先週の株式市場は、高関税政策を推進するトランプ米大統領の言動やAI(人工知能)関連の花形株 エヌビディア(NVDA) の決算発表を受けて急落しました。
特に日本の半導体セクターは、2月25日(火)にトランプ政権が日本の半導体装置メーカーにも米国並みに厳格な対中国輸出規制を要求していると報じられたこともあり、主力株の 東京エレクトロン(8035) が13.1%の急落。
半導体研磨装置の ディスコ(6146) が18.0%安となるなど、東証プライム市場の週間下落率ランキング上位に数多くの半導体株が入りました。
26日(水)発表のエヌビディアの決算は前期業績や今期2025年2-4月期の業績見通しが市場予想を上回ったものの、今期の増収率や利益率の低下が嫌われ、同社の株価は前週末比7.07%安と続落。
27日(木)にはトランプ大統領がカナダ・メキシコに対して、3月4日(火)に予定通り25%関税を発動することや、すでに10%の追加関税を発動中の中国にさらに10%関税を上乗せすることをSNSで発信しました。
前日26日(水)には「カナダ・メキシコに対する関税発動を4月2日まで延期する」と発言していたトランプ大統領でしたが、たった1日でそれを打ち消した格好です。
これらが引き金となって27日(木)の米国株は急落。28日(金)の日本株は「暴落」に近い下落に見舞われました。
日経平均株価(225種)は28日(金)に一時前日比1,400円安まで下落。前週末比では1,621円(4.2%)安の3万7,155円まで値下がりしました。
機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は28日夜に前日比1.59%高と27日(木)の下落幅全てを取り戻したものの、週間では0.98%安でした。
ハイテク株が集まるナスダック総合指数は前週末比3.47%安と大きく下落。エヌビディアをはじめとしたAI関連やその周辺のデータセンター、電力関連株が急落相場最大の犠牲者になりました。
28日(金)には、ウクライナの鉱物資源権益に関する合意文書に署名寸前だったトランプ大統領とゼレンスキー大統領がロシアとの停戦交渉を巡って、メディアがいる前で激しく口論するという前代未聞の事態も発生しました。
3月第一週となる今週は、個人消費の不調で景気後退懸念が浮上している米国で雇用・景気関連の重要指標が相次いで発表されます。
5日(水)にはISM(全米供給管理協会)の2月非製造業景況指数が発表。
前回1月分はトランプ関税による物価高再燃への懸念から市場予想を下回っているだけに、今回も注意が必要です。
7日(金)には2月雇用統計も発表。前回1月の非農業部門新規雇用者数は前月比14.3万人増で予想を下回ったものの、失業率は4.0%に低下しました。
米国の景気指標は1月20日に始まったトランプ政権の過激な政策発動の悪影響がそろそろ出始める時期。思わぬネガティブ・サプライズがあるかもしれません。
28日(金)の米国株はトランプ・ゼレンスキー両大統領の「歴史的」(ロシア高官発言)といえる激しい口論や鉱物資源協定の決裂にもかかわらず、急ピッチで反転上昇しました。
とはいえ、3月に入って気分一新、上昇相場復活とはいえない1週間になりそうです。
週明け3日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比629円高の3万7,785円でした。
先週:AIデータセンター投資の減速やエヌビディアの増収率・利益率低下で半導体株急落!
先週は、2月22日(土)に米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本の大手5大商社株の買い増し方針を明らかにしたことで、 伊藤忠商事(8001) が前週末比8.6%も上昇するなど総合商社株が反転上昇。
株価が割安なバリュー株相場の再来かと期待が持てる展開で始まりました。
しかし、トランプ大統領による対中国半導体輸出規制の強化方針やカナダ、メキシコ、中国に対する高関税政策もあり、日米ともに軟調な展開に終始しました。
24日(月)には マイクロソフト(MSFT) が米国のAI向けデータセンターのリース契約の解約に動き出したというニュースも流れ、データセンターや電力関連株も急落。
データセンター向け光ファイバー製造の フジクラ(5803) が先週末比7.2%安、ITインフラ事業の成長で2024年に株価が前年末比93.6%も上昇した 日立製作所(6501) が10.6%安となるなど、AI関連株受難の1週間でした。
とどめを刺したのが26日(水)発表のエヌビディアの2024年11月-2025年1月期決算です。
決算自体は前期も今期2025年2-4月期見通しも予想を上回ったものの、今期売上高の伸び率は前年同期比65%増まで低下。一時は前年同期比2~3倍に達した驚異的な増収率の低下に対する警戒感もあって、エヌビディア株は大きく続落しました。
同社の株はいまだ100ドル超えの高値圏にありますが、今後も成長鈍化が続くようなら、さらに下落してもおかしくないでしょう。
日本の半導体株も、エヌビディアに半導体検査装置を販売する アドバンテスト(6857) が15.7%安、米国での巨額AIデータセンター投資計画を発表した ソフトバンクグループ(9984) が11.9%安。
ともに日経平均株価の組み入れ上位銘柄で全体相場に対する影響力が高いだけに、もし、このままAIバブル崩壊が進んだ場合、日経平均株価の足を引っ張りそうです。
AI関連以外では、米国の仮想通貨取引所「Bybit(バイビット)」が2月21日(金)に史上最大規模のハッキングに遭ったことやトランプ政権の仮想通貨政策を巡る不透明感から1ビットコインが8万ドルを割り込むなど仮想通貨が急落。
2月10日に10億円のビットコイン購入を表明していたスマホアプリ会社の gumi(3903) が前週末比11.3%下落するなど、仮想通貨関連株も大きく下げました。
しかし、3月2日(日)にトランプ政権がビットコイン以外の仮想通貨の戦略備蓄も進める計画を発表したことで、今週仮想通貨は急反発しそうです。
下げ相場の中でも、高額のQUOカード優待の新設を発表した子育て支援事業最大手の JPホールディングス(2749) は19.6%高。
同社の新設優待は3月・9月末に500株(投資金額約31万9,500円、3月3日9時30分時点の株価を参照)を半年継続保有すると各1万円のQUOカードが贈呈されるというもの。初回となる2025年3月末株主には半年間の継続保有条件はありません。
今週:トランプ高関税・政府リストラ政策の経済指標への悪影響は?米国景気減速による円高進行に注意!
今週は米国の景気・雇用関連指標が相場に大きな影響を与えそうです。
3月3日(月)にはISMの2月製造業景況指数が発表。前回1月分は2022年10月以来、2年3カ月ぶりに好不況の境目となる50を超えて上昇しただけに、今回も期待したいところです。
5日(水)にはISMの2月非製造業景況指数の他、給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の2月民間雇用統計も発表。
6日(木)には週間の新規失業保険申請件数の発表も控えています。
先週は2月22日(土)までの1週間の失業保険申請件数が前週比2.2万件増の24.2万件となり、失業者の増加傾向が米国株の下落要因になりました。
トランプ政権下では電気自動車メーカー・ テスラ(TSLA) の創業者でもあるイーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」が連邦政府職員の大量解雇を進めているだけに、今週も注意が必要です。
7日(金)には2月の米国雇用統計も発表。非農業部門新規雇用者数は1月の14.3万人増を上回る15.8万人増、失業率は1月と変わらず4.0%の予想です。
雇用指標は景気自体の減速より遅れて悪化する傾向が強いため、トランプ政権発足の影響はまだ出てこないかもしれません。
ただ、個人消費や物価指標は1月以降、トランプ政権の高関税政策に対する警戒感もありすでに減速傾向です。雇用市場にもその影響が出始めると、米国株の調整が長引く恐れもあるでしょう。
欧州では6日(木)にECB(欧州中央銀行)の理事会が開かれ、5会合連続となる政策金利の引き下げが予想されています。
欧州株はECBの連続利下げやロシア・ウクライナ戦争の停戦期待で2月18日にストックス欧州600指数が過去最高値を更新するなど、2025年に入ってからは絶好調です。
しかし、先週の米国とウクライナの鉱物資源協定の交渉決裂や欧州に対するトランプ高関税発動のリスクを考えると、少々浮かれ過ぎともいえます。
米国の景気減速は日米の金利差縮小による円高・株安要因にもなります。
先週は米国の景気減速懸念で一時1ドル=148円50銭台まで円高ドル安が進みました。
28日(金)のニューヨーク市場終値は1ドル=150円60銭台まで円安方向に戻して終了しています。
先週、米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りは4.4%台から4.2%台まで低下。
今週5日(水)には日本銀行の内田真一副総裁が静岡市の金融経済懇談会で講演を予定しています。
2025年に入ってからは、追加利上げに積極的な日銀高官のタカ派姿勢が目立つだけに、内田日銀副総裁の発言もドル/円相場や日本株市場に影響を与えそうです。
(トウシル編集チーム)