今日は、「日本株・米国株に積み立て投資を始めたものの不安」という読者の声があることに対して、私の考え方をお伝えします。これから投資を始める初心者の方に、ぜひ知っておいていただきたいことです。


荒れる日経平均、S&P500

 日本株・米国株とも急落・急騰を繰り返しています。日経平均株価あるいはS&P500種指数(米国を代表する株価指数)に連動することを目指して運用しているインデックスファンドやETF(上場投資信託)に積み立て投資をしている方には、落ち着かない日々が続いていると思います。


 私は、米国株は成長株として、日本株は割安株として投資価値が高く、米国株・日本株ともダブル積み立てを続けていくことが中長期の資産形成に寄与すると考えています。


 以下、アベノミクスがスタートした2013年以降のS&P500と日経平均の値動きを比較したグラフをご覧ください。


<日経平均と米国S&P500株価指数の動き比較:2012年末~2025年2月25日>
荒れ馬「日経平均・S&P500」を乗りこなす「積み立て投資術」、「ドルコスト平均法」が効く(窪田真之)
出所:2012年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 アベノミクスがスタートした2012年末からの12年間で日経平均は3.7倍、S&P500は4倍となっており、どちらも大幅な上昇です。その間に受け取った配当金も含めると、さらに大きいリターンが得られています。


 ただし、日経平均もS&P500も、一本調子で上昇が続いてきたわけではありません。何回も急落・急騰を繰り返しながら、上昇してきました。2015年後半、2018年後半、2020年初め、2022年前半にはかなり大きな下落を経験しています。


 急落局面で、高値から安値までのドローダウン(下落率)は何パーセントくらいでしょうか。日経平均で、それが分かるようにグラフに書き込んだのが、以下です。


<日経平均の動き:2012年末~2025年2月25日>
荒れ馬「日経平均・S&P500」を乗りこなす「積み立て投資術」、「ドルコスト平均法」が効く(窪田真之)
出所:2012年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 過去12年のうちに、10%から30%くらいのドローダウンが11回ありました。平均すると年に1回くらい、そういう急落が起こっています。


 景気後退をともなう急落では、高値から安値までの下落率が30%程度に拡大します。2020年のコロナ・ショックでは、日経平均の下落率はマイナス31%となりました。2015年後半から2016年前半にかけての日経平均下落もマイナス28%で、30%近い下げです。


 この時は景気後退ぎりぎりまで景気が悪化してから持ち直した時です。定義次第では「短期景気後退」があったと言ってもいい局面でした。


 景気後退を伴わないショック安も、たくさん起こっています。2013年5月は日本も世界も景気回復局面でしたが、日経平均は一時的にマイナス21%の急落がありました。「バーナンキ・ショック」といわれる世界的な株安に巻き込まれたためです。


 当時、FRB(米連邦準備制度理事会)議長だったバーナンキ氏が「将来、米国の金融緩和縮小が必要になる」と発言したことで、世界的な株安が起こったために、「バーナンキ・ショック」と呼ばれました。


 このように後から振り返ると、過剰反応と思われるような急落も多々あります。冷静になって後から振り返ると「そんなに大きく下げる必要はなかったのに」と思われることが多いが、暴落の渦中にいる時はわかりません。「いよいよバブル崩壊」と言うストラテジストも出てくるので、不安が広がります。


 教訓として、短期的な株価変動に惑わされて右往左往することなく、長期的に淡々と積み立て投資を続けていくことが、長期の資産形成に寄与します。


荒れれば荒れるほど、投資成果が高まる「積み立て」投資

 これからも、「荒れ馬」日経平均は、急落・急騰を繰り返すと予想されます。このような資産を、うまく乗りこなすには、どうしたら良いでしょうか? 私は、毎月一定額(例えば、1万円)、積み立てで投資していくのが、良いと思います。


 なぜならば、乱高下が激しい資産ほど、「ドルコスト平均法」といわれる積み立て投資の威力が発揮されるからです。それを簡単な例で見てみましょう。


 値動きのない投信Aと、激しく乱高下する投信Bに、3年間積み立て投資した場合の投資成果をシミュレーションしました。両方とも、投資開始時と3年後の基準価額が同じとして、比較しています。


<値動きのない投信Aと、激しく乱高下する投信Bの基準価額推移>
荒れ馬「日経平均・S&P500」を乗りこなす「積み立て投資術」、「ドルコスト平均法」が効く(窪田真之)
出所:筆者作成

 それでは、投信A・Bに【1】スタート時、【2】1年後、【3】2年後にそれぞれ1万円ずつ投資した場合、3年後に、投資価値がどう変化したか、計算してみましょう。


<投資開始時点、1年後、2年後に1万円ずつ投資した場合の取得できる投資単位>
荒れ馬「日経平均・S&P500」を乗りこなす「積み立て投資術」、「ドルコスト平均法」が効く(窪田真之)
出所:筆者作成

「荒れ馬」投信Bは、ドルコスト平均法の効果で、含み益が発生

 まず、投信Aの、投資成果を見てみましょう。スタート時、1年後、2年後に1万円を投じて1単位ずつ購入するので、合わせて3単位取得できます。3年後の基準価額も1万円なので、投資した3万円の価値は3万円のままで損も得もしません。


 次に、投信Bの、投資成果を見ましょう。スタート時基準価額が1万円の時に1単位購入するのは同じですが、1年後、基準価額が1万2,000円まで上がった時に、1万円を投じると、0.83単位しか購入できません。


 次に2年後、8,000円に下がったところで1万円を投じると、今度は1.25単位購入できます。

合わせて3.08単位購入したことになります(1+0.83+1.25=3.08単位)。


 3年後に、投信Bの基準価額が、投資開始時点の1万円に戻った場合、投資した3.08単位の評価額は、3万800円となります。3万円の投資が3万800円になったわけですから、800円の含み益を得たことになります。


 投資開始時と、3年後で、基準価額は変わらないのに、含み益が発生しているのは、なぜでしょう。それが「ドルコスト平均法」の効果です。


 等金額(ここでは1万円ずつ)投資を行っていると、投資対象が値上がりしたときには、少ない投資単位しか買えず、値下がりしたときに、たくさんの投資単位を買うことになります。高い時に少なめに、安い時に多めに買う効果で、長期的な投資成果を大きくすることができるのです。


 一方、投信Aは、最初から最後まで基準価額が1万円のままで、値動きがありません。したがって、投資した3万円は、3万円のままです。ドルコスト平均法の効果は、値動きの乏しいアセットでは発揮されません。


 このことから分かるように、積み立て投資には、荒れる資産ほど投資成果が大きくなる仕組みが、組み込まれているわけです。荒れる日経平均や米国S&P500に連動するファンドに投資して、短期的な値動きに翻弄(ほんろう)されずに、長期的な投資成果を獲得するには、積み立て投資が優れていると思います。


ファンドマネジャーにとってもうれしかった「積み立て」投資

 私は、25年間、年金・投資信託などの日本株を運用するファンドマネジャーでした。ファンドマネジャー時代に、とても残念に思ったことと、うれしかったことがあります。


 まず、残念なこと。私が運用していた公募投信(日本株のアクティブ運用ファンド)では、日経平均の高値圏で設定(買い付け)が増えるのに、日経平均の安値圏では、ほとんど設定がありませんでした。株は安い時に買って、高くなった時に売ると利益が得られるわけですが、公募投信では、残念ながら、その逆の動きが見られました。


 次に、とてもうれしかったこと。私が運用していたファンドが、DC(確定拠出年金)の運用対象となったことです。多数の企業に採用していただけました。DCでは、毎月、一定額の設定が入り続けます。加入者の方に、定時定額で積み立てしていただいたことになります。そうすると、日経平均の高値でも、安値でも、淡々と設定が入ってきます。


 日経平均が大暴落して世の中が総悲観になっている時、往々にして、絶好の投資チャンスとなっています。

ファンドマネジャーとしては、そんな時こそ、しっかりと投資を増やしてほしいと思います。ところが、公募投信では、そういう時に、設定が入ってきません。


 私が運用していたDCファンドでは、定時定額の積み立て投資が入ってきますので、リーマンショックで日経平均が大暴落し、世の中が総悲観になっている時でも、淡々と積み立てが入ってきました。


 誰でも、株は安い時に買って、高い時に売りたいと思うのでしょうが、言うのは簡単で、やるのはとても難しいことです。そうするためには、世の中総悲観になっている時に、株を買い、みんなが明るくなって強気になっている時に、株を売らなければなりません。


 それは、少しひねくれた人にしかできないことです。普通の素直な人は、みんなが明るくなっている時に、株を買いたくなり、暗くなっている時に、株を売りたくなるでしょう。


 普通の素直な人は、変に、いいタイミングで株を買い、いいタイミングで売ろうとしない方がいいと思います。それでは、どうするべきか? 私は、定時定額(例えば毎月1万円)の積み立て投資をしていくべきと思います。


(窪田 真之)

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