税発動の1カ月延期をたった2日で表明。


 しかし、中国に対する10%の追加関税が4日(火)から発動されたこともあり、中国が最大の貿易相手国である日本株は上値の重い展開となりました。


 日経平均株価(225種)はトランプ関税が発動された直後の3日(月)に前日比1,052円(2.7%)急落。


 その後は好決算株の頑張りもありましたが、週間でも前週末比785円(2.0%)安の3万8,787円まで下落しました。


 また、6日(木)に長野県で講演した日本銀行の田村直樹審議委員が「2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが必要だ」と発言。


 7日(金)の為替市場で1ドル=150円90銭台(ニューヨーク市場終値は151円40銭台)まで円高が進んだことも日本株の足を引っ張りました。


 米国株は巨大IT企業の決算が予想に届かなかったものの、引き続き旺盛なAI(人工知能)関連の設備投資計画が発表されたことで、米国高速半導体メーカーの エヌビディア(NVDA) をはじめAI関連株が復調。


 機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は、前週末比0.24%安と小幅安で終わりました。


 8日(土)には訪米した石破茂首相がトランプ大統領と日米首脳会談を行いました。


 トランプ大統領は 日本製鉄(5401) による米国の USスチール(X) 買収計画について「買収ではなく投資として同意」すると話し、米国産LNG(液化天然ガス)を日本に輸出することで1,000億ドル(約15.1兆円)を超える対日貿易赤字を解消する意向を示しました。


 同盟国に対してさえも過激な罵詈(ばり)雑言を浴びせることが多いトランプ大統領が「日本は素晴らしい国だ」と称賛したことで、外国人投資家も安心して出遅れ日本株に新規投資できるでしょう。


 中でも会談で言及のあった日本製鉄(5401)や米国に多額の投資を行っている トヨタ自動車(7203) など自動車株、建機株、インフラ関連株などに見直し買いが入るかもしれません。


 しかし、7日(金)発表の米国1月雇用統計で失業率が完全雇用に近い4.0%まで低下し、長期金利の指標となる米国10年国債の利回りが一時4.5%台に達するなど金利が再上昇。


 貿易相手国が高関税を課している製品に対して、米国も同率の高関税を課す「相互関税」を導入するとトランプ大統領が表明したこともあり、7日夜の米国株は急落しました。


 これを受けて今週の日本株も下落基調で始まりそうです。


 今週は米国の1月の物価指標が相次いで発表されます。


 すでに1月段階でトランプ関税発動という先を見越した物価上昇が確認されると、株価の動きは非常にネガティブとなるでしょう。


 日本では2024年10-12月期の決算発表がピークを迎えます。


 10日(月)には フジクラ(5803) 、12日(水)には 古河電気工業(5801) といったAIデータセンター向け特需にわく光ファイバー株が決算を発表します。


 フジクラは2024年に株価が6倍高、古河電気工業は3倍高しているだけに注目です。


 生成AIソフト「ChatGPT」を開発した米国OpenAI社に最大で250億ドル(約3.8兆円)を出資し、日本でも共同で生成AIの新会社設立を表明した ソフトバンクグループ(9984) も12日に決算発表を予定しています。


 週明け10日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比14.15円高の3万8,801円 でした。


先週:巨額AI投資継続でエヌビディアは「DeepSeekショック」克服。日本株は好決算ゲーム株が健闘!

 先週は米国トランプ大統領の関税に関する発言に振り回された1週間でした。


 米国では、トランプ大統領が生み出す「カオス(混乱)」の分だけ金融市場にリスクが上乗せされる「カオス・プレミアム(割増金)」という言葉も聞かれるほどです。


 先週は米国の巨大IT企業の決算発表も全体相場に影響を与えました。


 グーグルの親会社 アルファベット(GOOG) が4日(火)に発表した2024年10-12月期決算は純利益が前年同期比28%増となる増収増益だったものの売上高が予想に届かず、株価は前週末比9.16%も急落。


 6日(木)に今期2025年1-3月期の純利益が予想に届かない見通しを示した アマゾン・ドット・コム(AMZN) も3.59%安でした。


 ただグーグル、アマゾンがともに巨額のAI向け投資計画の継続を発表したことで、その恩恵を一手に受ける米国高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)は8.14%高と上昇しました。


 先々週は低コストで高性能な生成AIシステムを開発した中国の新興企業「DeepSeek(ディープシーク)」の登場をきっかけにエヌビディア株は16.0%も暴落。


 エヌビディアをはじめAIインフラ株が激しく売られる「DeepSeekショック」に見舞われましたが、たった1週間でほぼ半値戻しに成功しました。


 一方、日本では12月中旬に経営統合に向けた協議を行うと発表していた ホンダ(7267) と 日産自動車(7201) が6日(木)に経営統合の交渉打ち切りを発表しました。


 ホンダが提案した日産子会社化案を日産が拒否したことが理由のようです。


 代わって台湾の鴻海精密工業による買収に期待が集まったこともあり、日産自動車(7201)の株価は前週末比4.2%上昇しました。


 反対に、経営統合協議の過程で買われてきたホンダ(7267)は、投機的な資金の流出もあって2.8%安でした。


 また、先週は2024年10-12月期決算が本格化し、その良しあしで株価が急騰・急落する銘柄が目立ちました。


 1月31日(金)に今期2025年3月期の通期業績と配当予想を大幅上方修正した コナミグループ(9766) が前週末比28.8%も上昇。


 同じく今期の過去最高益予想をさらに上方修正し、配当予想を大幅増額した バンダイナムコホールディングス(7832) も22.3%高。


 トランプ関税の影響を受けにくいとされるゲーム・エンターテインメント関連の好業績株が健闘しました。


 そのほか、電気機器大手の パナソニックホールディングス(6752) は2024年4-12月期の純利益が前年同期比27%強の減益となったものの、成長性の低いテレビ事業などの切り離しも視野に入れた経営改革を発表して11.1%高。


 半導体向け樹脂封止装置が主力の TOWA(6315) はスマートフォン向け需要の低迷で今期2025年3月期の業績予想を下方修正して15.4%安。


 景気が低迷する中国向けの販売比率が高く、トランプ関税による業績悪化懸念もある機械セクターや精密機器セクターが週間の業種別騰落率でも大きなマイナスになりました。


 決算発表シーズンは業績がいいと株が買われ、悪いと売られるのが基本的な値動きです。


 しかし、好業績でも好材料出尽くしで売られたり、業績が多少悪くても経営改革期待で買われたりする株もあり、決算発表の時期は投資家が「今後どんな業種や材料に期待感を寄せているか」を知るいい機会です。


今週:日本企業の決算発表は佳境へ、米国は物価指標発表控えトランプ共和党議会とFRBパウエル議長の対立で乱高下も!?

 今週は日本企業の2024年10-12月期決算発表が最終盤を迎えるため、先週に引き続き、決算結果に応じた個別株の急騰・急落劇が続きそうです。


 13日(木)には経営統合の交渉が決裂したホンダ(7267)と日産自動車(7201)がそろって決算発表。


 両社の決算が明暗を分ける可能性も高く、株価がどんな反応をするかに注目です。


 13日にはトランプ関税の影響を受けにくいエンターテインメント関連の主力株 ソニーグループ(6758) も決算を発表します。


 また、米国では12日(水)に1月CPI(消費者物価指数)、13日(木)に1月PPI(卸売物価指数)、14日(金)に1月小売売上高といった物価・景気指標が発表されます。


 特に注目される1月CPIは前回12月と同じ前年同期比2.9%増の予想です。


 1月CPIが予想以上の伸びになると、米国の物価高再燃懸念で株価が急落するおそれもあるでしょう。


 11日(火)、12日(水)には、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が米国議会上院・下院で半期に一度の議会証言を行います。


 トランプ政権になって初の議会証言ということもあり、トランプ大統領の高関税政策を警戒して追加利下げを急がない方針を示しているパウエルFRB議長は、共和党が多数を占める議会両院から厳しい追及を受けそうです。


 トランプ政権や共和党議会のFRBに対する政治的介入姿勢があまりに露骨なものだと、米国の長期金利の上昇や株価の下落につながるかもしれません。


 トランプ大統領は今週、相手国が高関税をかけている米国製品に対して、米国も同等の高関税を課す「相互関税」を導入する予定です。とりわけ自動車を対象にした関税を検討していると表明しており、日本の自動車株も逆風にさらされそうです。


 相互関税についてはまだ先が読めない状況ですが、今週詳細が明らかになって以降もトランプ関税に対する警戒感が続きそうです。


(トウシル編集チーム)

編集部おすすめ