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著者の吉田 哲が解説しています。

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「 金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢 」


金(ゴールド)相場、高値更新続く

 国内外の金(ゴールド)相場が、歴史的高値圏で推移しています。海外は1トロイオンスあたり3,000ドル近辺。国内は1グラム当たり1万6,000円近辺です。海外の金(ゴールド)相場が5,000ドルに達する可能性がある旨の報道も出ています。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年~)


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータをもとに筆者作成

 以前の「有事製造機が金(ゴールド)高値更新を後押し」で述べたとおり、1970年代後半は「有事の金買い」だけで、1980年代から1990年代は「株と金の逆相関」だけで、ほぼ、値動きを説明することができました。


 では、2010年ごろを起点とした長期視点の急騰劇は、どのように説明できるのでしょうか。筆者は、たった一つのテーマだけで、十数年間におよぶ長期の、そして価格が10倍前後に達する急騰劇は起き得ない、と考えています。年々、社会が複雑化していることを考えれば、なおさらです。


 筆者が提唱する金(ゴールド)に関わる七つのテーマに基づけば、2010年ごろ以降の急騰劇は以下のように説明できます。この急騰劇は、短中期の上昇圧力「第一の矢」、中長期の上昇圧力「第二の矢」、超長期の上昇圧力「第三の矢」で支えられている、と表現できます。本レポートでは、それぞれの矢の状況を確認し、今後の相場動向を展望します。


図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年2月時点)


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:筆者作成

第一の矢:有事+株・ドルとの逆相関

「第一の矢」は、足元の歴史的高値更新を支える直接的な上昇圧力です。短期的な上昇トレンドを支える要因と、言い換えられます。


 以下の図のとおり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ方針によるドル安観測がきっかけで、代替通貨(ドルとの逆相関)起因の上昇圧力が生じています(図内A)。これに加え、トランプ政権2期目(トランプ2.0)が始動し、さまざまな不安が大きくなっていることがきっかけで、有事ムード(資金の逃避先需要)起因の上昇圧力が生じています(図内B)。


図:FRBの利上げ・利下げが及ぼす金(ゴールド)相場への影響


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:筆者作成

 一方、トランプ2.0始動後、局所的な景気回復ムードが米国の株価指数を歴史的な水準で高止まりさせていることがきっかけで、代替資産(株との逆相関)起因の下落圧力が生じています(図内C)。


 足元は上昇圧力(A+B)と下落圧力(C)が交錯しながら、やや上昇圧力が勝っている状態、といえます。短中期視点で、株高でも金(ゴールド)高が起きているのはこのためです。


 今後の展開については、トランプ2.0が始まったことで、世界に多種多様な不安が拡大する可能性があり、有事ムード起因の上昇圧力(図内B)が強まる可能性があります。また、以下の図のとおり、市場ではFRBの「利下げ」の方針が予想されていることから、代替通貨起因の上昇圧力(図内A)も継続する可能性があります。


図:FFレートと海外金(ゴールド)現物価格の推移


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:FEDおよびLBMAのデータ、Fed Watch Toolの資料をもとに筆者作成

 トランプ政権が振りまく局所的な強い期待と、利下げ方針がもたらす景気回復期待が相成り、代替資産起因の下落圧力(図内C)が目立つ可能性がありますが、この下落圧力は引き続き、上昇圧力(A+B)に相殺される可能性があります。「第一の矢」は今後も、細かい上下をもたらしながらも、金(ゴールド)相場を短中期的に支えると考えられます。


第二の矢:中央銀行の買い越し長期化

「第二の矢」は、中長期的な上昇トレンドを支える上昇圧力です。十数年間におよぶ長期の上昇トレンドを支える重要な要素です。先ほどの図「金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ」で示したとおり、「中国インド等の宝飾需要」「中央銀行」「鉱山会社」の三つがそれにあたります。


 このうち最も影響力が大きいテーマは「中央銀行」です。

中央銀行は、その国の物価と雇用の最適化を実現すべく、通貨の流通量や金利水準を調節する公的な機関です。同時に、対外的に何かあった時の備えとして保有する外貨準備高の積み上げ・取り崩しも行っています。多くの中央銀行は、金(ゴールド)を外貨準備高の一部に組み込んでいます。


 以下は、中央銀行全体の金(ゴールド)の買い越し量です。購入が売却よりも多い状態が買い越し、売却が購入よりも多い状態が売り越しです。近年は買い越しの規模が大きく、金(ゴールド)の全需要のおよそ二割を占めています。


図:中央銀行全体の金(ゴールド)買い越し量(1950~2024年) 単位:トン


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

 金(ゴールド)相場の十数年間にわたる上昇トレンドがはじまった2010年ごろ、大きく買い越しに転じました。リーマン・ショック直後にはじまった、主要国の中央銀行による大規模な金融緩和が本格化したタイミングです。また、2020年の新型コロナウイルス感染拡大時に大規模な金融緩和が行われたタイミングでも、買い越し量が大きく増加しました。


 中央銀行が金(ゴールド)をどのような意図で保有しているかについて、世界的な金(ゴールド)の調査機関である、ワールド・ゴールド・カウンシルが実施している中央銀行向けのアンケート結果からヒントを得ることができます。


 中央銀行が金(ゴールド)を保有する際の意思決定に関連するトピックは何ですか?という質問では、「長期的な価値保全/インフレヘッジ」「危機時のパフォーマンス」「効果的なポートフォリオの分散化」「デフォルトリスクなし」「歴史的地位」「流動性の高い資産」などが多く選択されました。


 2010年ごろ以降、主要国の中央銀行は、世界経済の不安定化に対応すべく、断続的に通貨の流通量を増加させ、金融緩和を進めました。

これにより、世界全体の通貨の流通量は膨大に膨れ上がり、法定通貨の価値が薄まる懸念が生じました。


図:金(ゴールド)保有時の意思決定に関連するトピックは何ですか?(2024年)(複数回答可)


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

 先進国、新興国を問わず、中央銀行はこうした世界規模の法定通貨の価値希薄化懸念を感じ取り、金(ゴールド)をその処方箋の一つとしたと考えられます。現在も、主要国(特に米国)の通貨の流通量は、記録的な水準で高止まりしたままです。膨張した通貨の流通量がもとの水準に戻るまでに、相当の時間を要します。


 このことは、中央銀行の金(ゴールド)を保有する動機が長期視点で継続すること、「第二の矢」がもたらす金(ゴールド)相場への上昇圧力が継続することを示唆しています。


第三の矢:「見えないジレンマ」浸透中

「第三の矢」は、超長期的な上昇トレンドを支える上昇圧力です。十数年間におよぶ長期の上昇トレンドの、土台を担う要素です。先ほどの図「金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ」で示したとおり、「見えないジレンマ」がそれにあたります。


 ここで言う「見えないジレンマ」とは、人類が良かれと思って生み出したものの、知らず知らずのうちにマイナスの要素を含むようになった事象です。ESG(環境・社会・企業統治)とSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)がそれに当たります。


 ESGは、西側の主要国が提唱した投資先を選別する際の考え方です。リーマン・ショックで負ったダメージを回復させることに大きな貢献をしました。しかし、行き過ぎた環境配慮や行き過ぎた人権配慮という「ESGの武器利用」が横行し、責め立てた一部の西側主要国と責め立てられた一部の非西側諸国との間に、大きな溝が生まれてしまいました。


 良かれと思って世に出たESGが、知らず知らずのうちに、世界分裂に加担する、マイナスの要素を含むようになっていました(もちろん、プラスの面もある)。


図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:筆者作成

 また、SNSが世界的に普及したことで、世の中から建設的な議論が後退する懸念が生じるようになりました。SNSでは、誰でもいつでもどこでも、簡単に感情を噴出させることができます。そして、ニセ情報が拡散され、社会が混乱する場合もあります。


 しばしばSNSは、「数」が勝敗を分ける選挙のためのツールになることもあります。候補者は支持を集めたいがあまり、大げさな情報を発信し、それにより人々が意図せず扇動されるケースがあります。


 情報技術のさらなる発展を願う人々の思いを実現すべく、良かれと思って世に出たSNSが、知らず知らずのうちに、世界の民主主義を脅かし、世界分裂に加担するマイナスの要素を含むようになっていました(もちろん、プラスの面もある)。


 こうした流れは、2010年ごろに発生し、現在に至るまで、世界分裂を加速させる一因として存在し続けています(トランプ政権はこの流れに拍車をかけている)。もともと良かれと思って始まったこと、目に見えにくいこと、プラスの要素も含まれていることなどが原因で、認識されにくいものの、実際にはしっかりとこの流れは存在します。


 この「見えないジレンマ」は、今後も複数の文脈で、金(ゴールド)相場に超長期視点の上昇圧力をかけ続けると、考えられます。


相場予想を大きく上回る可能性あり

「三本の矢」は、複数の人間が力を合わせることで、大きな力が生じることのたとえで、経済政策を推進する際の説明にも使われた言葉です。


図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年2月時点)


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:筆者作成

 ここまで述べてきたとおり、第一の矢(短中期の上昇圧力、有事+株・ドルとの逆相関)、第二の矢(中長期の上昇圧力、中央銀行の買い越し長期化)、第三の矢(超長期の上昇圧力、見えないジレンマ浸透中)はいずれも、今後も金(ゴールド)相場を支え続ける可能性があります。


 最近のトピックは、(1)米国と欧州の関係が悪化する懸念が生じている(SNS規制などで)、(2)ウクライナという当事国が不在の状態で同国を取り巻く情勢が議論され始めている(米国とロシアが議論を進めている)、(3)中央銀行全体の2024年の金(ゴールド)の買い越し量が史上三番目の高水準だったことが明らかになった、などです。


(1)(2)は第一の矢をさらに強める要因、(3)は第二の矢が引き続き強い状態であることを裏付ける要因だといえます。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(2015年1月5日を100として指数化)


金(ゴールド)相場をガッチリ支える三本の矢
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータをもとに筆者作成

 昨年末に明示した2025年の予想のメインシナリオは、海外が3,000ドル、国内小売りが1万6,000円でした。今後、国内外の金(ゴールド)相場が、これらの予想を大きく上回っても、なんらおかしくはありません。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入


投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:

関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:

商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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