米国株は厳しい下落に見舞われました。AI(人工知能)相場崩落は自律調整、景気後退説は誇張、一見乱れ打ちのトランプ砲に深慮遠謀、そう考えると、2026年への勝算が浮かび上がります。


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著者の田中泰輔が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【米国株】ここからの勝算。リスクオフと(まだ)言う勿れ 」


今回のサマリー

●米国株は厳しい下落に見舞われた
●しかし、世界と他市場を見渡すと、リスクオフは主に米国の現象
●トランプ砲乱れ打ちによる暴落事故のリスクを排除はしないが…
●独り勝ちだった米国株、特にAI相場の自律調整と見れば、勝算あり


これってリスクオフ?

 米国株は厳しい下落に見舞われました。S&P500種指数は2月19日の高値から、3月7日に200日移動平均を割れ、同11日には調整局面入りのメドとされる直近ピーク比マイナス10%を一時超える下落となりました。ナスダック総合指数も11日に一時マイナス14.7%に至り、弱気相場入りのメドマイナス20%も遠くはありません。


 株価が落ちるたびに、AIバブルの破裂、景気後退リスク、トランプ米大統領のかく乱が原因として声高に指摘されます。米国がこのまま本格的な弱気相場に陥るなら、世界もリスクオフにさいなまれるはずです。


 しかし、世界の市場を見渡すと、リスクオフ感が限られていることに気づくでしょう。米国株に連動しやすい日経平均株価こそは、最近の3万8,000~4万円レンジを下抜けたため、日本の投資家は米国のリスクオフ感に同調しやすいと言えます。


 ところが、欧州や中国の株は堅調です(図1)。リスクオフで選好されやすい米国株、円、金の上昇も、これまでのところは相対的に控えめでした。

どうも世界に広がる深刻なリスクオフ症状という感触が、少なくとも現時点ではないのです。


図1:米日株下落 vs 欧中株堅調
米国株ここからの勝算 リスクオフと(まだ)言う勿れ
出所:Bloomberg

米株安3大リスクのリアル

 今回の米株の下落には、主にAI相場迷走、景気後退不安、トランプ砲の3大リスク要因を指摘してきました。そして、それぞれのリスク要因が、相場の短期展開には折々厳しいものでも、中期では深刻視するのは尚早で、むしろ勝機、活路もイメージできることをお伝えしてきました。改めて整理します。


AI相場迷走

 AI需要自体は今も旺盛です。そしてAI相場をリードしてきた企業の業績は依然として好調です。しかし、将来の成長期待が高く、ファンダメンタルズが良好な企業の株価は、早く速く高く上伸し、自ら売り逃げによる下落圧力を高めてしまうのが、相場の基本力学です。


 AI相場の盟主 エヌビディア(NVDA) の株価は、2024年8月、11月の好決算で迷走し、2025年2月決算はほぼ満点でも急落しました。そして、盟主NVDAの迷走は、AI領域の周縁銘柄を、当初こそ物色買いで持ち上げましたが、結局下落へと引きずり込みました。


 相場急落後には、上値をコストとする含み損ポジションが大量に発生し、下げ場面では神経質な追っかけ売り、復調場面では戻り売りで上値を重くします。しかし、AI関連の需要がまだまだ旺盛で、業績が好調なことは、昨今の相場下落で割高だったAI銘柄が値ごろで買いやすくなったことを意味します。


景気後退不安

 最近の景気指標で悪化が目立つものに、ミシガン大学とコンファレンスボードがそれぞれに行った消費者調査(図2)、アトランタ連邦準備銀行のGDPNow(図3)があります。いずれもトランプ関税を警戒してゆがめられたもの、つまり一時要因によるアヤと判断され、数カ月は慎重に観察する必要があります。


図2:消費者の景況心理が悪化
米国株ここからの勝算 リスクオフと(まだ)言う勿れ
出所:Bloomberg

図3:GDPNow急落は関税前の駆け込み輸入増
米国株ここからの勝算 リスクオフと(まだ)言う勿れ
出所:Bloomberg、田中泰輔リサーチ

 しかし、株安が進むと、その理由付けのために、これら指標を引き合いに、景気後退リスクなどと誇張されがちでした。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、7日に「景気は順調」と述べましたが、他の多くの指標は依然として底堅さを示しています。


 米景況感は、2024年1~4月には堅調、5~9月には陰って、やがて景気後退かとされ、10月~2025年2月前半には堅調、そして昨今は景気後退か…と、相変わらずの明暗変転ぶりです。株安による不安と、景気指標の解釈を混同しない、冷静な目が必要です。


トランプ砲

 トランプ大統領は就任直後から、高関税をディールの道具として、貿易のみならず、地政学に関わる国際秩序も一気に変更させようという勢いです。市場は、彼の一言一言に振り回されています。先行きの不確実性を嫌う市場は、AI相場の迷走、景気指標の悪化と相まって、不安を募らせ、トランプ発言に過剰反応しがちになっています。


 トランプ大統領が景気後退リスクについて問われた時、大きな変革を目指す中で、過渡期の景気や株価を気にしない趣旨の発言をしました。これを相場は、景気後退や暴落も辞さない構えとばかりに不安視し、劇的に下落しました。しかし、彼が景気・株価を意識していないはずはないでしょう。


 大統領は、任期4年のうちに歴史的な大変革を実現させるべく、2026年11月の中間選挙で共和党を上下両院で勝たせる必要があります。そのための政策配分として、2025年はまず、景気や市場にマイナスの影響が出得る関税でお膳立てをし、年後半から来年へ、温存している減税と規制緩和で、景況・市況を高揚させる段取りと推察されます。


そこに勝算あり

 つまり、AI領域からの株式相場の下落には、自律調整の面が小さくなく、買い場が提供されるという見方が可能です。景気については、さらにデータを確認し続ける必要がありますが、昨今の景気後退説は株安の不安と混在して誇張されていると判断されます。トランプ砲は一見して乱れ打ちが続くでしょう。

しかし、そこに深慮遠謀に基づく政策配分があるとすれば、2026年にかけて株式相場は良好と期待されます。


 もちろん、トランプ政権の無謀な振る舞いが、相場にアクシデントのような暴落を招くリスクも、完全には排除されません。しかし、その場合には、パウエル・プットも、トランプ・プット(プットは相場の下げを阻止する利下げや減税などの手だて)がさすがにあると考えます。


 再仕込みの余力を残す投資家なら、有望銘柄の「値ごろ」の妙味と、重く神経質な地合いとトランプ砲を踏まえての「時機」をどう組み合わせるかの問題になります。結論は、昨今の相場下落は厳しくても、「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育つ」という相場格言を踏まえて、前向きな目線をまだまだ持って臨もうということです。


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(田中泰輔)

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